3月1日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで鈴木清順監督の「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで鈴木清順監督の「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」を観る。


1963年(昭和38年) 日活 88分 カラー 35mm

監督:鈴木清順

出演:宍戸錠、笹森礼子、川地民夫、金子信雄


今月の広島市映像文化ライブラリーは鈴木清順監督特集をする。日活を代表する監督らしく、この劇場で東宝や松竹の映画を観たことはあるが、日活は記憶にない。観たことはあるのかもしれないが、制作会社を気にしていなかった。


自分にとって古い映画を観るのは、親類のおじさんの昔の写真を観るようで、「ビルマの竪琴」の三國連太郎で「釣りバカ日誌」とは違った端正な顔立ちに驚き、この映画で宍戸開のお父さんの若き姿に、アクのあるイメージと、名前が想起させる精力の強い脂ぎった顔があった。


冒頭からロックかジャズかわからないにぎやかな音楽が流れ、黒人男性が登場して意表を突かれるが、それからはごろつきという言葉どおりの昔の日本人のヤクザかチンピラが大勢で拳銃から火を吹きまくり、落ち葉を払うように派手に倒れ、取引現場での凄惨である場所で、ペプシコーラの瓶を大量に載せた車が走り、コーラの瓶が弾丸に撃ち抜かれていくつも割れ、火花が散り、液体がぼとぼと溢れて、笑いがとまらない。なぜこんな車に載って銃撃戦をするのか。冠婚葬祭など、笑ってはいけない場面はいくらでもあるが、映画館では仮に笑ってはいけない場面があっても、声を出さずに笑うならば許されるだろう。


そして、金管楽器の流れるジャジーな音楽と、燃える激しい赤いフォントによる「くたばれ悪党ども」という、すでに沢山くたばったに違いないはずなのに、くたばり足らないことを予期させるタイトルコールで、始まったばかりなのに、とどめを射されたと思ってしまった。それほど意表を突かれる冒頭の大仰な銃撃戦だった。


ふぐのような頬と額に皺の寄せた宍戸錠が、ダンディな、野暮でありながらスマートな役を演じるも、なぜか三枚目に見えてしまう。古典音楽の作曲家のくるくる巻きの髪型を見て、おかしさを覚えるも、当時はその型が流行であったことは確かであるのと似たように、頬のふくれっ面が刑事ものの映画やドラマのスタンダードで、格好の良い型だったのかもしれない。しかし、自分の趣味に合わない。フランス映画のダンディな映像や、アメリカ映画の陽気なスマートさにはほど遠い。


大袈裟で、やや強引な物語の運びに対しての無神経なほどの叙情性の欠如などを指摘するのではなく、昔を知らない自分は、先月に観たソ連の映画で違う星を認識するように、両親が青春を過ごしたであろうチン電の風景や、オート三輪が走る町並みを眺めていた。ただし、こち亀で知ったオート三輪の実際に走る映像には、解体屋のトラックが積むよりも多くのごろつきを満載していて、瓦礫や銅線が宙にはみ出るのではなく、刀やライフルが突き出るという物騒なイソギンチャクのような体だった。今の時代にこんな演出は存在できないだろうから、許容範囲のおおらかな時代だったのだろう。


好みを抜きにして、昔の映画には自分の知らない景色と、古い役者が存在しており、それだけで観ものとして成り立ってしまう。

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