10月4日(金) 広島市中区十日市にある「蕎麦屋 香月」で十割そばを食べた。

十日市町にある「蕎麦屋 香月」で十割そばを食べた。


退勤後に信号を渡って店に入ると、客は誰もおらず、一人、目を瞑って蕎麦を啜る。


香りが色濃く残るこしのある蕎麦は、そのまま食べても味わい深い。噛めば噛むほど香りは広がり、玄米や全粒粉のパンと通底する味わいは、塩をつけるとより引き立てられる。


細かく刻まれた青葱はみずみずしく、しゃきしゃきで、野暮ったさがなく、引き締まった細くも線の強い刺激が良い。


わさびが素晴らしい。乳白色を想起させるふくよかさに、鼻を素早く抜ける辛味は、根を削っていることを確かに感じさせる。袋や、チューブに入っているわさびは泥でしかない。


つゆは紫を感じさせる切れ味のよさだ。添加物に慣れた舌には、澄み切った中のひとひらの鰹節のみを覚えるだけにとどまる。


蕎麦湯をひたすら飲み、塩だけを残して完食する。


お客さんがいないのは店にとって嬉しくないが、客の一人としては、静かに味と雰囲気を楽しみながら、一日を考え、ざらつき、荒れた頭の中を鎮めるのに適している。


良い味に、静かな空間、本当にこういう時間は得難い。

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