夢の中へ (2)


 おとぎ話に出てくるようなメルヘンなベッドの上で、少女は深い眠りについていた。

 西川英理さいかわえり。玲子の一人娘で、今年五歳になったばかりだという。白い肌に、ほんのり茶色がかった緩いウェーブの髪。静かな寝息を立て眠る少女は、まるで人形のようだ。とても可愛らしい雰囲気を纏っていた。


「今朝も声を掛けてみたのですけれど、やはり一向に目を覚ましません」


 潤んだ声でそう言い、目元にハンカチを押し当てているのは少女の母である玲子だ。ろくに眠っていないのかもしれない。とても疲れ切った顔をしていた。


「大丈夫です! 絶対に助けます!」


 明るくそう言い、励ますように玲子の肩に手を置いたカレンは、強く頷いた。

 いつもなら、「絶対なんて言葉は使うな」と窘めていただろう。けれど、カレンの言葉で弱々しい笑顔を浮かべた玲子を前にしては、とてもそんな正論は吐けなかった。


「早速始めます」


 そう切り出したのは直樹だった。普段はお調子者のカレンも隼人も真剣な顔つきだ。

 肩にかけていたショルダーバッグを床に下ろし、皆それぞれ準備に取り掛かる。


 夢の中へと入る装置。大門英樹の努力の結晶。約二年ぶりだった。ちゃんと動いてくれよ、とその懐かしい装置を手に取る。

 ヘッドフォンの形をしたその装置は、"マインドリカバリー"と名付けられていた。安直な名前だが、"心を治す"という父の想いが詰まった名前だ。


 まずはヘッドフォン型の装置を、今もなお眠り続ける英理に装着させる。直樹とカレンも同様の装置を装着し、待機。あとは、今隼人が立ち上げているPCの準備が整えば、いよいよ完了だ。

 まずは英理に装着したヘッドフォンを介して、隼人の操作するPCから英理の心をデータ化、そしてカレンと直樹も同様にデータ化し、英理の心に組み込む。データ化された心の中では、PCを介し制御する隼人からの指示、サポートが重要になってくる。直樹達が着けたヘッドフォンから、現実世界にいる隼人とも会話できる仕様となっていた。


「準備OKだよ。いつでもいける」


 準備を終えた隼人は、待機する2人にいつになく真剣な顔でそう告げた。それを受けて、カレンと直樹は顔を見合わせ気を引き締めた。


「娘をよろしくお願いします」


 玲子のその言葉が合図だった。ヘッドフォンの側面が淡く光り出し、その光が二人の身体を包み込む。

 久々の感覚。自分の手のひらに目をやる。身体全体がピクセルのような状態になり、足元はもうほとんど消えかかっている。

 ゆっくり目を閉じ集中する。徐々に意識が遠のき、最後はまるで、電気のスイッチをオフにしたかのようだった。


 夢を治すDream Doctorは、二年という時を経て、また夢の中へといざなわれる。

 ――さぁ、仕事の時間だ。

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