9月9日(日) 広島市中区基町にあるひろしま美術館で「開館40周年ひろしま美術館展2018」を観る。

開館40周年ひろしま美術館展2018へ行ってきた。


家から近く、常設展も良い作品が揃っているので、この美術館は好きなのだが、特別展以外は足を運ばない。そんなひろしま美術館のコレクションが展覧できるというので、他に頼らない自力を見定めようとやって来た。


展示作品は、きっかり200点だ。すべての作品を撮影できるが、SNSに載せられるのは著作権法によって限られている。気になった作品を撮ってきた。


エドガー・ドガの「浴槽の女」は、大地そっくりの偉大な尻が、じゃがいものようなたくましさで画面に座する。浴槽との連関が好ましく、ところどころに塗られたラピスラズリを思わせる青が魅力的に惹きつける。


ハイム・スーティンの「椅子に寄れる女」は、初めて観た時は歪な形象が好ましくなく、何が良いのかわからなかったが、見るたびに歪んだ具合に味わいを感じて、落ち着きさえ感じる。背景の暗い緑と、衣服の青に、暗くも穏やかな風情を感じ、背の高いグラマラスな女性よりも、愛らしく素朴な少女らしい女性を好む自分の趣味は、口の曲がったへそ曲がりなほっぺたの赤に好印象を覚える。


エドヴァルド・ムンクの「マイスナー嬢の肖像」は、斜視気味の目と落ち着きのない背景の色彩に、不安と恍惚感を覚える。


オディロン・ルドンの「青い花瓶の花」は、大好きなルドンの青と緑が画布に浮かび、幻想的で、魅惑的で、花瓶の静物を観てもあまり感慨が沸かない自分でも、特別に惹きつけられる。ルドンは暗く、空想的で、蠱惑的だから無分別に好ましく観てしまう。


アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの「アリスティド・ブリュアン」は、文句なしにこの美術館で大好きな作品の一枚に入る。この生命力みなぎるはかなさは、ダンディズムの物悲しさがある。死地に向かうニヒルな人間のようにも見えてしまう。大好きだ。


アンリ・マティスの「赤い室内の緑衣の女」は、嫁さんが店を始めるのに、「あかいはりねずみ」という名前の店だから、内装はこれぐらい赤いのだと自分は勝手に思い込み、デザインの見解の違いで少なからず口論になった。この絵のようなマティスの色彩が原因になったのだ。


ラウル・デュフィの「エプソム、ダービーの行進」は、最初観た時はまったく興味を示さず、何度か観るうちに可愛らしい作品に見えてくる。なぜか、「ちびまる子ちゃん」を思い出してしまった。


マリー・ローランサンの「花束を持つ婦人」は、たいていは甘ったるい少女趣味に見えてあまり好きではない画家だが、この作品は、自分の知り合いに似た伏し目を見つけて、ついつい眺めてしまった。内気で頑張り屋だから、愚痴をこぼさず働き、誰よりも量をこなし、無理がたたってよく体を壊す。あまり強くないのに誰よりも頑張る、誰もが感心する綺麗な子だ。その子には、歳を経た多くの女性の失ったものが一番の特徴として表れる。それをこの絵に見出してしまう。恥じらいは美徳の一つとして、愛すべき仕草だ。


小林古径の「実と花」は、西アジアの柘榴とは違う、中国の桃のようなお品のある実として描かれ、花は芙蓉だろうか、寂に陥らない緑が冷涼感を感じさせる。盛りある自然が季節の色を寂しくさせない。


竹内栖鳳の「暮秋」は、骨のような枝っぷりに、エゴン・シーレの死を通底とする線を感じてしまう。かすれた具合がとても良い。豊満よりも、枯れ枝に一羽留まる烏に、何を重ねるのか。


南薫造の「春(フランス女性)」は、真似事ではない、うまく西洋を取り入れた見ごたえのある作品だ。背景は日本らしい花を配置して、浮世絵よりもナビ派らしい象徴的な雰囲気を醸し出し、清楚ある頭部から細い首をたどって淑やかな胸に流れるバランスの取れた構図は、凛としていて、自制心と品格を感じる。


岸田劉生の「支那服を着た妹照子像」は、優れて写実的に描かれていて、技量の高さと作品の風格に好感が持てる。誰もが見たくない真実を暴いて見せるような立ち位置で、素晴らしい作品だと思う。


児島善三郎の「田植」は、浅薄に判断すると、この日に観たラウル・デュフィの日本版だろう。とはいえ、浮世絵のような自然の描写があり、豊かな色彩と広大な構図に、点景として人は小さく描かれ、自然の大きさよりも、小さいゆえの生命力を感じさせる。


古賀春江の「風景」は、自分にとってお洒落な街の風景だ。多角的な視点のようで、見やすく、色合いが落ち着いているから、西洋の古き良き町並みを直接にいただける。


約二時間半と、空腹の頂点を超えることなく、集中力も切れる前に美術館を去ることにした。これぐらいの量が自分にはちょうど良いのだろう。


SNSに載せられない素晴らしい作品はまだまだあり、コレクションだけでこれほど良質の作品を味わえるのだから、ひろしま美術館は広島の誇れる美術館だと思う。


フリーパスのマロニエカードを持っているのだから、もっと足を運べば良いのにと自分に何度も言い聞かせているようで、なにも語っていなかったから、これを機に、もう少し常設展に親しんだほうが得だろうと思った。

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