ACT.35 ”青冠”は嗤う(Ⅲ)
▽▲▽
翌日の夕方四時過ぎ、大学構内のカフェスペースにいつもの二人――慎二と玲奈は居た。
普段なら、もう少し早い時間帯にいる二人が、この時間にカフェスペースにいることには、ある理由があった。
「そろそろかな?」
レナがそう言ってちらっとテーブルの上に置いてあった、自身のタブレットに視線を向ける。
するとタイミング良く、その端末が震える。
「来た!」
待っていましたとばかりに、玲奈はタブレットを手に取り、着信を確認する。
そして、通話とスピーカーをタップした。
すると、そこから向こうで聞きなれた声が聞こえた。
『もしもし? こんにちは、ナギです』
「カイトだ。改めて今日はよろしく」
「はーい、レナです! わざわざごめんね!」
『いえ、こちらこそ、お誘いいただきありがとうございます!』
そこから聞こえてきた声の正体は、ナギであった。
あの後、リアルの連絡先を交換した三人は、明日作戦会議をしようと約束したのだ。
その会議がこの時間になったのは、ナギは現実ではまだ高校生で、平日のこの時間まで授業があったからだ。
ちなみに、直接会わないのは、ナギが東北住まいで、二人とは物理的に距離が放れているからである。
ゲーム内で会わないのは、実はVRゲームには年齢に応じたプレイ制限時間があるからで、ただ話すだけにそんな貴重な時間を取られたくなかったからである。
『それではさっそく――』
「あぁ、【“青冠”の嶺兎】攻略作戦会議を始めよう」
慎二――カイトがまず、議題の口火を切った。
まず、奴を攻略するうえで確認しなければならないものがある。
「アイツの能力、スペックはどうだと思う?」
『わたしからみたところ、多分特殊能力は空を蹴るやつのままでした。二つ名の特殊能力は一つまでなんです。それは“予兆“の二つ名妖魔でも例外じゃないです』
「じゃあ、あの瞬間移動みたいな動きは?」
「あれは多分、素のステータスの高さがなせる業だろう」
『多分そうですね、あと思考AIも専用のモノに切り替わっていますね』
特殊能力こそ、鉛兎のころと同じではある。
だが、体格もステータスもAIも違うのなら、それは完全に別物だ。
この前打った作戦では、通じないだろう。
『AIも相当賢いのになっているみたいですね』
「だな、初手で俺の背後を取りに来るんだもんな」
AIに関してはおそらく人間を相手にしていると思って」罹った方がいいかもしれないとカイトは思った。
「カイト、あのスピードをどうにか擦る事ってできるの?」
「ん、無くはないが、どれがベストなのかはわからないな」
実際、カイトには何作かこの時点で方法は考えつくのだが、いまいちどれもパッとしないなと考えていた。
何か、劇的な方法はないものかと思考をめぐらせる。
そんな中、ふとあることを知らないことに気が付いた。
「なぁ、そういえば、ナギの奥義ってどんなのだ?」
『わたしのですか?』
「あ、そういえば知らないね」
そう言えば、しばらく行動を共にしてきたが、彼女が奥義を使っている場面をカイトたちは見たことがなかった。
奥義とは、ソレ一つで状況が劇的に変わる可能性を秘めたモノだ。
もしかしたら、ナギの奥が攻略の糸口になるかもしれない。
『そうでしたね、で、でもあまり強くありませんよ?』
「いいから、教えてくれ」
『わたしの【奥義:
「カスタマイズ?」
『ようは改造です。術のどこかを犠牲にどこかを強化するんです』
つまり、彼女の【奥義:願イハ誰ガ為ニ】は、術の攻撃範囲を絞る代わりに威力をあげたり、威力を犠牲にコストを下げたりといったカスタマイズができるというものであった。
その話を一通り聞き終えたカイトは、ちょっと引っ掛かりを覚えた。
「待った。今、アイテムもっていったよな?」
『はい、そうですね』
「アイテムはどの程度カスタマイズできる?」
『特殊能力付与みたいなことはできませんが、効果効能、攻撃力、大きさ、重量など基本なんでもですね』
「――それだ」
その話を聞いた時、カイトの脳裏にあるアイディアが浮かんだ。
この作戦なら、高確率で【“青冠”の嶺兎】を仕留められそうというものが。
――だが、しかし。
「あ、あぁっ!」
「ど、どうしたのカイト? 空気抜けた? 入れ直す?」
「俺は風船じゃねぇよ! いや、倒すアイディアが浮かんだんだが――」
『うん?』
「――過去最低レベルの下策だわこれ」
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