9月17日(月) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアントナン・ペレジャトコ監督の「ジャングルの掟」を観た。

広島市映像文化ライブラリーで、アントナン・ペレジャトコ監督の「ジャングルの掟」を観た。


一日目に観た「ソルフェリーノの戦い」で、子煩悩な元夫を演じていたヴァンサン・マケーニュが出演していた。いくぶんふっくらした体が、この作品ではそのままらしく思わせる鈍くさい性格を演じていて、過激に叫んで俊敏に相手の手を叩いたりはせず、アライグマくらいの感じに落ち着いている。


ショートパンツに太ももが艶かしくジャングルに汚れるヴィマラ・ポンスは、見目形も愛くるしいが、発声されるその声がなんと可愛らしいことか。日本人でも可愛らしい声を持つ人はいないことはないが、この渋みや格好良さではない、凛としていながらふわふわした声は、フランス語の音と抑揚の相性によって頭を狂わせる。日本語では、使われる意味にあまりに慣れしまっていて、言葉自体の重層的な経験による意味合いにぼやかされ、声の質だけを味わうことはできない。これは完全に趣味の分かれる声かもしれない。


物語は諧謔が読点となって、淀みなくシーンは進んでいく。疑問を覚えることは意味せず、派手なやりとりを楽しむだけだ。何度も笑ってしまった。それも顔を緩ませて、気分良くなる笑いだ。人の生死に関わるどぎつい場面も、平然と過ぎてしまう。極端に喜劇化されたキャラクターが、あまりにも常識から逸脱しているというより、職業と任務がその人物の性格を肥大し顕在化されていて、ブラックユーモアとなっている。


植物が好きな自分は、どのシーンでも植物を探す楽しみがあった。知らない現地の植物ばかりだが、巨大に葉を広げる原始的なヤシの葉や、緑黄が光に透かされて輝く南国らしい色のディフェンバキアのような植物に、異国の地を憧憬してしまう。


楽しい映画だ。パロディというのか、オマージュというのかわからないが、ブルース・リーの映画のようなアクションシーンに派手に笑ったあと、タルコフスキーの「僕の村は戦場だった」を鮮明に思い出させるシーンもあった。このシーンは美しかったが、なぜだかぞっとした。小舟が、無数の木々の中を、静かに、ゆっくりと漕がれていく。


映画好きなら、もっとわかるところもあっただろう。笑いが溢れる映画に、一点のタルコフスキーが冷たく自分には残った。

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