前のエピソード――１１月２３日（金）広島市西区中広町にある「PANQUE」でベーグルを買った。

広島市映像文化ライブラリーで２本の作品を観た。

アクチュア１

監督：フィリップ・ガレル、セルジュ・バール、パトリック・デュバル

記憶すべきマリー

監督：フィリップ・ガレル

出演：ズーズー、ディディエ・レオン、ニコル・ラギニェ、ティエリー・ガレル

今日から三日間、広島国際映画祭２０１８が開催され、NTTクレドホール、横川シネマ、広島市映像文化ライブラリーでいくつかの作品が上映される。映像文化ライブラリーでは６８年５月革命が特集され、ザンジバルグループの映画が上映される。

当時を経験した人なら学生運動の空気をわかるだろうが、経験していない自分にとって、学生運動というものの実態がわからなかった。なぜ暴動を起こしているのか、その目的や意味がさっぱりわからず、こんな過激な時代があったのだなぁと、テレビ画面のなかで違う星を見る色あせた印象だけが残るのみだった。

しかしあとあとになって、フランスで起きた６８年５月革命が時代転換として大きな意味を持つ出来事としてあり、日本の学生運動へとつながる大きな影響があったことを知った。

革命といえばフランスの代名詞で、２０世紀に起きた大衆から端を発したこの革命を少しでも知れればと、予定の合う限り映画を観ようと足を運んだ。

「アクチュア１」は約６分という上映時間の短い、カメラがぶれにぶれる、当時の映像が並べられた作品だ。革命の雰囲気がもっとも伝わり、それはついこないだカイエ・デュ・シネマ特集のフランス映画で観た、フランス大統領選挙を舞台とした映画の雰囲気にそっくりだった。

続いて「記憶すべきマリー」を観たが、難解な映画だった。まず、今日の自分はメガネを忘れた。しかたなく、最前に近い席に座ったが、古い白黒のスクリーン画面は細かいところがぼやけてしまった。

次に、字幕がなく、吹き替えもなく、生の女性の声による同時通訳だった。台詞としてのフランス語の音が小さく、同時に日本語が話されるので、役者の感情などの手がかりとなる声の抑揚や強弱が聴こえなかった。また、通訳の人が女性1人で話すのがひどく棒読みで、リズムは危うく、場面に合った感情などまったく排されており、それにはおそらく意味があるのだろうが、映画から伝わる雰囲気をぼやけさせていた。

上映前にゲストトークがあり、この映画は途中から言葉が内容から乖離していき、意味はつかみにくくなることを話していた。以前に、ゴダールと誰かが部屋のなかで話し続けるドキュメンタリー映像を観たことをあるが、そこで聴いた言葉に近い印象をこの映画から受けた。物語と直接結びつく言葉ではなく、象徴的な、印象的な言葉であって、そのニュアンスを得るには、細かい神経が必要となるのだが、子音の聞き取りづらい、つっかえることのある、意味だけをならべた平板な通訳では、こんがらがった幾つもの釣り糸を解くのに、べたべたと張り巡らされた蜘蛛の巣のなかで解くような具合となり、鏡が鏡の奥をさらに映して実体が見えにくく、ルアーが衣服に引っかかり、ゴカイと一緒に尖った返しの仕掛けが肌に食い込むようなストレスを感じずにはいられず、ぼやけてしかたなかった。

さらに、映画の展開もぼやけていた。丁寧に物語が紡がれているわけではなく、台詞からも筋をつかめないので、パラジャーノフの映像や、ソクーロフの映像を観るように、構図が美しく、役者の表情などから時折突き刺すような感慨を受ける時もあるが、正直意味のわからないシーンが多かった。

映画の文法や製作技法を知っている人なら最初からもっと味わえるのだろう。経験の浅い素人にはわかりづらい。ただ、意味のない、つまらない映画ではない。味わう感覚を自分が持っていないだけのことだ。

できることなら、意味だけを伝える言葉など用意せず、字幕も吹き替えもないありのままの状態でこの映画を観たかった。意味のわからないフランス語も、その言葉が持つ特有の抑揚や強弱から登場人物の感情の一端を読み取ることは可能であり、それは映像が語る意味や表現に集中することにもなり、物語を遠目に伝える台詞も、意味がわからないなら、意味のわからないそのままの形で味わうほうが自分としてはすっきりする。

観客に対して意味合っての同時通訳だから、やめろなどとは言えない。結局、好みの問題だ。