第5章44幕 交換<swap>

 「すまない。すこし遅れた」

 避難所から出る際の見送りのせいで少し到着が遅れた私達は、すでに到着していたエルマ達に謝罪します。

 「気にしなくていいよー。とりあえず情報交換しようかー」

 そう言ってステイシーが酒場を指でさします。

 中で話そう、って言うことですね。


 酒場に入り、ノンアルコールを注文した私達は奥まった場所に座ります。

 「そちらはどうだったのか教えてくれるかい?」

 サツキがまずエルマ達に問いました。

 「僕たちは特に何もなかったー。魔法的な調査もしてみたんだけど、〔龍の恵〕というものは見つけられなかったよー」

 「それに人っ子一人いないなんておかしいと思う」

 ステイシーに続き、エルマも意見を述べます。それについては私達がある種の情報を持ち帰ったので大丈夫でしょう。

 「そうか。ではこちらが得た情報だ。まず人がいない理由だが、こちらは地下にある避難所に避難していた」

 「そうなの?」

 「あぁ。区長という、区画を纏める長がいるそうなのだが、その人物の家の地下には避難所があり、別の区画の避難所と続いているらしい。だが、ワタシ達が行った区画以外は全て全滅とみて間違いないだろう」

 サツキが得た情報の一つ目を告げると、少し考えるそぶりをしたステイシーが「だからかー」と呟きます。

 「生命反応はほどほどにあるのにいないと思ったら地下だったのかー」

 「そう言うことだ。そしてこちらが得た情報の二つ目だ。〔龍の恵〕はこの都市に住む【龍神 ドラグジェル】の眼球だそうだ。そしてそれを得た物はこの都市の全てを手に入れられるそうだ」

 「なるほどー」


 他に細かい情報交換を行っていると、クーリ達が酒場へとやってきました。

 「おう。早いな」

 そう言って私達のテーブルへとやってきたクーリが小声で言ってきます。

 「諜報がいる。いま犬面が逆諜報に向かってる」

 そこまで小声で言ったあと、大声で「酒を持ってこーい」と言いました。


 「もどったっす。えっと、≪睡眠針≫使って眠らせてきたっす。諜報が一人とは考えにくいっすけど、この状況でそんなに多くの諜報員が残ってるとは思えないので当面は大丈夫だとおもうっす」

