3月3日(日) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第388回定期演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第388回定期演奏会」を聴く。


指揮:チャールズ・オリヴィエリ=モンロー

ヴァイオリン:青木尚佳

客演コンサートマスター:塩貝みつる


ドヴォルザーク:序曲「オテロ」

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調

スメタナ:弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」(ジョージ・セル編曲 オーケストラ版)

アンコール

山田耕筰:この道(今井正 編曲)

ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第8番


この日の演奏会で、広島交響楽団の2018.4~2019.3シーズンが終了する。


マルタで生まれ、カナダで育ち、チェコで実績を積み上げてきたというチャールズ・オリヴィエリ=モンローさんは、ドヴォルザークの序曲「オテロ」で、その経歴を証明する。


この曲はほとんど知らないが、ドヴォルザーク特有の甘美になりすぎない素朴で美しいメロディーと、高らかな金管が無理なく奏されていながら、リズムは穏やかに、あせることなく、少し冷たく透き通る叙情を表していた。特に木管楽器が異なり、小鳥のように澄み切って鳴らされていた。演奏会に入りきれずに終わることの多い前半の最初の曲で、これほど集中して聴いたのは珍しい。それほど細かく曲を組み立て、広響メンバーと緊密にコミニケーションをとって表現を作り上げたのだろう


ヴァイオリン協奏曲でこの指揮者さんの腕前はさらに明らかにされる。ヴァイオリンの青木さんは、凛として説得力のある、中心にどっしり構えるコシのような音が足りなく思えたが、技術は文句なく、柔らかい音でありながら、おもねるような甘い色っぽさはなく、チャールズ・オリヴィエリ=モンローさんの振るチャイコフスキーと相性が良かったように思えた。第一楽章から、緩急でいえば、緩のところが事細かに、丁寧にコントロールされていて、各パートの音は明確な音量でもって役割を保ち、暗さや憂鬱を見せることもあるこの曲で、春ののどかな夢のような雰囲気に仕上がっていた。幾分狂気でも混じりそうなおどけた春の調子も除外されていて、あくまで良好で健全な空気感にとどめられていた。それが柔らかくも、技術のしっかりした、あせったり、変に見せたりしない青木さんのヴァイオリンの音色を上手に引き立てながらも、オーケストラが前面に演奏されるところでは、チャイコフスキーの甘美なメロディーが一斉に色を持ち、リズムの早くなるところはスラブ人らしい躍動と緊迫で音符を濃く縮めていくも、恐ろしさや脅迫感は漏らさない。あくまで優しく出来上がっている。


それは第二楽章も同様で、やや細かすぎるかもしれないと感じる点もあったが、おっとりした叙情とゆらゆらする陶酔感は、まるでスローモーションのようにはっきりと音を紡いで画面に表されていて、木管楽器の音色、フルートもオーボエも、クラリネットも、ファゴットも、なにか森の魔法に包まれたように純朴な音色で問いかけるようだった。まるで濁りのない眼で見つめるように。


そして第三楽章は陽気に、元気に、生き生きと駆け回り、朗らかにこの曲は終わった。


細かに音を組み立てる指揮者さんだとしても、初めての広響との演奏会で、よくもこれほどにニュアンスを伝達できたと驚いた。


後半のスメタナは、前半と違って音圧がぐんと高まり、チェコで指揮してきた矜持を感じる内容だった。それでも派手に音を鳴らしたりせず、バランスよく、微細な音の細やかさを大切に保ちながら、鋭く激しいティンパニーを鳴らしたり、高らかに喜びを歌い上げるヴァイオリンを指揮していた。


チェコは、スラブ系の国のなかでも、特に森の叙情性を持った国に思える。ポーランドやウクライナ、ロシアとは違い、より控えめな気がする。当然バルカン半島の国々とも違う。イジー・トルンカのアニメーションがそう思わせているのかも知れないが、森を歩いてチェコの人と一緒にきのこを探した思い出がふと蘇る。


カナダ育ちなのに、よくこれほどにチェコらしい音を表現できるのだろう。管楽器が森の中で小鳥の声を響かせる映像がありありと浮かびあがってしかたなかった。もしかしたら、カナダの森がそうさせたのかと考えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る