第6章42幕 激突<crash>
『三回戦第二試合決着!』
しばらく待っているとそうアナウンスが聞こえ、NPCが私を控室まで連れて行きます。
「四回戦は全四試合です」
歩きながらNPCが説明してくれます。
「ってことは決勝戦を含めてあと三試合戦わないといけないですね」
「そうなります」
全五回戦を戦う事を想定して準備してきていたので少し困惑します。
でも順当にいけば決勝戦はステイシーと戦うことになります。すでに手の内はばれているので、特に深く考えなくても良さそうですね。
「またお時間になりましたらお迎えに上がります」
「あ、お願いします」
私はそう言ってペコリと頭を下げ、控室に入ります。
次の対戦相手、先ほど三回戦第二試合での勝者を確認して驚きます。
対戦相手はマーリンとなっていました。
これで話す機会を作ることはできそうですが、試合後の会話に参加してもらうには、やはり勝つしかありませんね。
私は一度深呼吸をし、ソファーに身体を預けます。
モニターのようなもので試合を確認しつつ、時間を潰していると、扉がノックされます。
「はい」
「やー」
そこに立っていたのはステイシーでした。
「控室って行き来していいの?」
「反対側の枝ならいいってさー。次のチェリーの対戦相手がマーリンだねー」
「そうだね。最初、四回戦は火属性魔法で戦うつもりだったけど、これなら普段通りやっても問題なさそうかな」
「だねー。まー激励に来ただけだからもう帰るよー」
「うん。ありがと」
「次の試合頑張ってねー」
「うん」
ステイシーに返事を返すと、彼は扉の向こうでぱたぱたと手を振り、扉を閉め去っていきました。
今までのマーリンの戦闘を見る限り、戦術は極めて単純な大火力魔法による開幕直後の攻撃で勝利してきています。
そしてその属性は闇。
私と同じ属性をメインにしているようでした。
一、二回戦の属性がミスリードを誘うための本来の得意属性ではない攻撃にしては火力が強すぎます。つまり、マーリンは闇属性魔法を得意としていると分かります。
対抗策としては私が光属性もしくは聖属性の攻撃を用いることですが、それでは勝てないという確信がありました。
なので私も全力の闇属性魔法で行こうと決め、決めかねていた装備を普段のものに戻します。
特殊装備品である【神器 チャンドラハース】を使うことになるかもしれませんね。
そう言って感触を確かめていると、三回戦の全試合が消化され、続いて四回戦が始まるかと思うとアナウンスが流れます。
『ただいまより、お昼休憩と致します。ご観戦にお越しの皆様はチケットの半券をなくさないよう十分ご注意ください。出場者の皆様は闘技場から出ず、控室でお過ごしください。繰り返します』
再び同じ文言のアナウンスを繰り返していました。
お昼休憩ですか。丁度良いタイミングなので、リアルに帰って食事とお手洗いでも済ませてきましょうか。
私はそう思ってすぐにログアウトしました。
現実で用を済ませた私は、すぐにログインします。
すると私の控室には弁当が用意されており、キャラクターでも食事をとります。
この辺は不思議な感覚です。
リアルで食事を取って来てもキャラクターはお腹が空いている状態なので、空腹感があります。一番不思議なことは、空腹感は感じるのに、満腹感は薄いということでしょうか。
もぐもぐと弁当を食べているとアナウンスがかかります。
『まもなく四回戦第一試合が開始されます。ご観戦の皆さまは再入場の際、チケットの半券の提示をお願いいたします。出場選手の皆様は控室にお戻りください。繰り返します』
思ったより時間がない!
私は弁当をかきこんで、箸を置きます。
そのタイミングで扉がノックされます。
胃に入ったお弁当をトントンと軽くジャンプし奥に落とし込み、私は扉へと向かいます。
「チェリー様。時間でございます」
ん? さっきまでと違う声のようですね。
「今開けます」
私はそう言って扉を開けます。
「準々決勝からは私がご案内させていただきます」
「お願いします」
「ではこちらです」
そう言って少し歳を取ったNPCが私を連れ、待機場まで連れて行きました。
「ご準備の方はよろしいでしょうか」
そう言われ、もう一度装備を確認します。
「はい。大丈夫です」
問題がなかったのでそう伝えると先ほどと同様赤い旗をパタパタと振ります。
『決闘大会準々決勝第一試合が間もなく開始されます。』
三回戦の時同様アナウンスが入ります。
「まずは白口からの入場だー! 皆様お馴染みの選手です! 今回も開幕の一撃で勝利できるのか!? しかし対戦相手はあのアリス・キャロルを破った新星だー! 果たしてどうなるのか! それでは<堕天使>マーリン選手の入場です!」
<堕天使>?
【称号】ではなさそうですね。二つ名でしょうか。でもこの二つ名を持つということは【堕天使】を持っている可能性もあります。
【堕天使】は聖属性魔法、光属性魔法を闇属性で発動できるユニーク【称号】の一つです。
私が闇属性魔法使いと知られたら、聖属性もしくは光属性での攻撃にシフトしてくる可能性は大いにあります。
そう思考していると、すぐに私の紹介も始まります。
「続いて赤口からの入場だー! 先ほどアリス・キャロル選手を破り、この準々決勝まで駒を進めた期待の新星チェリー選手です! 果して、決闘の覇者と言われたアリス・キャロル選手を破ったように、マーリン選手も破るのでしょうか! それではチェリー選手の入場です!」
紹介されたので私はとことこと闘技場に入り、マーリン選手と握手をします。
「よろしくお願いします。少しお聞きしたいことがあるので決闘後御時間いただいてもよろしいでしょうか」
「君が勝てたら考えるとするよ。よろしく」
「よろしくお願いします」
強く握手を交わした私達は各々開始線まで下がります。
「こ……これはどういうことでしょうか! チェリー選手! 持っている武器は腰に刺した一振りの剣だー!」
予備ですよ。予備。ブレスレット形態とリング形態が武器とは気付きにくいですもんね。それにそうなるように、私はこれまで近接武器を最初に持ち込んでいたので。
魔法を使えることはもうばれてしまっていますが。
「準備はよろしいですか?」
司会NPCがそう言うとマーリンは杖をクルリと回します。
私も腰の【神器 チャンドラハース】に手を掛け、頷きます。
「それでは……準々決勝第一試合開始っ!」
司会NPCがそう開始宣言をした瞬間私の目の前には大きな≪ダーク・ボール≫が迫ります。
「≪ホーリー・シールド≫」
≪ダーク・ボール≫の大きさに合わせた≪ホーリー・シールド≫を展開し、私は≪ダーク・ボール≫を防ぎました。
「やるね。本職は魔法使いか。なら手加減いらないね。≪ダーク・ピアス≫、≪シャドウ・ボルテックス≫」
二つの魔法をマルチキャストで発動したマーリンの技量に驚きつつ、私も一枚目のカードを切ることにしました。
to be continued...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます