第168話 戦いの傷跡
「システアさん、終わりました」
「…………。」
俺は一息ついてからシステアに通信魔法をかけたが、なぜかシステアは無言だった。
「……あの、システアさん?」
向こうで何かあったのか心配になり、俺は再度システアに声をかけるが、全く応答の気配がない。
そして——。
ブチッ!
そんな音が頭に響いて、俺は一方的にシステアに通信魔法を切断された。
まさか……。
俺は胸騒ぎがして、システア達が退避している場所へと向かう。
場所は分かっている。
システア達が泊まっている高級宿ロイヤルガーデンだ。
俺は走る時間も惜しいので、すぐにロイヤルガーデンのフロントへと転移する。
いきなり現れたので従業員にかなり驚かれたがそんな事も無視して、階段を駆け上がり、システア達が泊まっている部屋やと飛び込むように入った。
部屋に入ると、目に入ったのは2つのベッドに眠る様に横になっているガランとアルジール。
そして、ガランのベッドの傍らでうずくまる様に座り込むシステアとそんなシステアの背中を慰めるように擦っているニアとそんな2人を見守る様にアリアスが立っていた。
飛び込んで来た俺にアリアスが驚いたように俺へと視線を向けてきた。
「ク、クドウさん?」
そんな状況に俺はベッドに横たわる2人を交互に見たその時。
「クドウ様、私は負けておりません。まだ戦えますからぁー」
というアルジールらしい寝言が聞こえ、俺はアルジールから視線を外してガランの方を見る。
そしてゆっくりとガランが眠るベッドへと歩き始めた時、うずくまっていたシステアが初めて小さく弱弱しい声を出した。
「……クドウさん、来ないでください」
そんなシステアの声にも俺は歩みを止めることなく、ガランの前までやってきた。
まさか、ガランさんが?
システアが鼻をすする音が聞きながら俺はガランの顔を見下ろす。
それは本当に眠っているようで本当に安らかな表情だった。
あの頭のおかしいアルジールの初めてにして唯一の友達。
それがガランだった。
馬鹿なアルジールの言動にも笑い、実力を隠してE級冒険者を演じていた俺達にも優しく接してくれたいい奴だった。
大丈夫だと聞いていたのにまさかこんな……。
「ガランさん!」
思わず出してしまった俺の声になぜかアリアスとニアが驚いたようにこちらを見た。
ガランは既に俺の仲間だった。
そんなガランの死になんとも思わないようなドライな男だと思われていたのだろうか?
すると、俺が出した大きな声に反応するようにガランの身体がピクリと動き——。
「……いや、もう飲めないっスよ。クドウさん」
…………ん?
気のせいだろうか?
俺がそう思った瞬間、ガランは口をモグモグとさせた後、寝返りを打った。
はぁ?
「ガランさん、生きてるみたいなんですけど」
俺がうずくまっているシステアをちらっと見た後、アリアスへと視線を向けると、不可解そうな表情で俺を見ているアリアスとニアと目が合った。
「えっ、生きてますよ?」
どうやら俺の聞き間違いではなかったようだ。
だったらなんでこの人は大号泣しているのだろう?
俺が横でうずくまっているシステアを再度確認するが、やはり未だすすり泣く音が聞こえてくる。
「じゃあなんでシステアさんはそんなに泣いているんですか?」
俺の知らない何かデリケートな問題でそうなっている可能性もあるが、かといってこのままスルーするのもおかしいと思い、俺が見下ろしながら尋ねると、システアは「ずびっ」と鼻をすすった。
「私は泣いていません」
そう言ってまた鼻を「ずびっ」とシステアは鼻をすする。
これで泣いていないと主張したいのなら顔を上げればいいと思うが、どうやらそれはできないようだ。
俺が困った顔をしていると、アリアスが手招きのジェスチャーをしてきたので、ゆっくりとそちらへ向かうと、アリアスは小さな声で俺に耳打ちした。
「あー、えーとですね。システアさんはクドウさんをずっと心配していたんです。僕とガランが負ける事なんてこれまで一度もありませんでしたからね」
アリアスが言うにはどうやら俺がいる前では涙を見せないように我慢していたらしいのだが、俺と別れてここに着いた途端、心配がどっとやってきて今みたく泣き崩れてしまったようだ。
そんな時に俺が突然魔法通信をかけて、飛んで来たもんだから泣き止む暇すらなくこういう状況になってしまったらしい。
それほどアリアスとガランを一瞬で倒してしまったクロナの存在がシステアには脅威に映っていたのだろう。
負けないって言ったんだけどな。俺はあまり信用がないみたいだ。
できれば人が寝ている横で過度なしんみり感を出すのはやめてもらいたかったが、あんまり突っつくのも可哀想なので俺は魔法通信でメイヤを呼び出しつつ、アールとガランの眠りが覚めるのを待つことにした。
そして、連絡を入れて10分ほどでメイヤは飛んできた。
「お兄ちゃん!」
メイヤは完全に設定を忘れているのかそんなことを言いながら部屋やと入ってくる。
「「お兄ちゃん?」」
メイヤの発言を不思議に思ったのかアリアスとニアが入ってきたメイヤに完全に不審の目を向けていた。
ちなみにシステアは先程よりはかなり泣き止んできてはいるがもう少し回復に時間がかかりそうである。
「あー、そういうプレイなんです。こいつらちょっとアレだから」
他に良い言い訳を咄嗟に思いつかなかった俺はそうアリアス達に説明する最中もメイヤはベッドの上のアルジールに思いっきり抱きついている。
「あぁ、おでこにこんなに大きなたんこぶが! 誰が私のアールをこんな目に!」
そう言いながら、メイヤはクロナへと怒りを燃やしているが多分アルジールはメイヤのモノではないはずだ。
アルジール本人曰く「私の全ては貴方様の者」らしいが、俺が受け入れた覚えがないので、アルジールは未だ誰の者でもないのである。
「メイヤ、終わった話だ。それにアールが勝てなかったあの女にお前じゃ勝てないよ。それよりも大事な話がある」
俺はそう言って、アルジールの頭に拳を勢いよく振り下ろした。
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