第6章34幕 名簿<list >
「裏口はどこや?」
私達はリーリと合流し『騎士国家 ヨルデン』の案内所にやってきました。
もこちねるが「潜入って言うたら裏口やんな?」と言って裏口を探し始めます。
「ボクは裏口探さなくても、≪隠蔽≫装備があるからいいと思うんだけど」
「私もそう思う。≪認識阻害≫の魔法だってあるし」
リーリと私がそう言うと、少ししゅんとしたもこちねるが戻ってきます。
「≪認識阻害≫頼むわ」
「わかった」
『進メ 彼ノ者ヨ 渡レ 真実ノ道 我ガ血潮ヲカテトシ 辺リニ闇ヲ我ラニ光ヲ』
『≪真実ニ至ル道シルベ≫』
私が≪認識阻害≫を、正確には少し違いますが、発動します。
「これ発見防止やないか。便利な魔法覚えたな」
「でしょ。スクロールになってるのを見つけて習得したんだ」
「高かったやろ?」
「ううん。ドロップ品だもん」
「そうか。ほないくで」
「時間制限あるから気を付けてね」
私がそうもこちねるに声を掛けると、わかったと言わんばかりに手をひらひらと振ります。
「内部には問題なく侵入成功。あとは依頼者リストをちょっと見せてもらうだけやね」
内部に入り、プレイヤーが基本入ることのできない、裏までやってきます。
「裏もしっかり作られててちょっとびっくりー」
「うちは知っとったで? おっと。あそこが保管所みたいやな」
保管所には依頼人の名前などの情報、そしてそれを受注した人の名前などが記載された名簿が置いてあるそうです。
「こんなかから探すんは骨折れるな」
そう言いながら入口に近い棚からパラパラと名簿を捲り始めます。
私とステイシー、リーリも散り散りになり、名簿をあさります。
あっ。これちょっと前に受けたクエストだ。
そう思いながら、その近辺の名簿を漁ります。
自分たちがちょっと前に受けた依頼があるということはその近くにあってもおかしくありませんから。
その近辺をあさり続け、10分ほどが経った頃、一つの名簿を発見します。
「っ! これだ!」
私が声をあげると、もこちねるがやってきます。
「貸しっ!」
もこちねるが私の手から引っぺがした名簿をパラパラ捲ります。
「これや……≪模写≫」
もこちねるが≪模写≫のスキルを使い、内容を写していきます。
「おっけいや。ずらかるで!」
もう発見防止の効果は切れそうなので、急いで案内所から出ます。
「お手柄やでチェリー。どうやって見つけたんや?」
「たまたま最初に見た棚に、私達がちょっと前に受けたクエストがあって、その近くかなって」
「なるほど。ここをホームにしてへんとわからんな。早速やけど、一回『ブラルタ』に飛ぶで」
「わかった」
理由は分かりませんが、もこちねるがそう言うなら必要なことなのでしょう。
「≪ワープ・ゲート≫」
「副長に提出しないといかんのよ」
そう言って『叡智会 支部本部』へと歩いてきます。
すでに顔パスで入れるようになっている私達も続きます。
そしてもこちねるが浮島のいる部屋をノックします。
「どうぞ」
「副長。手がかりをつかみました」
「見せてくれますか?」
「こちらです」
そう言って先ほど≪模写≫した名簿を浮島に渡します。
受け取った浮島がしばらく眺め、頭を抱えます。
「ここまで複雑なのですね。もこのパーティーを主力として、こちらであと3パーティーほど用意します。もこのパーティーは該当人物を追跡し、捕獲、もしくはデスペナルティーにしてください。予備戦力として編成する3パーティーはこのまま『ヴァンヘイデン』に向かわせます」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
そこで私が口を挟みます。
「どうしましたか、チェリーさん」
「なんで『ヴァンヘイデン』に戦力を送るのですか?」
「簡単な話です。放置したら戦争になるので、けん制として数部隊送り込みます」
「話が見えません」
「チェリー。よくこれ見ぃ」
先ほど≪模写≫したものを私に渡してきます。
私はステイシー、リーリとその内容を眺めて言葉を失います。
「だから……『虎の子』を抜けてたんだ……追放になるのが分かってたから」
「チェリー。どうするー? このままだと戦うことになるよー?」
「仕方ないよね。ちょっとおいたが過ぎた元仲間にはキツイお仕置き、しないとね」
記載されていたのはファンダンの名前でした。
「チェリーやれるんか? 元仲間なんやろ?」
「だからこそ、私がやらないとだよね」
私はそう決意の炎を目に燃やし、『花の都 ヴァンヘイデン』の方を眺めます。
「部隊編成で一つお願いがあります」
私がそう浮島に言うと、浮島はこちらを見て、促してきます。とはいっても、何を言うのか分かっていそうな雰囲気ですが。
「部隊編成にジュンヤ、ハリリン、纏花を加えてください。彼らにも知る権利があります」
「彼らには元より打診するつもりでした。いろいろあるでしょうから。そして『ヴァンヘイデン』は恐らく国力の落ちているこの『ブラルタ』を攻め落とせると考えています。傭兵などを起用して」
「もう一つ話したいことが……」
「ジュンヤさんが国王を騒ぎに乗じて暗殺するつもり、ということでしょう?」
「はい」
「大丈夫です。もしそうなっても、取り返しはつきます」
「えっ?」
「実質いま『ヴァンヘイデン』という国を運営しているのは宰相の方です。そちらを我々が暗殺、ジュンヤさんが国王を暗殺します。そうすれば姫君が女王となり、まともな国に生まれ変わります」
「その為には必要な犠牲だと?」
「はい。チェリーさんは気にしなくて良いです。ファンダンさんを倒してくれれば契約成立です」
「……分かりました。私はファンダンを倒します」
「でも気を付けてください。おそらく、多国籍ギルドの『仁義』に入っています」
「うちら5人じゃ正直厳しいです。少し人手が……」
「もこが見つけてください。少数精鋭で『仁義』を叩いてください。拠点を持たないギルドです。いつどこにいるかも分かりません。なので当面はファンダンさんの捜索に当たってください」
「わかりました」
もこちねるがそう言って退出しようとします。
それに続き私達も退出しようとしますが、私の背中に浮島の声がかかります。
「チェリーさん。巻き込んでしまい申し訳ありません」
「それは仕方がないことです。でも願わくば……」
戦争なんてない、平和なゲームであればいいのに。
私はその一文を心の中で唱え、部屋を出て行きました。
to be continued...
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