 恐らくは、区長が送り込んできた監視でしょうが、それを眠らせてきたそうなので落ち着いて話ができるようになりました。


 先ほどエルマ達に説明したことをもう一度説明します。

 「覚えておこう。じゃぁ俺らが掴んだ不動たちの情報だな。空蝉、まんちかん頼むわ」

 「うん。まずあいつら3人は≪探知≫系スキルを持っていないみたい。片っ端から家を壊して漁ってる。でも見つかってない」

 空蝉が話し終わるとすぐにマンチカンが話し始めました。

 「こちらは戦力についての情報だよ。3人なのは知ってると思うけど、ダブルアックス使いとハンマー使い、そして魔法系に見えたよ。ダブルアックスが不動だね」

 敵の誰がどの武器を使っているのかを知っておけるのはありがたいですね。対策も取れますし、いざというときに間違えて殺さないで済みますし。

 「つまりだ、情報を総合すると、〔龍の恵〕は手に入れれば都市を手に入れたのと同じ。だが場所がわからないということだ。振り出しだな」

 そうですね。振り出しに戻ったかもしれません。ですがまだ一日目なのでこんなものでしょう。

 「よし、今日は解散だ。宿まで案内するぞ」

 クーリが立ち上がり歩き出します。

 「おっと一つ忘れていた」

 そのタイミングでサツキがそう言うと、クーリ達が振り返ります。

 「どうした?」

 「〔龍の恵〕は内密らしいね。少し話しただけで態度が一変したよ」

 「そうか。覚えておく」

 そう言ったクーリに続くように私達も、酒場を出ました。


 「あんまいい宿じゃないが、この非常事態にやっていてくれる事を感謝するべきだろうな」

 宿の前に着くとクーリがそう言いました。

 たしかに、いつ自分が殺さるかも分からない状況で仕事を続けるのは余程の覚悟が必要ですよね。

 「いえ。そんなことはないのです。私達も逃げ出したいのです」

 すると後ろから若い男性の声が聞こえます。

 「それはどういうこと?」

 エルマがそう聞くと、彼は少し悲しそうに答えました。

 「私達は、公務員ですから」

 この世界公務員とかそういう概念もあるんだ……。

 「ご案内しますね」

 首を横に何度か振り、気持ちを入れ替えた男性がそう言いました。

 「お願いします」

 私は返事をし、ついて行きました。


 「じゃぁサツキさん達もゆっくり休んでくれ。また明日な」

 宿は押さえてくれていたものの、手続等はまだだったようで、先にクーリ達は客室へと消えていきました。

 「こんな時期にごめんなさい」

 私がそうカウンターの女性に謝ると、女性は首を傾げながら答えます。

 「はい? いえ。これが仕事ですので。ではこちらのお部屋をお使いください」

 スッとカウンターの下から鍵を取り出し、渡してくれたので、全員分受け取り、客室へと行きます。

 「じゃぁ明日はまた情報収集になるね。ゆっくり休んでくれ」

 そう言ってサツキは適当な鍵を取り、客室へと消えていきました。

 それに習うように私達も別れ、各々客室へ行き、休息をとることになりました。


 私は客室に入り、すぐに布団に潜り込み、ログアウトしました。

 そしてメッセージツールを起動します。

 『ハリリンいまちょっといい?』

 そうメッセージをしておきます。


 ゆっくりと晩御飯を食べ、お風呂に浸かってくると、ハリリンから返事が来ていました。

 『メッセージなんて珍しいっすね。結構真剣な話だと思うっすよ。相談乗るっす』

 そのメッセージに私は事のあらましを記載し、返信します。


 すると5分ほどして、ハリリンから返信がありました。

 『そういうことっすか。でもそれじゃ探しようがないっすよね。もしくは、本当に存在しないか』

 『どういうこと?』

 『設定として〔龍の恵〕があったとしても、本当に実装されているか分からないってことっす』

 『あっ。そっか』

 『やることは二つっす。必ず解決できるようにクエストは組まれてるわけっすから、どこかに攻略の鍵があるんすよ。その鍵を探すか、不動を排除しちゃうか、すね』

 『そう言えばNPCの偉い人が、〔龍の恵〕の話をしたら態度が結構変わったかな?』

 『それは怪しいっすね。たぶん知ってるっすよ。隠し場所』

 『やっぱりそう思う?』

 『思わないほうが無理っすよ。明日トライするか。今からこっそり忍び込んで調べてきた方がいいんじゃないっすか?』

 『そうしようかな。あっ犬面さんて人にあったよ』

 『おー。俺の追っかけの犬面っすか。懐かしいっすね。尾行の才能は俺より上っすから何かあったら協力を頼むといいっすよ』

 『わかった』

 『こちらから調べられる事はないっすから、犬面から情報を聞いて独自に考えてみるっす』

 『うん。何かわかったら連絡して』

 『ういっす』


 ふぅ。そうですね。鍵となるものを何か見つけ出すか。それとも不動を排除しちゃうか。

 排除する分には簡単なんですよね。

 ただそれじゃ一時的な時間稼ぎにしかならないですし、本当に〔龍の恵〕があるのだとしたら見つけないことには終わりませんよね。

 うんうん、唸りながら思考の海に溺れていると、いつの間にか睡魔に連れられ、夢の世界へと落ちていきました。


 ぱっ、と目を覚ますとまだ午前5時前後でした。

 少し、自分にしては少し、短い睡眠となりましたが、思ったよりも寝起きが良かったので今日はこのまま起きておきましょう。

 朝食を軽く食べた後に私は、昨日考えたことを実行すべく、ログインしました。


 宿屋の客室で目を覚ました私は、まずパーティーの一覧を見ます。

 さすがにまだ早かったのか、誰もログインしていませんでした。

 客室を出る前に私は、どこにでもいそうなNPCへとアクセサリーを用いて≪変身≫します。

 この姿で避難所へ行き、あの老人の話を聞いてみるとしましょう。

                                      to be continued...

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