7月13日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでリノ・エスカレーラ監督の「さようならが言えなくて」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでリノ・エスカレーラ監督の「さようならが言えなくて」を観る。


2016年 スペイン 97分 カラー Blu-ray スペイン語(日本語字幕)


監督:リノ・エスカレーラ

脚本:パブロ・レモン

出演:ファン・ディエゴ、ナタリー・ポーサ、ロラ・ドゥエニャス、パウ・デュラ、ミキ・エスパルベ


人物の背中に焦点の当たった画面がそれほど多いわけでもなかったはずだが、そのシーンがやけに記憶に残っているのは、この映画で登場する人物の誰もが他人には理解されない誰しもが持ち得る孤独でしかいられない領域をカメラの絞りで抽出されているからだ。


肺ガンで脳にも転移している父親、コカインらしきものを吸引するバルセロナに住む心の不安定な娘、子供も育ってきたので自分のやりたかった演劇を中年になってから習い始めるその姉、勉強を好きだがそればかりで自分の勉強場所のことを平気で口にするその娘、その父親は職がない。前に観たズビャギンツェフ監督の「ラブレス」や、オストルンド監督の「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のように、現代社会においての人と人との関係を、遠くない死が決定した末期ガンの父親を中心に痛ましく描かれる。


ほのかに青みを帯びた画面がその冷たさを湛えている。意味を解せない寓意的な台詞もあり、説明的でない演出も少なくないが、登場人物の表情や会話が意味深長に重要なメッセージを伝えている。


自由、この言葉について概念だと難しく語る場面が主人公である女性の登場と共にあり、それがこの映画のあらゆる演出を説明するようでもある。反抗的な性格だと自己を分析するシーンもその後に続くが、神経質で突発的な行動の裏にある心こそ大切なのだろう。常習的なコカインの吸引シーンが何度かあるも、心配してくれる同僚の男性と夕食を共にする前のシーンでは、おそらく鼻から吸い込まずに便器へ流し、テーブルでは向かい合って自身をさらけ出して楽しみ、夜のバーでは酔った饒舌で家族と過ごす重要性を訴えるも、同僚はそんな相手の姿に冷めていて、時間と空間の共有を区切ろうと窺っている。この場面こそが、結局他人で、誰にも理解されないわけではないが、簡単には受け入れてもらえない人間関係の機微が表れている。


その難しさがラストシーンに凝縮される。感情に突き動かされて、自己の荒ぶる儘に行動して、肝心な時を失う。程度は甚だ異なるが、怒りに我を忘れた経験が痛々しく自分に思い出される。


この映画はとても寂しい作品で、誰もが抱えて生きて行かなければならない辛さを諧謔で誤魔化さずに描き出している。

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