第14話 人類の歴史と動き出すユリウス教
「これが人類と魔人達が歩んできた歴史だ。良くも悪くも人類の歴史は魔王という存在に左右されてきたということだな。理解したか? 神官達よ」
神ユリウスの頭の中の映像が頭に直接流れ込んでいた神官達は、神ユリウスに問われはっと意識を現実に戻した。
切り貼りされた神の記憶の映像は神官達には想像を絶するものばかりだった。
旧魔王に完全に支配されていた人類。
そして、人類に長き平和をもたらしていた今は亡き魔王。
始まりの勇者が魔王を倒し、世界に平和をもたらした事しか知らない神官達には新しい事実の連続だった。
「法王はこの事をご存じだったのですか?」
神官の1人に問われた法王は静かに頷いた。
「あぁ、法王戴冠の儀の一環としてあの事実は新しい法王に神ユリウスから伝えられる。……今見ても、実に恐ろしい話だ」
「そうか、貴様も他の法王たちと同じくこの事を他の者に伝えてはいなかったか」
神ユリウスがそう言うと法王は大きな声で叫んだ。
「あんなものを皆に伝えられるはずがないでしょう! 人類が魔人共に手も足も出ずにただ蹂躙されていた時代があったなど! ましてや、今の平和が新しき魔王によって与えられていたものだったなんて!」
法王がはぁはぁと息を切らしながら叫ぶのを他の神官達が宥める。
「そう喚くでないわ。法王よ。だが、貴様たちが他の者達に伝えなかったのはある意味では正解であろう。魔王に与えられた平和に安心し、戦いの術を身につける努力を怠るなどという事にならなかったのだからな」
魔王を打破するために人々は力をつけてきた。冒険者協会は数多くの勇者を輩出し、ユリウス教も多くの聖者達を育て上げたのだ。
魔王に挑んでいった者達の結果は散々たるものだったが、それでも人類は戦うことを止めることはなかった。
神ユリウスの記憶の中にあった人々とは大きな違いである。
(もしかするとこれまでもあやつの狙いの一つであったか? つくづく食えない男だ)
神ユリウスはそんなことを思う。
「貴様ら、自分たちが成さねばならぬ事が理解できたか?」
神官達は神ユリウスに膝を付き頭を下げた後、神ユリウスの前にも関わらず、走って大聖堂最奥の部屋から出て行った。
「我の前だというのになんとも慌ただしい事よ。……で、貴様は行かなくてよいのか? 法王よ」
神ユリウスは只一人部屋に残っていた法王に声をかけた。
「神ユリウスよ、一つだけお尋ねしたいことが御座います」
「なんだ? 言ってみるがいい」
神ユリウスの許可を得て、法王は神ユリウスに尋ねる。
「魔王の死因は何でございましょうか? ……まさか神ユリウスが?」
法王は神ユリウスが魔王を葬ったのではないかと考えていた。
魔王に寿命があるかどうかは法王が知るべくもないが、何者かに殺されたというのであれば、現時点で神ユリウスが一番怪しかった。
「さてな、気づいたら魔界から消えていたのでな。我から存在を隠すなどできようはずもない。だから死んだと言った。これで満足か? 法王」
これは半分嘘で半分が本当だ。
神ユリウスは魔王が魔界から突然消えたと言った。それは本当だ。
だが、神ユリウスは魔王の死因について知っている。
死んだというよりも転生したという方が正解だが、魔王を名乗った魔人の体がこの世から消え去ったという意味では間違っていない。
「そうですか」と法王はとりあえず納得することにした。
「では我は天界に帰るとしよう。——そうだ。忘れておった」
そう言い、神ユリウスが転移ゲートに顔を突っ込み何かを言った後、いつも言葉を授けにやってくる天使が空の台車と共にこちらにやってきた。
「では今回の分をもらっていきますね」
天使は部屋の片隅に積んであったワイン箱を苦も無く台車へと積み込むとガラガラと天界へ帰って行く。
「ではな、法王。期待しておるぞ。わははははは!」
豪快な笑い声を上げて神ユリウスは転移ゲートの中へと消えていった。
神ユリウスの気配は去り、頭を上げた法王は呟く。
「……神ユリウスよ、貴方様が見せる人類の歴史には貴方様が出てこられません。貴方様はいつどこからやってこられたのですか?」
神ユリウスに問うことができなかったその問いに答えられる神ユリウスはもうこの場にはいなかった。
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