きゅっきゅちゃん、六匹目

 ……そういえば、期待してたけどスライム娘はいないらしい。

 スライムは知性のない魔物なのだそうだ……

 残念。

 

「っていうか、6才のわりにマセてるわねぇ……」

 なんておねーさんには言われるが。

 や、だって前世の記憶ありますし。

 意識はばっちり16才っす……いや、6年たってるしなぁ……22才? ……ないな。精神年齢16才っす。


 あ。おれ自身は一人っ子だよ?

 いろいろ教えてくれるのは近所の店のおねーさん。駄菓子屋さんが溜まり場なのだ。

 ついでにこのおねーさんは神様なのだそう。

 えーと、なんだっけ……イワナガヒメとかいってたか……。

 ……イワナガヒメ、ねぇ……。

 めっちゃ美人なんだけど。

 俺が知るあの、石長比売様ではないのだろうな……。

 一昔まえの黒ギャルみたいな、そんな感じだけど。

 黒ギャルがどてら着て商売してるんだから、なかなかシュールだけど、さぁ……。

 今日も今日とて駄菓子屋さんでポッキンアイスを食べつつイワナガヒメ様の話を聞く日々である。

 なんというか、この駄菓子屋の、雰囲気が良いのだ。


 木造平屋で、床は三和土。ところ狭しと木製の棚があって、そのなかにいろいろなお菓子が陳列している。

 レジは一番奥で、一段上がったところ。

 その奥は住居スペースに繋がってる。

 レジの奥にタバコを仕舞っている棚があるのは内緒である。横に小窓があってそこからタバコを販売しているのも。


「っていうか、毎日来てるけど暇なの?」

「暇ってわけじゃないけど……友達いないからねぇ……」

 と、俺は正直に話す。

 べつに隠してもしょうがないしー。友達いたら一緒に来てるよ!

「寂しいやつめ」

 吐き捨てるように言われたが、その瞳は慈愛に満ちてる。っていうか、半ばあわれみの目……

 やめろー! そんな目で見るんじゃない!

「うるへー。つか面白い話してよ。外のこととか」

 どうも、学校では馴染めないのだ。

 ほら、前世の知識がある分精神が6才児とはいくぶん解離してしまってるんだろうなぁ……なんていうか、話が合わない。雰囲気が合わない。

 イジメられることはないけど、馴染めない。

 ので、子供同士で遊ぶことも、まぁ、ない。

 ま、人間なのに、不老不死だからなぁ……ごまかすタイミングは少ない方がいいし。

 勉強以外なにもしてないといっても良い。

 その勉強も……算数は特に……過去の知識があるから……必要ないよねぇ……なんて。

 それよかこの世界のことが知りたい。

 だってめっちゃファンタジーじゃない?


「外のことっていってもねぇ。私自身冒険者じゃないから。ずっとここで駄菓子売ってるだけだし」

「っていっても、スライムの生態とか知ってるじゃん」

「一般常識レベルよ? あ。そんなスライム好きなら……」

「や、べつにスライム好きな訳じゃないんだけど……」

「きゅっきゅちゃん牧場行ってみれば?」

「だから好きじゃ……え、何? きゅっきゅ?」

 え、なにそれ。そのふざけた名前。

「きゅっきゅちゃん牧場。ほら、これ地図」

 とイワナガヒメ様はサテライトで地図を飛ばしてくれる。

 サテライトっていうのは……まぁ、意思のある携帯電話みたいなものだ。情報生命体なのだが、通信や通話、メール・チャット機能、それに電子マネーの管理なんてしてくれている。

 この世界……っていうかこの国、アルヴェリアは基本的に電子マネーが主流の通貨なのでサテライトがいないととても困る。

 というか、-街-で暮らすにはサテライトとの契約が義務付けられているのだ。

 で、俺にももちろんサテライトはいる。

 子供用なので、シンボル型の面白味のないやつだ。一方イワナガヒメのサテライトはおかめの能面を被ったデフォルメされた巫女さんみたいなサテライトだった。……高そう。能力とか、契約金とか、消費魔力とか。

 あ。サテライトの主食は契約主の魔力である。

 だから未発達な子供は消費魔力の少ないシンボル型と契約するのが常なのだ。


 イワナガヒメ様からもらった地図に書かれた、きゅっきゅちゃん牧場なる場所は割りと近かった。

 が、今日いくには少し遠すぎる。

 ので、今週末の休みに行こうと思った。

 つまり、明後日だな。


「しかしなんできゅっきゅちゃん牧場?」

「スライム好きなんでしょ? きゅっきゅちゃんはスライムの進化した姿だって言われてるから」

「えぇ……」

 いうほどスライム好きでもないんだけど……

 スライムの進化した姿って……どんな化け物なんだ。

「大昔に家畜化されてるから。べつに狂暴でもなんでもないって」

 ケタケタと笑うイワナガヒメ様は……俺の反応で『魔物って、俺食われるんじゃ……』と思っていると感じたのだろうか。

 いやぁ、食われる心配はしてないんだけどさぁ……。


 よく、あんなスライムを家畜化しようとおもったな。


 この世界のスライムは、俺が思っているより狂暴……つか凶悪らしかった。

 物理攻撃も魔法攻撃も効かず、本能のままにありとあらゆるものを食らうそいつは、周囲の環境に擬態して獲物を待つこともする。

 その消化液に毒は効かず、鉄だろうが結界だろうが関係なく溶かす。

 移動手段は跳ねると這いずることだが、跳ねれば10m位の柵を越えるし、這えば時速30キロメートルくらいは出せるらしい。早い。

 そして飛びかかってくると重さで人間なら一撃でミンチである。

 どう、家畜化したんだ。


「きゅっきゅちゃんはスライムから進化したけど、そもそも人懐っこかったらしいよ?」

「えぇ……真逆すぎない?」

「不思議よねぇ……」

 いつか優樹にあったら聞いてみたいな……。

 つか、優樹はいまなにしてるんだろうか。

「そろそろ帰らなくて良いの?」

 ふと、イワナガヒメ様が時計を指差す。

 見れば。そろそろ門限だった。

「あ、やべ。サンキュー、イワナガヒメ様」  

「……様付けなんていらないわよって毎回いってるのに律儀ねぇ……」

「え、だって、神様なんでしょ?」

「言っても分霊よ? 依代に感化されてこんな性格だしねぇ」

「でも神様じゃん。つか、まじやベーから帰るわ。また明日くる」

神様だから敬うってわけでもないんだけど、まぁ、イワナガヒメ様が本当にあの、石長比売様だったらねぇ……俺、あの神様ちょーすきだし。

「ほんと律儀ねぇ……」

 呆れ染みた声を背後に俺は帰路を急ぐ。

 母さんを心配させるのは不本意なのだ。


 さて、生まれ落ちてから今日まで、割りと普通に生きてきたのだが。

 割りとフツーつか、順風満帆っていうか、ね。


 この日、俺は忘れていたけど、7才の誕生日だった。

 そして、この日から、俺は少しずつ不思議な世界に……足を突っ込むはめになるのだ。

 ……まぁ、異世界に転生はしてるから、前世と比べればすでに不思議ワールドなんだけどね!

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