第5章41幕 嘘か真か<true or false>

 「時間制限あるなら仕方ないね。とりあえずこの一つを情報屋に渡すとしよう」

 「プフィー辺りがいいね。あたしとチェリー仲もいいし」

 「そうだね。この後はどうする?」

 私が聞くと、サツキがすぐに答えます。

 「せっかくここまで来たんだ。果てまで行くのも一興だろう。ということで果てまで行くに一票だ」

 「僕も果て行き賛成ー」

 「マオ、も」

 「じゃぁ果てまで行こうか」

 エルマの顔を見ながら言うと、エルマは親指をシュッと立て同意を表します。

 そういうわけで私達は来た道を引き返さず、反対側の入口まで火山洞窟を歩いていきます。


 火山洞窟内部にやはりモンスターの姿はなく、容易に反対側へと抜けることができました。

 「拍子抜けといっては良くないのだろうが、戦闘にならないのはいいことだね」

 火山洞窟のもう一つの入口を抜け、私達は進路を定めます。

 「向こうかな?」

 エルマの指さす方向には、『無犯都市 カルミナ』でステイシーとサツキが集めた情報の中にあった小さい都市があるはずです。

 「概ねそちらだ。細かい道はマッピングが済んでいないから分からないけどね。火山洞窟を抜けてまっすぐとしか聞いていないよ」

 「とりあえずこのまま進もうか」

 そう言って再び歩き出す私達に声がかかります。

 「旅の冒険者でしょうか?」

 老人の声のようです。

 「そうですが。どうかされましたか?」

 「お願いがあるのです」

 そう言って深く頭を下げる老人を無視するわけにも行かず、とりあえず話を聞いてみることにしました。


 「前日から私の住む都市に自分たちをプレイヤーと名乗る悪魔の集団がやってきたのです」

 性向度がマイナスのプレイヤーが押しかけて来た、と。

 「都市で暴虐の限りを尽くし、警備は勿論、女子供まで虐殺し、喜んでいるのです」

 なるほど。

 「そいつらを止めてほしいということですか?」

 「そうです。我々の兵力では太刀打ちできず、貴女方を頼った次第でございます。この洞窟を抜けてこられるのはごく一部の者だけですから」

 「何時ぐらいから被害に?」

 「ちょうど一昨日くらいからでしょうか」

 ちょうどハリリンたちが『無法地帯 ヴァンディーガルム』を抜けた頃ですね。

 「では村まで案内してもらえますか?」

 私の独断ということになりますが、仲間たちに異を唱える人はいません。なんだかんだ皆この世界が好きですから。

 「ありがとうございます」

 そう言って深々と頭を下げた老人は、犯罪者プレイヤーに襲われているという都市に向かって歩き出しました。


 「ここから約1時間ほど歩いた所にございます」

 結構近いですね。

 「『カルミナ』に救援を求めなかったのですか?」

 「何度も使者が殺されてしまいましたが、何とか救援要請には行けました。しかし……」

 「だめだったと」

 「はい」

 うーん。『無犯都市 カルミナ』はプレイヤーを恐れすぎな感じもしますね。それにしてはクエストの前に試験とか謎な事をしだすのでわけがわかりません。


 「見えてきました。あそこです」

 老人が杖で正面に見える櫓のようなものを指します。

 徒歩で一時間ほどと言っていましたが、こちらの老人の足では1時間ほど掛かるのであって、私達ならば20分程度でつく距離でした。

 「この都市の中でプレイヤーがね。ご老人。こちらの都市の名前は?」

 サツキが聞くと杖を下ろし、再び歩き始めた老人が答えます。

 「『龍恵都市 ドラグニア』です」

 「いい名前だ」

 「つよそう」

 サツキが浸りながら返答すると、それをぶち壊すかのようなエルマの声が響き、サツキがキッと睨みますが、エルマは気にしていないようで、口をすぼめて口笛を吹く仕草をします。

