8月15日(水) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザでOn7リバイバル公演「その頬、熱線に焼かれ」を観た。

アステールプラザでOn7リバイバル公演「その頬、熱線に焼かれ」を観た。


綺麗な人を観るのが嫌な人はあまりいないと思う。当然自分も綺麗な男性と女性を観るのが好きだ。綺麗じゃなくても味のある相貌の人も同様だ。それは男性に欅や楠の逞しさを観たり、女性に可憐であるも芯の強い花を観るようで、自然を愛する者なら人間の容貌に対象を観ることの喜びを見出すだろう。


そんな理由であっても、自分と同年代の女性7人が、それも実力ある人達だからと言っても、綺麗な女の人を観たいからという大きな欲を隠す言い訳にならない。やましさがある。とにかく綺麗な女の人が観たくてこの公演に来た。


しかし、仮に女子十二楽坊が広島に来ても、自分は観に行かない。マーラーやショスタコーヴィチを演奏するとあっても行かないだろう。先入観で決定される。音楽に関しては、容貌よりも、質の良い音楽と趣味が最も優先されるからだ。


この公演でたまたま会った知り合いの方が、まるで朗読劇みたいだと言っていて、確かに派手な動きはなく、それぞれの登場人物の言葉が丁寧に折り重ねられていくのを感じていた。


メタファーによって意味を述べる場面などは存在していたのか、自分には捉えられず、題材の存在の大きさがそうさせるのか、生真面目ともとれるほど物語は明確な足取りと輪郭で進んでいく。


一人の女性の死が、まるで窓硝子に打ち込まれた弾丸のように作用し、硝子全体が一瞬で砕けるのではなく、様々な亀裂を生んで、それぞれの思惑を抱えて渡米してきた女性達の不安が表層に出てくる。


一人の女性の幻影と亡霊が、生き残る女性達の不安と問題に対する糸口をすでに与えていて、彼女たちはそれらをヒントに前向きに生きるように進むが、そもそも彼女たちは日本に外傷後遺症で苦しむ多くの人達が存在していて、渡米前の10年近い歳月にいかに苦しんできたかを身を持って知っているからこそ、残らない人や残された人を心の内に残し、誰一人素直に喜べずに手術を受けるのだ。彼女たちは選ばれた人間であることを自覚していて、この手術が外傷後遺症で苦しむ人達の治療に活かされることを希望するも、実際は少しでも綺麗な姿で生きたいという強い望みこそが彼女たちを動かして生きさせている。彼女たちは弱く、心細いが、やわじゃない。防弾ガラスのように厚くあり、弾丸で砕けるのではなく、おそらく何発食らっても、ひびにとどまらせるだろう。


この劇は漏らすことなく内容を説明する。当時の状況、治療渡米に関わった人々、外傷後遺症に対しての世間の反応、渡米治療を受けたヒロシマガールズの抱える葛藤など。暗くあるも、女性特有の逆境に対しての驚異的な反発により、明るく取り繕い、前に進んでいく。男ではこうもいかない。団結するまえに罵り合いと殴り合いがあり、裏表がある女性のような細やかなつながりをみせることはないだろう。きっと男は男の骨太い弱さがあって、面白い展開を見せるだろうが。


不慮の手術で亡くなった一人の女性は太陽だった。陰を抱えながらも常に笑顔を絶やさず、他人を思いやり、将来を期待していた。それを失い、まるで皆既日食を初めて体験する古代の人人のように一緒の女性達はうろたえるも、本人達が死んだわけではなく、太陽は身近にいることを、むしろ身の内にあることに気づいて、立ち直って生きていく。その姿を見て、頼もしくも、羨ましくも泣き声をあげる亡霊は、太陽でいなければならなかったその裏にある暗い心が本音をむき出しに叫んでいた。それは、原爆で亡くなった多くの人人や、原爆症で不意に亡くなった人人や、外傷後遺症で苦しむ人人の無念を代弁するようだった。傷を治して生きられる彼女たちが狂おしく羨ましくてしかたがないのだ。


綺麗な女優さん達を期待していたら、特殊メイクによってケロイドだらけだった。正直醜いと思った。あの姿はなかなか慣れるものではない。舞台のあった約二時間彼女たちを凝視していても、わずかに慣れるようでいて、それは自分に対しての弁解が少しだけ上手になったようだった。彼女たちの姿は変わらず、変えなければならないのは自分の持つ審美感だろう。頬にひどいケロイドを持って演じていた尾身美詞さんが終幕間際に、術後の綺麗になった顔で現れたのを見て、やっぱり女性は綺麗な方が、本人も他人も幸せだとつくづく思った。


その人の内側はもちろん大切だが、外見だって同じ程度に重要だ。30代までならその人の元々の素質で顔は整っていても、それからは生き方が顔貌に表れる。中が腐っていたら、外も腐ったものに造られていく。根っこは健全なほうが、葉も花も張りが出る。


結局、音楽を基準に自分は知っていた。劇だって質の高い劇が好ましいことなど誰だってわかる。好みと趣味の定まっていない自分は、ただ貪欲に劇というものを知りにこの公演に来た。ただ、ケロイドが少しだけ呪わしかったけれど。

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