第47話 迫る追跡者


「……分霊様 ! なぜわたくしを中へ入れてくださりませんの !? 」。


 光妖精ウィスプが光り輝く金色こんじきの髪を振り乱しながら、黒いウエストバッグ型のアイテムボックスを腰に装着した白いマネキンに抗議した。


 マネキンは昨日までコウが羽織っていたモスグリーンの外套がいとうをも着用している。


「分をわきまえなさい。あなたにはその資格がありません」。


 アイテムボックス内に魔力切れ状態で収納されているコウの元へ駆け付けたいのであろう。


 光妖精ウィスプのゾネの陳情ちんじょうを「ポケット」は、けんもほろろに却下した。


「資格 !? 妖精族の王種たる 光妖精ウィスプわたくしの何の不足があるとおっしゃるのですか !? 」。


 ゾネは片手を胸に当て、もう片手を大きく振って、食い下がった。


「……そういう意味で言っているのではありません。では逆に聞きますが、あなたは自分の内側うちがわに迎え入れる相手をそういった基準で選ぶのですか ? 」。


 無機質な白い顔が何の表情も無く 、光妖精ウィスプ見据みすえた。


 その魔法人形マジックドール自体に分霊が宿やどっているわけではない。


 あくまでウエストバッグ型のアイテムボックスに宿ったポケットが操作しているだけなのだが、それは言語化できない何か恐ろしい迫力をゆうしていた。


「…… !? アイテムボックスにお宿りになった分霊様にとって……コウ様を収納するというのは、そういう意味なのですか…… ? 」。


「私は、私の中に彼以外の生命あるものを招き入れる気はありません。それだけです」。

 それだけ言うと、「ポケット」は歩み始めた。


 目的地である妖精の国へ向かって。


「……なんだかよくわからないけど光妖精ウィスプ様、滅茶苦茶機嫌悪そうだね。御使みつかい様がアイテムボックスの中で休んでるから寂しいのかな ? 」。


 土妖精ノームの少女ドナが隣を歩くユーニスに小声で話しかけた。


「あ……うん。きっとそうね。あんまり気にしない方がいいと思うわ」。


 歯切れの悪い返事だ。


「どうしたんだ ? いつものお前なら狂喜して食いつきそうなやり取りだったじゃないか ? 」。


 アゼルが少しだけ意地悪な顔で言った。


「……あんたは私を何だと思ってんのよ…… ! あれは……その……生々しすぎてダメよ……」。


 顔を真っ赤にしてうつむく少女。


 その様子を見て逆に焦る少年。


 そんな二人の様子をイマイチ理解できずに眺めるドナとデニス。



「なんだか女の子達がお客さんを取り合って喧嘩になったのを思い出すね ! 四月の御使い様、大人気だね…… ! 」。


 こちらも小声でエルフのセレステがすぐ隣を飛ぶ水妖精ウンディーネのスーに天真爛漫てんしんらんまんな笑顔で言った。


「……それとは違うわ。あれは同じように大盤振る舞いでお金を使う客がもう一人現れたら解決したでしょ。でもあの御使いに代わりはいない。……だから厄介なのよ」。


 そう ? と首をかしげるセレステに構わず、スーは一行の先頭と最後尾を見る。


 光妖精ウィスプと同じように抗議してもおかしくない二人が妙に静かなのが気になっていた。


(あの御使いが態度をはっきりさせれば解決するレベルであればいいんだけど……)。


 スーは小さな身体を全部使って、大きな溜息を吐いた。




「……今更だけど、こんなに急ぐんなら馬車を用意すれば良かったんじゃない ? 」。


 最低限の休憩しかとらず、疲労は回復薬で誤魔化しての強行軍に最年長のおばちゃんから苦情が出た。


「『聖女』に見つかった時点で、あのまますぐ街から出る以外の選択肢はなかったわ……」。


 力なくネリーが答えた。


 質の良い革の鎧をまとい、腰には神聖なオーラを放つ剣。


 見た目は立派だが、彼女はメイド。


 肉体を酷使する今の状況で一番参っていたのは彼女だった。


「……後ろからついて来てるな。人狼族なら今、対処しておいた方が良くないか ? 」。


 キャスが槍を握りしめて、背後からつかず離れず追ってくる気配への対応を提案した。

「……もし追手が人狼なら私達が向かって行けば、あっちは退くわ。そして私達が目的地へ進めばまた追い始める。どうせ今日の夜に襲ってくるんだから、それまでに四月の御使い達に追いつくことを優先した方がいいわ」。


 回復薬をあおりながらも、ネリーは足を止めない。


 今夜は満月。


 人狼族が最も力を強める時だ。


 少しずつ低くなってきた太陽が疲れ切った彼女を焦らせていく。



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