 「一応戦闘準備しておこうー」

 ステイシーがそう言ったことで、緊張感が走り、皆表情が硬くなります。


 『龍恵都市 ドラグニア』に着いた私達は門の横にある、日本語で書かれた石碑を見て例のプレイヤー達の行動の意味が分かりました。

 その石碑には『この都市に眠る龍の恵を手に入れなさい。その暁にはこの都市を諸君の手に与えましょう』と書かれていました。

 「これでは無理もない」

 「あたしたちですら心が揺れる提案だよ。都市そのものを手に入れられるなんて」

 「だからだろうねー。しかもここは性向度マイナスのプレイヤーに優しいしー。拠点にしようとしたんじゃないー?」

 サツキ、エルマ、ステイシーの言う通りですね。

 「気合を入れなおして入ろうか」

 門番も殺害されたと老人から聞いていたので、サツキと私で門を開け内部に入ります。


 「陣形はどうするんだい?」

 サツキが聞いてきます。

 「エルマに前衛を任せたい。サツキは中衛で援護。私も中衛に入るよ。ステイシーはいつも通りで。マオは後衛でご老人の護衛を」

 「無難だね」

 「りょうかい!」

 「わかった、わ」

 護衛系クエストでは良くやる布陣なので苦労はしないでしょう。

 「どこから来るかわからない。エルマ注意を怠るなよ」

 「あたしが見えないとこは頼むよ!」

 「全部で9人だねー。3人ずつ別れてるみたいー。そして今の≪広域探知≫で補足された。3人こちらにむかってるよー」

 ステイシーが敵の勢力を割り出してくれたので、すぐに対応できそうですね。


 その場から動かず、犯罪者プレイヤーが集まってくるのを待っていると、すぐに彼らはやってきました。

 正面から一人、屋根伝いにやってきたのが二人です。誰も姿を隠したりはしていませんね。

 「ひゃー。まじかー。クーリに報告してきて」

 「ういっす」

 この三人組で一番強いであろう、正面から来たプレイヤーが屋根の上にいたプレイヤーを逃がそうとします。

 「それをさせるわけにはいかないんだ。≪サンダー・シュート≫」

 サツキが左手の魔銃から雷属性の玉を撃ちだし、去ろうとするプレイヤーを狙います。

 「こっちも必死なんでね」

 正面にいたプレイヤーが飛び上がり、サツキの玉を蹴り、こちらに返してきます。

 エルマの足元にサツキの玉が埋まり、土煙を上げます。

 「まんちかん。どーする?」

 屋根の上にいたもう一人のプレイヤーがそう話しかけます。

 見かけによらず可愛い名前じゃないですか。マンチカン。私も好きです。

 「さてどうする? 私の仲間が増援を呼んでくるまで、耐えて見せる?」

 あれ? もしかしてこの人……。

 「サツキ!」

 私の思考が横に逸れていましたが、マオの一声のおかげで戻ってきます。

 「危ないじゃないか」

 右手の魔銃を背後に構え、忍者刀を受け止めたサツキは正面に飛びながら反転し、左手の魔銃も構えます。

 「いい反応。よし。サツキだっけ? サシでやろう」

 そう言って再び屋根の上へ飛び乗りました。

 「布陣を崩す事になってすまないが、彼はワタシが相手させてもらうよ」

 サツキも≪飛翔衝≫で屋根に飛び移り、忍者刀を持ったプレイヤーを追いかけていきました。


 「さて4対1だけどどうする?」

 エルマが笑みを浮かべながら、マンチカンに問います。

 「分が悪いよ。というよりも君たちの中の一人相手でも私は負けちゃうね。でも生き延びるだけなら話は別かな?」

 そう言ったマンチカンは手袋をはめなおし、靴のつま先をトントンと地面に叩きつけます。

 「名乗らせてもらうね。私は万痴漢。名前の由来はキャラ制作の前の日、電車で一万回痴漢された……夢を見たから」

 「…………」

 ここにいるみんな呼吸が止まったかのような静寂に包まれます。

 「皆そういう反応するんだよね。普通にショックなんだけど」

 「普通にびっくりしただけです」

 「そっか。まぁ名前なんてそんなものでしょ。チェリー」

 「えっ?」

 突然マンチカンに名前を呼ばれ、驚きます。

 「なんで私の名を?」

 「『ヴァンヘイデン』の『セーラム』の店主だよね? いつもありがとね」

 「ん? ん?」

 意味が分からずさらに困惑します。

 「元『ヴァンヘイデン』所属だよ。『ルージュの時間』ってギルド覚えてない?」

 時間稼ぎだとわかっていても、この話には乗ってしまいました。

 「クイナのギルド……」

 「やっぱりね。うちのギルマスとは知り合いだったか」

 「まって!? クイナってあのクイナ? 二重人格の?」

 「そうだよ。クイナは今入院しててギルドも解散しちゃったけど、そう遠くないうちに戻ってくると思うよ。それまでは盗賊プレイでもしようかと思ってね」

 「盗賊プレイでNPCの惨殺はやりすぎです。女子供まで殺してるって聞きましたよ?」

 「それは不動のチーム。私とは別口」

 「別口?」

 仲間ではないんでしょうか。

 「私達は6人でここに来たよ。後から来たのが不動っていうかなりやばいプレイヤーなだけ。つまり、不動は敵、ライバル」

 「その情報はどこまで信用できますか?」

 嘘を言っているようには見えませんが、鵜呑みにするほど私も素直ではありません。

 「じゃぁ一つ。私は窃盗しかしてない。殺しはプレイヤーだけ。ちなみにいまこの話をしてるのは時間稼ぎっていう意味もあるけど、内心は手伝ってほしいと思ってる。クーリが来るまで生かしておいてほしい」

 もし、マンチカンの言っていることが嘘だとすると5人を相手にこちらは3人で戦わないといけません。そうなるとかなり厳しいと予想できます。

 「チェリー。少し待ってみてもいいんじゃない?」

 私がうーんうーんと頭をひねっていると、エルマがそう声をかけてくれました。

 「そもそも敵対の意識があったならサツキの玉はエルマの頭を貫いてたよ」

 たしかにその通りですね。

 ここは待ってもいいかもしれません。

                                      to be continued...

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