音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集
6月20日(木) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団 Music for Peace Concert」を聴く。
6月20日(木) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団 Music for Peace Concert」を聴く。
広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団 Music for Peace Concert」を聴く。
指揮:クシシュトフ・ペンデレツキ
指揮:沖澤のどか
ヴァイオリン:庄司紗矢香
管弦楽:広島交響楽団
客演
ファゴット:ドーテ・ベニケ(デンマーク国立交響楽団)
ホルン:ラッセ・マウリツェン(デンマーク国立交響楽団)
ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調(指揮:沖澤のどか)
ペンデレツキ:平和のための前奏曲(指揮:クシシュトフ・ペンデレツキ)
ペンデレツキ:ヴァイオリン協奏曲第2番「メタモルフォーゼン」(指揮:クシシュトフ・ペンデレツキ)
アンコール
バッハ:無伴奏ソナタ第3番~ラルゴ
日本・ポーランド国交樹立100周年(1919ー2019)記念事業としての公演だった。夏にはワルシャワで、来年の春には東京でも公演があり、秋山さんや下野さんに、ネルソン・フレイレさんやマルタ・アルゲリッチさんなどが広響と共演する。
今日は現代の作曲家として著名なクシシュトフ・ペンデレツキさんだが、この人の楽曲は聴いたことがない。聴いたことがないからどのような人かわからず、作曲家本人が自作の楽曲を指揮するのもどれほどの出来事かつかめない。これが細川俊夫さんだったら……、どういう事なのか少しはわかるので、それと同じか、それ以上の貴重な体験になるのだろう。
85歳という高齢なので、ペンデレツキさんは予定を変更して自身の楽曲の指揮に集中することになり、代わりに沖澤のどかさんがベートーヴェンの曲を指揮することになった。
交響曲第8番は、第4番との区別がはっきりとせず、どちらもポケットスコアを持って耳と目で追ったことがあるのに、自分の好みに合わないからか、覚えきれない。第3番が好きで、次に5、6、9と知っていて、1と2はそれほど知らない。しかし、少し前に下野さんの指揮で第1番を聴き、自分が知らないだけであって、様々な特徴を聴き知ることができた。その曲を基準にした当時の音楽の前後の影響や、すでに表れているベートーヴェンの特徴を感じることは、発見によって得られる新鮮な感慨がある。
沖澤のどかさんの指揮は、退屈で興味を持てないと思っていた曲に細かい印象を与えてくれた。第1楽章から、伸びやかな弦のフレージングが感じよく、秋山さんや下野さんとは違ったテンポがあり、各パートの音をじっくり鳴らすよりも、清新に響かせていて、だからといって疎かにするような速さではなく、かといってとろくもなく、若さが持つ新進な性質がよく表れていたようだった。それでいて列車のように規律のあるアクセントで進行して、それが揺れるのではなく、ざっ、ざっ、ざっ、と音が膨れ上がり、壮大な調子を作り上げるので、下野さんが推薦するだけあって、女性だから、それほど大柄ではないからといって、指揮そのものはむしろ性別を感じさせない高い音楽性があった。
第3楽章の、客演のラッセ・マウリツェンさんのホルンの音色は、普段の広響で聴くよりも濃く、それでいて細やかな叙情性が豊かに帯びていて、非常に聴きごたえがあり、クラリネットやオーボエもそれに合わせて良く、また客演のドーテ・ベニケさんのファゴットは、交響曲第6番の第2楽章の音色を思い出させる牧歌的な調子があった。
第4楽章では、フーガに、単純でない構成にこの曲の素晴らしさを知ることができた。こうして好きでないと思っていた曲に良さを発見していくことが、多角な視点を得ることになり、より柔軟な感受性を持つことに繋がるのだろう。
ペンデレツキさんの「平和のための前奏曲」は金管楽器と打楽器のみの編成で、ホルンや、トロンボーンの音色がいくつにも響いた。絃楽、木管の空いた席があり、指揮台から金管までは距離があるので、その光景から音が出されるのは珍しく、荘重な響きが遠くから打ち鳴らされるようだった。
「ヴァイオリン協奏曲第2番」は、正直わからなかった。40分を超えるという長さに、単一楽章で休みなく、ソリストの庄司さんが全面に演奏するので、ソリストへの負担は凄まじいほどだった。オーケストラは一斉に音を鳴らすところが少なく、大体は各パートが音を鳴らし、分散する印象が強かった。ベルクからショスタコーヴィチ、それが自分の持っている経験からの感想で、この曲への感覚を持っていないせいか、それに仕事後の感受性の低下もあり、冗長に感じてしまい、ソリストの庄司紗矢香さんの職人を超えた名人らしい技量と表現力に見入るばかりだった。ペンデレツキさんの意図する音の効果や表現はほとんどわかっていなかっただろう。実体験の乏しさと、新しさに直面するという慣れのなさが、無理解を生んでいるような気がしてならなかった。ただただ、驚くべき音色と動きを見せる庄司紗矢香さんに唖然とするだけだった。
アンコールにバッハを演奏されて、激しい運動後のストレッチのように弾きこなす姿と音色に安らぎ、ふと、音楽を聴いた。音楽、この言葉がこれほど意味をなしてはまる音を聴くのはそうそうない。余計がない、数学的な美しさの音だけがあった。
これからの指揮者に既知を見せられ、大戦を経験した音楽家に未知を示され、卓越した演奏家に音楽を聴かされた。終わってみれば、貴重な公演だったと知らされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます