7月21日(日) 広島市西区横川町にある蕎麦屋「横川橋 廉次郎」でもりそばを食べる。

広島市西区横川町にある蕎麦屋「横川橋 廉次郎」でもりそばを食べる。


最近は食事に気が回らない。というよりも、時間と金を理由に、毎日の食事習慣が変わっている。誰だって、好きな時においしい物を食べて、旨い酒を飲みたいだろうが、そうもいかない。何かやりたいことがあるならば、何かを削らないといけない。削るとなると、第一に衣服で、次に食事となってしまう。


近頃は家で生野菜を食べる回数も減り、近所にある店の唐揚げ定食を比較することになっていて、本日の牛丼に使われている肉の状態と味付けをみるばかりだ。あとはスーパーの半額シールの蕎麦やうどんか、2割シールの弁当になる。以前は弁当をほとんど買わなかったが、時間の節約を目的とすると、これほど優れた食べ物はない。安くておいしい弁当が、今の自分に最適な食事だろう。


それでも、たまにはよりおいしい物を食べたくなる。しかし悠長に食べる時間と神経を取る気にもならないから、どうしようもないままだ。


最近は、横川に新しくオープンしたつけ麺屋に行ったが、なんだかスープはカレーに含まれる野菜の甘みを想起させるような味で、味付けメンマも同様に甘く、悪くはないが満足はしなかった。


今日は東広島へ行ったので、くらら近辺で何かおいしい物を食べようと思うも、日曜の昼間に空いている店がほとんどなく、ぐるりと歩いた末にたどり着いたのは駅近くの居酒屋のランチによるラーメンで、すっきりした醤油とあごか何か別の魚のだしによる悪くない味だったので、ついでに5年物の瓷出しの紹興酒を飲んだが、どうも満足しなかった。


何か、小さくていいから、コース料理を食べたい。そう思うも、足は見向きもせず、東広島からの帰りに横川の商店街を歩いていると、ふと、つけ麺屋の向かいの店に、休日の昼に人が並んでいたのを思い出した。のぞくと蕎麦屋で、営業している。


そのまま入ってみると、淡い色の木材を基調にした落ち着きのある店内はカウンターがあり、おいしい日本食でも提供されそうな格調高そうな店だった。メニューを見ると、本日の料理で、土地の食材を使った肉や魚の一品料理がいくつもあり、悲しくなった。手が出ない。鱧の料理に唐揚げ定食が算数で示される。こうなったらおしまいのような気がするも、生きるというのは、我慢という算術の連続により成り立っているだろう。


もりそばだけを頼む。蕎麦の風味が強めに打ち出されたこしのある細い麺で、つゆは鰹節が全面に出ている。わさびはやや繊維が残っているように感じるも、きっちり擦れていて、クリーミーな辛みも新鮮で、口の中にぐっときて溶ける。岩塩の入ったミルも一緒に用意されて、しっかり蕎麦の味が残った麺に良く合う。蕎麦湯も同様に風味が残り、荒っぽさや野趣の二つ手前ぐらいにある。蕎麦茶もほうじ茶と同種と思わせる香しい蕎麦の味があり、“湯飲みが熱くなっているので、お気をつけください”という女性店員さんの気遣いは、実際は熱すぎず温すぎない、味わうのに適した温度にあった。


1杯のかけそばという小話を子供の頃に聞いたことを思い出した。大盛りでない1盛りのもりそばを味わって食べる自分はわびしいだろうか。そんなことはないだろう。わびしさは自分の心の状態と態度を言うのであって、欲望勝手な我儘で、大切な誰かの為に我慢しているわけでもない。今自分にあるのは、贅沢に浸かってぐずぐずしている、貧相な愚痴でしかないのだ。


食事後に、今日観た春風亭一之輔さんが言っていた、“酒飲みはやっこ豆腐にさも似たりはじめ四角であとはぐずぐず”を思い出し、西条で飲んだ酒がまだ残り、こんなことを書かせているのだと、本川小学校で投票したあとの、平和記念公園のベンチで文章をこしらえた。

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