6月28日(金) 広島市中区白島北町にある広島上野学園ホールで「~ライナー・クスマウル・メモリアル・ツアー2019~ ベルリン・バロック・ゾリステン with 樫本大進&ジョナサン・ケリー」を聴く。

広島市中区白島北町にある広島上野学園ホールで「~ライナー・クスマウル・メモリアル・ツアー2019~ ベルリン・バロック・ゾリステン with 樫本大進&ジョナサン・ケリー」を聴く。


オーケストラ:ベルリン・バロック・ゾリステン

コンサートマスター:ヴィリ・ツィマーマン

ヴァイオリン:樫本大進

オーボエ:ジョナサン・ケリー

フルート:スザンヌ・ホプファー=クスマウル


J.S.バッハ:フルート、オーボエ・ダモーレとヴァイオリンのための三重協奏曲 ニ長調 BWV1064[ヘルムート・ヴィンシャーマン版]

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050

J.S.バッハ:オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1060R

A.ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」


ベルリン・フィルという有名なオーケストラのコンサートマスターと首席オーボエ奏者が広島に、それもバロック音楽の楽団と来るというのでこの演奏会を楽しみにしていた。


安芸太田町でウィーン・フィルのコンサートマスターであるフォルクハルト・シュトイデさんの音色を間近に聴いて、こんなにも音圧があり、表現の幅と奥行も広く深く、パッションも段違いに動いて、それでいてすべてが統御されながら余裕がありあまっていたことに驚かされた。ウィーン・フィルとベルリン・フィルを二大巨頭なんていえば安直なくくりかもしれないが、伝統と革新をそれぞれにイメージを持つ自分は、それぞれのコンサートマスターの音色を聴いてみたかった。


今日は2階席最後列だったので、ステージを遠くに見下ろすような場所だった。オーケストラが登場すると、広島で2回目に聴いたコンサートがここで、フェニックスホールで聴いた広響に比べると随分と音の良いホールだと思った記憶が、聴衆の拍手の響きで思い出された。演奏者の表情は見えないが、こういう音の響きは広響の定期演奏会では聴けない。


前半にバッハを3曲を聴き、優れた音源を聴くような違和感のなさがあった。あまりに自然に音が入ってきて、どの曲も第1楽章は、快活とまではいわないが、健康的な演奏がスムーズに調和していた。広島の演奏会で普段聴いているよりも、さらに統一感のあるハーモニーは異なった音色にあり、純真なまでに化粧を落とされていて、無雑ではあるが知性があり、機械のような正確な技術で音を奏でていた。第2楽章は、沈鬱、悲哀、暗澹、なんて言葉を浮かべたが、それらはどれも正しくない。人生を忍苦する響きがあり、3曲どれも、自分はこの楽章が好みだった。空の上まで響き渡るような管楽器の音色は、叙情性を含まない信実な心の祈りを感じる。


ヴィリ・ツィマーマンさんがコンサートマスターだった前半2曲に比べると、樫本大進さんがソリストとして登場した3曲目は、より動きがあった。樫本さんはやや冷たさを感じるほどに技術があり、動きは優れて機敏で、表現の幅は大きくも抑制されていた。さすがに格が違うと思った。解釈が少し異なるのだろうか、第3楽章は全体がより躍動して演奏されたので、より引き込まれるようなステージ姿となり、技術と経験の高さが一体となっているので一人一人の技量の深さを味わいやすかった。


楽曲の表現が異なるので、オーボエとフルートはより遠く、静けさを持った自制心のある音色に聴こえた。歌うようにではなく、透明感をもって響かせるように鳴るので、宗教的な慎ましさで心が洗われるようだ。特にチェンバロの生の音色には聴き慣れていないので、鍵盤楽器であるも電気信号のような細く優しい弦の響きが、シタールやバラライカのイメージを覚えさせる。通奏低音で常に支えながらも存在感はあり、特にブランデンブルク協奏曲第5番の第1楽章でのソロのパートは、荘厳なパッションがある演奏で、そこからオーケストラのつながりを初めて生で聴いて、感動を覚えてうなずくほど素晴らしい効果があった。


後半のヴィヴァルディは有名な「四季」だが、抜粋ではなく、春から冬まで通して演奏された。樫本さんのソロがステージ中央を幅広く動き、オーケストラをコントロールしながら、緻密な技術で良く通る音色を響かせる。甘い、優しい、情熱的などを超えた、純粋に美しい音色が伸び、夏や冬の細かく素早いパッセージも正確かつ表現豊かに演奏していて、前半よりも自然や人間の情感を表したオーケストラのハーモニーはより動感に満ちている。粗や濁りのない統合された線の細く豊かな音楽で、音の輪郭が二階席からはっきりと区別できて、ホールに心地よく反響していた。


さすがの演奏会だった。フォルクハルト・シュトイデさんとは異なった鋭さを持った樫本大進さんの演奏は、違った個性の極めて優れた音楽性のかたまりだった。やはりコンサートマスターだから、オーケストラへの影響力の大きさがよく見て取れた。指揮をしても、おそらく素晴らしい音楽を作るのではないだろうか。


前半だけで1時間近くあり、後半も40分くらい演奏された。内容は豊かで、量もあり、洗練された質の高い演奏会だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る