第15話 ゴブリン討伐
俺たちは朝食を楽しんだ後、さっそく冒険者協会へと向かった。
今日からやっと本格的な冒険者としてのスタートである。
冒険者協会の扉を開けると周囲の視線が俺たちに集まる。
「おい、アレが例の」「プリズンをやったってのは黒髪の方だって聞いたぞ」「そうなのか? あの金髪の方もやばそうだ。始まりの金の勇者に再来か?」
俺たちが依頼の募集が張り付けてあるボードまで歩くのにそんな冒険者のヒソヒソ話が聞こえる。
中には俺たちのパーティー名『魔王』もちらほらと聞こえてくる。
やはり昨日の騒ぎで『魔王』の名は冒険者達の間にそれなりに伝わってしまっているようだ。
俺たちは依頼ボードの前まで来ると依頼表の物色を始める。
「これなんて如何でしょうか?」
アルジールがそう言うと『ジャイアントオーガ討伐』と書かれた依頼表を手に取った。
東に広がる森に巣くうジャイアントオーガを討伐せよと書かれた依頼書には推奨A級冒険者と書かれている。
注意事項としてジャイアントオーガは多くの群れを率いている東の森の支配者。A級冒険者でもしっかりとしたパーティーを組んで臨むべし。とあった。
「いや、無理だろ?」
俺たちは実力はともかくまだF級冒険者。
4ランクも上のランクの依頼が受けられるはずがない。
一応は2ランク上の依頼まで受けられるように決まり上なっているが、普通の冒険者は自分と同じランクの依頼しかは受けない。
仮に1つ上のランクの依頼を受けるのだとしても同ランクのパーティーを複数で組んで万全の準備で臨むのがまともな冒険者。
2ランク上の依頼となると単なる自殺志願者である。受付でまず受けるのを止められる。
ごく稀に生まれる将来勇者や聖者となるような才能溢れる者の為に設けられた決まり事だが、その制度を利用する者は本当に稀である。
「そういえばそうですね。あの女が2ランクより上のランクの依頼は受けられませんよと言っておりましたね」
受付をみるとその女エリーゼがこちらに向けてウィンクを飛ばしている。こちらというよりはアルジールに向けてというのが正しいか。
この冒険者協会で恐らく一番難易度が高そうな『ジャイアントオーガ討伐』の依頼書をアルジールは大人しく元の位置に戻した。
俺は改めて、依頼ボードに張られた依頼書を眺め、ちょうど良さそうな物を見つけた。
「これにしよう。『推奨D級冒険者 洞窟のゴブリン討伐』」
ゴブリン討伐といえば初心者冒険者の華だ。
それは俺が人間であった頃の常識だが、この世界には小動物が魔物化したゴブリンよりも弱い魔物が存在する。
そんな弱い魔物の討伐依頼が主にF級依頼。その1つ上のE級がゴブリン討伐というのが一般的になっている。
今回俺が選んだ『洞窟のゴブリン討伐』はそんなゴブリンの群れが相手ということでさらに1つ上のD級指定になっている。
「はっ! クドウ様の御心のままに! ……しかしゴブリンですか」
アルジールの言いたい事は分かる。
今更ゴブリンとかいう以前の問題でアルジールや俺はそもそもゴブリンを相手にした経験がほとんどない。
というのも魔界ではゴブリンそのものが希少種、ほとんど存在しないのだ。
理由は簡単で、ゴブリンでは競争激しい強靭な魔物蠢く魔界では生きていけないのだ。
俺は幼少期ですら強大な魔人相手に互角以上に戦い抜いてきた。
アルジールもそこまでにはいかないにしてもなんだかんだで元四天王筆頭だ。小さな時からゴブリンよりも遥かに強い魔物を相手にしてきたのは間違いない。
「まぁそう言うな。これも勉強だと思って頑張ろうぜ」
正直頑張る必要はない。
適当にやったって他の冒険者以上の成果を上げるのは間違いない。
「そうですね。では参りましょう」
俺はアルジールと共にエリーゼのいる冒険者協会受付へと向かう。
それに気づいたというか、ずっとアルジールの事を凝視していたエリーゼは笑顔でアルジールを迎えた。
ホント仕事しろよ、こいつ。
「アール様! 本日はどのようなご用件ですか?」
先頭にいる『魔王』のリーダーであるはずの俺を無視してエリーゼはアルジールに話しかける。
「あぁ、これを受けたい」
アルジールが『洞窟のゴブリン討伐』の依頼書をエリーゼに手渡す。
「……推奨D級ですか。一応ご確認しますが、大丈夫ですか?」
エリーゼも一応は冒険者協会の受付嬢だったらしい。
普通では絶対に受けないはずの2ランク上の依頼を持ってきたアルジールにそう尋ねた。
しかも俺たちはパーティーといってもたったの2人だ。
エリーゼの対応は間違っていない。
「本当は『ジャイアントオーガ討伐』を受けたかったのだがな。仕方ないがこれを受けることにした」
アルジールは平然とそう言う。
「ふふ、2人で『ジャイアントオーガ討伐』なんて、S級の冒険者、勇者様にしかできませんよ!」
エリーゼは笑いながらそう言った。
エリーゼも昨日の宿屋の件を知っているのだろうが、それでも冗談だと思われているようだ。
「そうですね、クドウさんもプリズンさんを倒すほどの強さの様ですし。なによりアール様がおられるのですからまったく問題なさそうですね!」
プリズンを1発でのしたのが効いていたらしい。
そこまで止められることなく、問題なくエリーゼは依頼の受注を許可してくれた。
「では、頑張ってきてください! アール様!」
エリーゼはそう言って俺達……じゃなかった。アルジールを送り出した。
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