11月16日(金) 広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第385回プレミアム定期演奏会」を聴いた。

広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第385回プレミアム定期演奏会」を聴いた。


ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調


ブラームス:交響曲第4番ホ短調


アンコール

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(第2番から?)


指揮:クリスティアン・アルミンク

ヴァイオリン:諏訪内晶子


諏訪内晶子さんのヴァイオリンはとてもキレがあり、音色は伸びやかに高くあがり、ヒステリックなところや息苦しさはなく、土台には力強さと余裕のある安定感が支えていて、変な化粧やあだっぽさの削がれた見事な演奏だった。さすがの技量と経験と、信頼の持てる音楽性だった。


アルミンクさんとオーケストラはソリストをたてながらも、交響曲らしいアンサンブルではしっかり主張して、ブラームスのこの澄み切った空気と躍動の曲を、落ち着いて表現していた。


交響曲第4番は、この季節に装いを合わせる晩秋の哀愁が漂い、春や夏に聴くのではなく、今のこの時候にこそ、人生の下り坂と消え入ることへの悲しい愁訴が聴こえてくるようで、感動なしには聴いていられない。


8月5日の秋山さんとネルソン・フレイレさんのブラームスを思い出した。交響曲第3番とピアノ協奏曲第2番で、円熟の二人の演奏に心が震え続けたのと同様に、今日の演奏も、ブラームスはさやかな心根の優しさと音楽への苦しみと愛情を美しく表現していて、ペルチャッハに浮かぶ石灰質の蒼いヴェルター湖から輝かしい光彩を、ミュルツツーシュラークの湿気が沈む森と丘を抜ける風にどんな想いをのせたか量り難い複雑な感情に思いを馳せた。


渾身の指揮だったと思う。第1楽章には、冷たくも豊かな土壌から、太陽と雲の入れ替わる空へとうねり続ける感情の弦を響かせ、ブラームスの囁きを一つたりともおろそかにせずに丁寧に音を伝えて、一筋縄ではいかない第4楽章まで間延びしないドイツ語らしい屹然とした音で区切り、管楽器を響かせ、冗長や諧謔を排した純真な音色を弦は奏で続けた。


毎度同じことを思う。ブラームスを嫌いになれる音楽好きがいるだろうか? 今日のような演奏のあとでは、とても信じられない。ブラームスは自然を体現したような、本当に優しく、悲しい温かさをもった人だ。


同時に、スマートながらアルミンクさんの熱のこもった想いも感じた演奏会だった。

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