第11話 カラオケ 危機一髪
「こんな短いスカート履いてさ、露出しまくりできたんだから、こういうの期待してたんだろ? 」
「……! 」
下着ごとストッキングをずり下げられそうになり、慌ててストッキングを引っ張りあげた。
林は、麻衣子の口を塞ぐ。
「トイレは防音じゃないから、騒いだらダメだよ」
逃げようとした麻衣子を後ろから抱き締めると、林は好き勝手に麻衣子に触れようとする。
ヤダヤダヤダ!
口を塞がれ、唸りながら身体をよじって林の手から逃れようとする。
ストッキングに林の爪がひっかかり、ビリッという音がする。
「ごめん、破けちゃったよ」
全く悪いと思ってない林の軽い口調に、麻衣子の顔がカッと赤くなる。
やだ! 真面目に気持ち悪い!
「あ、照れてるの? 可愛いなあ。本気になっちゃいそうだよ」
こんな格好してるから? 誰とでもヤリそうに見えたの?
ミニスカート履いてるだけで、ビッチ扱いされなきゃいけないの?
「止めて……下さ……い。」
「え、何で? みんな好きにしてるんだから、俺らも仲良くしようよ」
「ヤァッ! !! 」
なんとかブロックしているものの、林の手が際どいところに触れそうになり、麻衣子は鋭い悲鳴をあげた。
こんなのはイヤだ!
腕を引っ張られ、洗面台に押し付けられた。足を開かされた時、あまりの恐怖に声すらでなかった。
林は、麻衣子が騒がないことを合意と受け取ったらしく、さらに事を進めようと麻衣子の下着に手をかけようとする。
麻衣子の頭の中には慧の顔が浮かび、なぜか慧に向かってひたすら謝っていた。
彼氏でもないのだから、他の誰にやられようと、慧は気にもしないはずなのに。
目を閉じ諦めたその時、トイレのドアがおもいっきり開いた。
助けてって言わなきゃ!
麻衣子は、ドアを開けた人物に目を向け、思考が停止してしまう。
慧君!!
軽くため息をついた慧が、麻衣子達を無表情で見つめていた。
「入りたいんだけど」
慧が麻衣子達の後ろを通って個室に向かう。
バタンと乱暴にドアが閉められ、用を足す音がしたかと思うと、トイレの水が流される。
「これ見て入ってくるかよ? 」
林はイライラしたように、トイレの個室を睨み付ける。
麻衣子は、急いで洋服を整えると、ただ個室を見つめた。
麻衣子がトイレに駆け込んだ時、実は慧はドアの向こうを走って行く麻衣子を、自分の部屋から見ていた。その少し後で、サラリーマン風のスーツ姿の男が追いかけるようにトイレへと向かったのも。
しばらくしても、どちらも戻ってくる様子がなかったので、これはヤバいなと思い、慧の上の愛実を押し退け、トイレへ向かおうとしたのだが、思わぬ伏兵に邪魔されてしまった。
中途半端な状態で放置された愛実だ。
「松田君、どうしたの? 」
「ちょっとトイレ」
「こんな状態で? 」
「まじで漏れるから」
「ヤダ! もうちょいなんだから、最後までしてよ! 」
「いや、そんな場合じゃ……」
まじでトイレだから! と、愛実を振り切って慌ててトイレに向かった。
トイレのドアを開けようとした時、麻衣子の悲鳴に近い声が聞こえてきた。
ヤバい! 遅かったか?!
いくらなんでも、セックスしている最中に遭遇するのはキツイ。はっきり言って見たくない。
けれど、麻衣子の悲鳴を聞いて放置もできず、意を決してドアを開けた。
麻衣子は衣服は乱れ、押さえつけられてはいたが、男のスーツに乱れはなく、何より下半身をチェックしたが、ズボンのファスナーは閉じたままだった。
ギリギリセーフってか?
