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「いや、別になんでこんなやつといかなきゃなんないの」ゴメスもイライラしてきたところをみると短気な性格のようだ。自分は誰にも言われたことはないが、長所は気が長いことだと思う。この部分を誰かに褒めてもらいたいものだが、誰にも指摘されたことはなかった。


「謝罪は一人でいかなきゃダメだろ。俺は関係ないしさ」


「行けって。どうせ次数学なんだから、また寝るんでしょ」


 女にはすっぱな口をきかれると横っ面はったおしたくなるのが男の人情というもので、相手が栗山さんならなおさらだった。しかし数学の授業なら確かに寝るのは間違いない。正確な事実の前にはいくら感情を積み上げでも無駄である。


「確かに、いこっかな。」この言葉はほとんどゴメスへの嫌がらせの気持ちが占めていた。


 驚いたのはゴメスだけだったが、言った後にやはりいわなきゃよかったとすぐに後悔した。当事者でもないのにこんなに心境がぶれるのは解せないところで、こういう時の結果は百パーセントうまくいかないとしたものだ。「やっさん、どう思う?」


「俺にきくなよ! でもまぁ…ミカちゃん数学の授業一回ぐらい休んでもなーあんまり関係ないし…」


「やす! お前何言ってんの? いいよこんなやつ来ないで、俺一人でいくから」


「それもなー」とやっさんは困っていた。ゴメスはゴメスでやっさんに心配されるあたり、万全の信頼を得ている訳ではないらしい。女子のケツにカンチョーするぐらいだから当然である。


「三上く~ん、栗山さんと成瀬さんいる?」と言いながらすでにこちらを見つけた楢本さんが教室に入ってきた。他の生徒たちもまた来たかという目で楢本さんを迎えていて、もはやアゥエーどころかホームである。


「ゴメスじゃん、いっしょのクラスじゃないよな?」ゴメスの背中を叩きながら楢本さんは輪に加わった。


「楢さんこいつ知り合い?」


「そうだよ、ゴメス三上君知らないの?」


「今日初めて」


 やっさんとも楢本さんとも関係があるので率直に文句を言うのをためらっているあたり、楢本さんよりも常識があるらしい。自分は初めてゴメスへの好感度が出現した。


「俺と三上君はもう戦友だよ、戦友みたいなもんだよ」


「サッカー部じゃないのに?」ゴメスの疑問は当然だ・


「いっしょに女子のパンツ覗きにいく仲なんだよ」

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