5月19日(日) 広島市中区上幟町にある広島県立美術館で特別展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」を観る。

広島市中区上幟町にある広島県立美術館で特別展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」を観る。


会期が2ヶ月以上あろうがなかろうが、よほど関心のある特別展以外は会期終了間際に足を運ぶことが多い。今回も、アカデミイ書店金座街本店のまとめ買いで安く手に入れた1990年から1991年の「キヨッソーネと近世日本画里帰り展」を読んでいて、北斎、国貞、広重の人物画が面白く、その中に国芳の描くアルチンボルドのような人物画もあり、今回の企画展はとても気になっていたのだが、やはり美術館に行くのに腰は重たくなる。コンサートや舞台と違って、自分で行く日を決められるから、どうしても後伸ばしにしてしまう。音楽や劇と異なり、自分で観賞時間を決める絵画という作品に向かうのは、受動的でないから、受け身気質の自分にはついつい待たせてしまうのかもしれない。


この企画展は作品リストがないのですこし弱った。代わりに写真を撮れるのだが、カメラをロッカーにしまってしまった。


1、ヒーローに挑む

2、怪奇に挑む

3、人物に挑む

4、話題に挑む

終章、「芳」ファミリー


と分類されていて、パンプレットにあるとおり約150点の作品が展示されている。主となるのが歌川国芳で、次に弟子の月岡芳年と落合芳幾と続き、それから他の弟子の作品がいくつか展示されている。


このコレクションの特徴となる武者絵から始まり、妖怪や血なまぐさい刃傷沙汰、それに日常のちょっとした瞬間の人物、それから動物を借りた寓意画、そして弟子の絵と続いて終わる。


製作年と色の刷り、保存状態で作品の印象は変わるが、国芳の若い時のは、同じ題材の作品である「宇治川合戦」で比べると、平面らしい構図の中に歌舞伎のような派手な躍動感が目立ち、後年になると構図に遠近感が表れて、色合いも深みと落ち着きがでてくる。互いに争って敵陣地に辿り着こうとする武士の姿をどのように描くか、若い時の作品のほうが血気にはやり、戦いの場での臨場感は伝わってくるが、後年の方はより現実感があり、脚色を剥いだ実際の川渡りとしてある。幕末に生きた国芳の方向性が伺い知れる。他の作品にも、西洋画の影響を受けたというより、わざと拝借したような画風もあるので面白い。


芳年は若い時はやや荒い作品も目立つが、中年にかかると洗練されていくのがはっきりとわかる。西洋画の影響が表れていて、浮世絵らしいのっぺりした顔立ちではなく、女性の顔に写実的な表情が見えたり、構図や動きに西洋画らしい遠近とドラマ性もみえるようになる。自分はこういう西洋の影響が混じった作風があまり好きでないと思うも、無駄な線はなくなり、構図と色合いは研ぎ澄まされていて素晴らしいから、一概に無視することはできない。


二人に比べると展示作品数の少ない芳幾は、芳年よりも線や色合いはやや淡く、無理に言えば柔らかい印象を受ける。国芳の弟子に対する評価が展示されていて、まるで孔子のように、“芳年は不器用だが熱がある、芳幾は器用だが芳年の半分でも熱があれば”のような意味のことを言っていて、自分の印象と異なることに驚いた。芳年も器用だと思ったら、たしかに若い時の作品は未熟で不器用にみえる。しかし熟してから芳幾は器用と思えるほど精緻に線と色を描いている。浮世絵の持つデザイン性の魅力を遺憾なくみせて、服飾のテキスタイルなどは目を奪われるほど綺麗な質感が出ている。


パンレットに記載された作品数ならば、この企画展は一つ一つにあまり時間をかけると途中でバテると思い、わりと流して観ていた。来場者も少なくなく、そう落ち着いて観ることもできなかったのもある。それでも見ごたえの多い作品ばかりで、勿体無いという想いが残っていた。


良いなと思った作品は、「二十四項童子鑑」、「源三位頼政鵺退治」、「宇治川合戦之図」、「八犬伝乃内芳流閣」、「敵ヶ原大合戦之図」、など挙げればきりがないくらいにある。


その中でも特に見ごたえがあるのは、「英名二十八衆句」で、これは芳年と芳幾による凄惨な作品の連続で、構図、色合い、そして人物の表情が素晴らしい。特に江戸の文化を感じられるように、人殺しをする人間の表情に、迷いなく相手を仕留めるおぞましさがあり、ためらいなどのやわな心理は一切存在しない凄さがある。


掛け軸の「立美人」は版画ではない肉筆なので、その色の細かいニュアンスは版画に慣れた目に異質なものとして映り、その生彩は見事に美しく、肌色の顔の血の気や、優美な色彩の着物の青の細やかさなどは花弁を観るような顔料の肌理がある。


そして国芳の亀や将棋駒などの寓意画は、大きな器による才能の闊達さが表れていて、実に気分の良い作品になっている。


浮世絵で有名な風景画は知っていたが、最近は人物画も面白く観れる。これは落語の影響で、やはり背景となる知識や感覚があると、楽しみは増すのだろう。能楽や神楽で描かれる絵の題材は知っていても、髷の形や、着物の模様や種類などがもっとわかればと、ガラス細工のような線と凛とした色合いを観ながら、羨ましくなった。

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