慧は心底ホッとしたが、それを顔に出すことなくトイレに入る。
「入りたいんだけど」
とりあえず個室に入り、気持ちを落ち着けて、どうしたもんか考えた。
個室が開き慧が出てくると、何事もないように手を洗って出ていこうとする。慌てて麻衣子は慧のTシャツを掴んだ。
「待って! 」
慧の足が止まり、涙でグショグショな顔の麻衣子を見て大きくため息をついた。
「ったく、泣くくらい嫌なら、トイレになんか連れ込まれるなよ」
あまりな慧の言い様に、麻衣子はさらにボロボロと泣き出してしまう。
「だから、ブサイクになるから泣くなって」
「知り合い? 」
林が、慧を睨み付けたまま麻衣子を引っ張り寄せて肩を抱いた。もう少しでヤレた相手だ。逃がすわけにはいかなかった。
「知り合い……ね。あんたよりはよく知ってると思うよ」
慧は、乱暴に麻衣子の手を引っ張り、自分の方に抱き寄せた。麻衣子も、しっかり慧にしがみつく。
「麻衣子、キスしろよ」
「えっ? 」
いきなり何を言うのかと、慧を見上げると、慧はただブスッと不機嫌に林を見ている。
「こいつの前で、俺にキスできない? 」
麻衣子は、慧の首に手を回すと、慧にキスをした。
「で、こいつにもできる? 」
麻衣子は千切れるんじゃないかというくらい、ブンブンと首を横に振った。
「このくらいの知り合い」
慧は、今度は自分から麻衣子にキスをすると、林に向かってVサインを出す。
林は、何も言うことなくトイレから出ていった。
「ちょっとこっち」
慧はトイレの個室に麻衣子を引っ張り込むと、デンセンしてしまったストッキングを脱がせて汚物入れに突っ込んだ。
「ったく、おまえ今、凄く不細工な。で、何された? まさか、もうすんじゃったとか言う? 」
「そんな訳ないでしょ」
さらにぼろぼろ泣く麻衣子に、慧は軽くため息をつく。こんな短いスカートはいてっからだと思いながらも、口とは裏腹に麻衣子の背中をポンポンっとたたく。しばらくそうしていると、麻衣子は次第に落ち着いてきたようで、嗚咽がおさまってくる。
「慧君、ごめんなさい! ごめんなさい……」
「だから、言ったろ? ミニスカなんか履いてたら、男はみんな手を入れたくなるんだって」
「もう、スカート履かない! 」
いや、俺の前でなら別に……。
そうは思ったものの、麻衣子の長い足や形の良いヒップラインを独り占めできるのだから、外ではズボンでもいいかと思い直す。
すると、トイレのドアが開いて誰か入ってきた。
「松田君、いる? 」
愛実の声だった。
「お……おう」
「ごめん、彼氏が帰ってくるって言うから、もう帰るね!またやろうね。バイバイ」
言うことだけ言うと、バタバタと走って行ってしまう。
麻衣子は、慧にしがみついていた腕の力を緩めた。
「今の? ( 女の子だよね? )」
「幼馴染っていうん? 小中高校が一緒なんだけど、あっちにいる時はそんなに親しくはなかったんだぜ。たまたまこっちで会ってさ、遊ぼうってなっただけで。あいつ、彼氏持ちだから。同棲してるし」
慧は、さっきまで愛実とやっていたという引け目もあってか、何故か愛実の情報をべらべら話す。
「何をまたやるの? 」
「カ……ラオケじゃない?そうカラオケ。あいつ、カラオケ大好きだから」
思わず上ずる声に、麻衣子は一瞬眉をひそめた。
女の勘……みたいなものが働く。
慧と関係を持ってから、慧が見た目通りの真面目男子ではないこと、思った以上に女性経験が豊かなことには気がついていた。
慧がガッツリ肉食系であり、自分と知り合う前はどうしていたのか? 不思議に思っていたのだ。
今の女の子、慧君のセフレだ!
もしかして、さっきまであの子と……?
女の勘は鋭く、それは正しかったりするのだ。
麻衣子の心の中に、ジワジワと嫌な気持ちが広がっていった。
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