2月24日(日) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで広島交響楽団「Music for Peace Concert」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで広島交響楽団「Music for Peace Concert」を聴く。


指揮:クリスティアン・アルミンク

ティンパニー:マティアス・ミュラー

ピアノ:小曽根真

トランペット:金井晶子

管弦楽:広島交響楽団


グラウプナー:シンフォニア ヘ長調

ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番 ハ短調

ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調

アンコール

ふるさと変奏曲(マティアス・ミュラー編曲)


プロの交響楽団が身近にある有り難みを実感する最近だ。定期演奏会だけでなく、楽団員による室内楽など、様々な面で良質な生の音楽を生活に与えてもらえて、感謝がつのる。


クリストフ・グラウプナーは初めて聞く作曲家で、1683~1760年というバロック期の人で、膨大な作品を残した人物らしい。


シンフォニアヘ長調は、古い曲=バロック、という自分の持つ知識足らずの固定観念にぴったり当てはまる曲調だったが、ゲヴァントハウス管弦楽団の首席ティンパニー奏者のマティアス・ミュラーさんの打音がオーケストラの半分の席を埋めるようで、バロックの曲でこんなにティンパニーの音を聴いたことはなかった。規模の小さい管弦楽の編成だが、音は無駄がなく、軽やかに、しかしティンパニーが存在感を持って鳴らされていた。馴染みのないティンパニを叩き、曲の間でチューニングもしていたが、あれはバロック・ティンパニーという楽器だろうか。


アンコールの変奏曲でマティアス・ミュラーさんのたしかな腕前を観れた。ふるさとを巨人が優しく、時には地団駄を踏むようだった。おそらく懐かしさに嬉々として、ステップを踏むような感じだろう。


ショスタコーヴィチを偏愛しているから、どんな曲であれ、ショスタコーヴィチを受け入れる。今日の協奏曲は、トランペットのすっとぼけた印象と急変なリズムの印象が強く、また諧謔性も強く、真面目な印象を受けないので、普段はほとんど聴かない。それでも一曲をつぶさに聴けば、やはりショスタコーヴィチらしい質の高い真摯な音楽性がある。


第2楽章が特に良かった。半音階による独特なショスタコーヴィチの響きと暗さがたしかにあり、第1楽章や第4楽章のような軽快なジャズの要素よりも、24のプレリュードとフーガのような精神性が響いていた。どんな曲を作ろうとも、芸術性の高い才能が邪魔をして、どうしたって作品は浅薄にならず、祈りのような深い精神性が曲にまじってしまうのだろう。ショスタコーヴィチの素晴らしさは、圧倒的な才能による深みと完成度の高さにあり、その深淵を知ったならば、晦渋とよばれる作風も、単に真面目な音楽性による結果だと心を寄せることができる。とにかくふざけているようで、生真面目なほど真面目な作曲家なのだ。


そしてそんな曲を、小曽根真さんが弾きこなしていた。さすがだと思った。ジャズのピアニストだから、クラシックに歩みを寄せて演奏するも、第一楽章、第四楽章と、その面目を遺憾なく発揮する場面が随所にあり、軽いタッチでありながら、絞られ、削られた音色が飛び跳ね、音色は色鮮やかに、リズムは自由に、クラシック音楽に食って掛かるほど上下左右に空間広く踊り回り、躍動感と懐の深さでショスタコーヴィチを見事に弾いてしまった。これ以上のバランスがあるのだろうかと感嘆した。この人は凄い人だ。


ベートーヴェンは、良い曲なのだが、なんだか物足りない。演奏は金管楽器がいくぶん目立って響き、マティアス・ミュラーさんのティンパニーがたしかな重みを鳴らしていた。第2楽章の荘重な雰囲気もあったが、第4楽章は細かなリズムが運ぶも、弦はうねるほどのねじこみがそれほどなく、さわやかに運ばれていった。


丁寧に曲は演奏されたが、そもそもベートーヴェンのこの曲が食傷気味だったのだろう。全体よりも、曲の構成などを意識して聴いていた。


ショスタコーヴィチで満足してしまった感があり、贅沢な気分で後半をおろそかにしたのだろうか。それでも満足はしているから、おそらく良いのだろう。

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