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「いった!」


「そんなに痛くないでしょ! 大げさですよ楢さん」正直いうと真芯でとらえた手ごたえがあってこちらも驚いていた。「サッカー部はしょっちゅうヘディングしてるでしょ!」


「俺はヘディング嫌いなんだよ。いつでも競ってるフリだから」


「よくそれで代表選ばれてますね」


「バレないんだなこれが」楢本さんは上手くごまかせているのが得意なようでその喜びは痛みを忘れるものだったらしい。


「ほら、これでちゃんと買ってけよ。」楢本さんは財布から千円を出すとゴメスが手に取るまで突き出した。「俺と三上君はゴメスに感謝してるんだから、これくらいはやらなきゃな」


「意味わからん」ゴメスは千円が本物かどうか確かめるように眺めていた。やっさんは笑顔で「よかったなゴメスもらっとけもらっとけ」と言ってまるで自分がもらったみたいに喜んでいる。


「ま、それぐいらは当然だよ」成瀬さんの言葉に栗山さんもそーそーと言ってうなずいた。


「じゃ行くか!」となぜか締めの掛け声を自分が言ってしまった。やはり高校に入って初めて授業をサボるので高揚していたのだろう。


 二人とも自転車通学だが、肝心の相手の住所を訊き忘れたのでゴメスは確認しに校舎へ戻って行った。長いこと待たされるようなら様子を見に行こうかと思ったが、ゴメスは駆け足で戻ってきた。気を使ってくれてるのだろうか? 


「そんなにあわてなくていいよ」と笑って声をかけた後ろから教師の姿が見えた。ゴメスは上履きのまま外に出てきた。


「逃げろ逃げろ」


「どうした、なにやった?」


「見つかったヤバイいヤバい」


「何が見つかった?」


「バカいいから出せ早く」


 自分はとにかく自転車をこぎ始めた。すぐさま力強く車体をつかまれる手ごたえを感じて振り返った。もう終わりか、しかし後ろにいたのはゴメスで、加速に力を貸しているのだった。


「ゴメス! 自転車は?」


「これで行くこげこげ」


 そうしていったんよろめきながら二人乗りは出発した。遠くから聞こえてくる声はクッシーのような気がしたが、もちろん振り返りはしなかった。


「相手の家どっち?」


「このままでいいよまっすぐ行って」


 ゴメスの重量もスピードが出るころにはひとまず苦にはならなかったが坂道は別である。


 解放感はサボった人にしか分からないところもあるだろう。車道も歩道も狭いのには閉口した。新しい未知の道路を走ることは自分の心をこれほど満たすものなのだという驚きがあり、自分は目に映る全てのものを忘れないよう記録する気合いでいた。

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