第53話 煽り耐性

次の瞬間、俺達の目の前にあった森は炎の渦に包まれた。



「って、おいっ!」



「えっ? まずかったですか?」



「ん? いやどうなんだろう?」



俺が魔法使用の許可を出した瞬間の事だった。


アルメイヤはお得意の第3級魔法火炎流で魔人ごと森を焼き払ったのである。


いや逆か? 森ごと魔人を焼き払ったのか? まぁこの際どっちでもいい。


普通であればなにかしらの罪にも問われかねなさそうな蛮行だが、今の状況なら問題はないのだろうか?


俺がシステアを見ると、アルメイヤの奇行に驚きつつも冷静に答えた。



「見事です。メイヤさん。これほどの火炎流はなかなか見られません」



どうやら大丈夫みたいだ。人間界の危機だもんね。


山火事くらいどうってことないみたい。


よかったな。アルメイヤ。



「流石にやってないよな」



「流石にあれくらいでは死なないかと。見晴らしを良くするために放っただけですし」



「ちょっと状況が分からないな」



目の前には煙が立ち込め、何も見えない。所々火がくすぶっているが、それほど大きな炎は上がってないように思える。



「仕方ないな」



状況が分からないままでは始まらない。



俺はウィンドストームで煙を吹き飛ばした。


視界は晴れ、魔人達の姿が見えてきた。


どうやら今ので1体も倒せなかったようである。数体は所々焦げている者もいるが大半は火炎流の範囲の外の森に退避したようである。


するといきなり攻撃されて怒ったのか魔人の1体がアルメイヤを睨みつけながら叫んだ。



「てめぇ、死にてぇようだなぁ!」



あ、なんか見たことあるな。あいつ。


俺がそんな事を思っているとアルメイヤが俺に耳打ちした。



「あいつ、ゾデュスですね。ブリガンティス軍軍団長の」



(あぁ、なんかそんな名前の奴いたな。確か弟がいた気もするが。そいつがアリアスの方に行ったのかな?)



良くは覚えていないが、アルメイヤよりかは弱かった気がする。とはいえ、アルメイヤは転生直後でかなり力は弱まっている。


システアに聞こえないように俺はヒソヒソ話でアルメイヤと会話する。



「メイヤ、お前あいつに勝てるか?」



「転生前でしたらボコボコにできたと思いますが、現状ですとかなり厳しいかと思います」



かなりモブ感醸し出しているゾデュスだが、強いのは間違いなく強いのだ。


となるとあいつは俺が相手をするしかない。


俺達のヒソヒソ話がゾデュスの感に障ったのか何やらめちゃくちゃ喚き散らしているがとりあえず今はスルーだ。



「システアさん、あの今喚き散らしてる魔人ですが、ゾデュスというブリガンティス軍の軍団長らしいです」



俺はブリガンティスという名を出した瞬間システアの体がピクリと反応した気がした。



「ブリガンティス軍軍団長……」



「メイヤでは厳しそうなので、俺があいつを引き付けます。できるだけ他の魔人も釣るようにしますけど、何体かそっちに行くかもしれません」



システアが心配そうな目で俺を見るが、俺が「大丈夫です」と言うと素直に頷いた。



「それくらいでしたらなんとか」



「はい、他の雑魚共はお任せを」



なんとも頼りがいのある返事だが、2人じゃ流石に厳しい気がするな。俺に全員でかかってくれれば手間が省けるのだが。


とりあえずダメ元で煽ってみるか。あまりに釣れないならできればやりたくないのだが、あの手でいくしかない。


ちょうど喚き散らしている事だし頑張ってみるか。



「おいっ、てめえら! 俺様を無視するんじゃない! なにもんだって聞いてんだ!」



「あー、もう、うるさいなぁ。なんか人間界に雑魚の魔人が侵入してくるからさっと行って片づけてきてよと頼まれたE級冒険者だよ」



俺は胸につけたE級冒険者プレートを見せつけながらゾデュスに言う。


できるだけ馬鹿にした言い方でゾデュスが低く見ていることを強調しつつだ。


ちなみに冒険者プレートは冒険者協会発足時から形や色が変わってないので魔人にでも伝わるはずだ。



「E級冒険者だと? ゴブリン相手に日銭を稼ぐ脆弱な人間の中でも底辺の底辺のか?」



ゾデュスがおどけながら仲間の方を見ると、他の魔人達からは笑い声が上がる。


おぉ、結構言うじゃないか。


まぁあながち間違ってはいないが、そのE級冒険者の火炎流を食らいかけてブチ切れていたやつの言う事ではないな。



「あぁそうだ。人間界にはあまり強い魔物がいなくてな。D級に上がりたいのにと困っていた所に現れたのがお前達だ。ゴブリンに毛が生えた程度のお前達だが、みんなまとめて退治したらD級に上げてくれるんだってさ。せめてC級に上げてくれないか? とダメ元で頼んではみたんだが、お前らを倒した程度ではD級が精々なんだって」



本当は勇者、最低でもA級まで上げてもらう気満々だが、俺はやれやれと頭を左右に振るゼスチャーで煽りに煽りまくった。


すると、それが功を奏したのかゾデュスがプルプルと震え始める。


煽り耐性ひっくいな。途中までは頑張っていたようだけど。魔人はみんなそうなのか?


俺は元魔王軍四天王筆頭の顔を思い浮かべる。



(まぁあいつは別格か。さて、どう転ぶかな?)



俺の理想としては「おい、おまえらこいつをぶっ殺せ、ひゃっはー」と叫びながら自らも突撃してきてくれる事だ。


実に楽である。システアやアルメイヤの事は気にせず、勝手にやられに来てくれるのだから。時間も短縮できてコスパも最高だ。


だが、俺の理想は虚しくも崩れ去る事になった。



「おい、てめえら! 後ろの2人を殺せ! 俺はあの胸糞悪いE級冒険者を殺る!」



あーぁ、作戦失敗。沸点低い上にプライドまで高かったか。


俺は『煽って俺に総攻撃させて返り討ち』作戦を破棄して、もう1つ用意していた作戦に変更することにした。

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