きゅっきゅちゃん、二十匹目

 そういえば……知性体と称される、一定の知性・意思あるとされる種族には国民としての権利が存在するのだけども……

 きゅっきゅちゃんや犬猫、家畜をはじめとする、いわゆるところの動物には国民の権利は認められない。

 で、そこで困った問題があって……

 所謂「知性の発露」系スキルの存在である。

 

 まず、スキルというのは普通その種族に存在しない能力のことである。

 例えば俺の不老不死。

 人間は普通、寿命があるし老化する。

 その枠の範疇外である不老不死はスキルということになる。

 で、普通のきゅっきゅちゃんには知性はない。

 本能として色々なことができるし、同種族でコミュニケーションをとることはしても、人間のような思考はしない……とされているのだけれども。

「知性の発露」系のスキルは、その知性を芽生えさせるスキルで。

 つまり、「知性の発露」系スキル所持者は知性や意思を獲得できるので、国民の権利を得るポテンシャルは揃う訳でして……

 ま、そのポテンシャルを証明できないので、基本的にはやっぱり国民と認められることはないんだけれども……。

 すごく難しい問題だったりする。

 

 きなこは、俺が思う以上に賢いらしい。

 もしかしたら……「知性の発露」系のスキルを獲得しているのかも、しれない。

 その時、俺は……


 ……。


「おーい」

 ユウキが俺の肩をつつく。

 その感覚で現実に戻された。

 どうやら、深く考え込んでいたらしい。


 気づけば、見知らぬ路地にいた。

 

「え、ここどこ?」

 きなこを抱えたまま、俺がキョロキョロと周囲を見渡す。

 きなこも「きゅきゅー?」と不思議そうな声を上げていた。

 状況に応じて反応を変える……やっぱきなこ賢いな? アフォの子と決めつけてごめんな……

 あとでお詫びにおいしいもの食わせよう。

 和菓子屋行く途中だった気がするし、和菓子食わせていいかな?

「ユウキ、和菓子をきなこに食わせていいの?」

「いいけど、にゅうにゅうはダメだぞ」

「何故」

「殖えるから」

「食っただけで?!」

 驚きだ。どんな生態なんだきゅっきゅちゃん。

「分裂するんだよ……にゅうにゅう食うと。でもその分裂体は2年くらいで死んじゃうから」

「え」

「まるで溶けるように。ある日突然消えるんだ。なにも残らないから、墓も形だけになるしな、おすすめしない」

 やったな。この言い方。

 しっかし…… 

「きゅっきゅちゃん死んだらユウキでも墓作るのか」

「その言い方地味に傷つく。そら、俺だって愛着あるしな……えだまめの分裂体は妙にかわいかったしなぁ……墓には偶然首に巻きつけてたスカーフを入れたっけ……」

 しみじみと思い出して懐かしむユウキ。

 うーん。人並みにペットを愛してたのか……

 意外。

 つか、えだまめ……お前もペットには食べ物の名前をつける部類だったか……

 ちょっと親近感が湧いた。

 仲良くなれそうである。大人になったらいい酒飲めそうだ。いや、俺もユウキも酒飲めるクチかしらないけど。

「ユウキって酒のむの?」

 試しにきけば、ユウキは呆れた目線を寄越してきた。

「まだ子供だから飲ませんぞ。つか雪華庵に酒置いてるってよく知ってたな……裏メニューなのに」

「いや知らない。考えてたら行き着いただけ」

 即答で誤解を正せば、ユウキは「あ、そ」と肩を竦めた。これ、信じたか微妙だな……。

「俺は飲めるっていうか、無いと困る」

「アルコール中……依存症?」

「アル中じゃねーよ。この世界の神族はそういう風に出きてんの。神格が欲するというか、栄養素のひとつというか」

「依存症じゃね……病院行けよ」

「信じてねーなぁ……お前もなりゃわかるよ」

 肩を落として、最後は投げやりに吐き捨てるユウキ。

 いや、言い訳が依存症のそれじゃーん。

 これがいいわけじゃなくて、正当な理由なら……。

 この世界の神族、結構大変なんだな。



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