第5章40幕 青いバラ<blue rose>

 「結構な対応だったけどフィールドボス倒せたしまぁいっか」

 エルマが休憩がてら入った喫茶店で、注文したミルクティーの入ったグラスからストローだけを取り出しぷにぷにしながら言います。

 「元々そういう都市だったんだろう。外の人は強くて犯罪者でも受け入れなければいけないと言っていたし、嫌いなのかもしれないね」

 「それもあるかもだけどね。でもああいう人が総隊長とかいうのでいいのかな?」

 エルマが思っていることには私も同感です。総隊長って柄じゃなさそうなんですよね。兄のレクレールのほうが仕事もできそうでしたし。

 「まぁ各々事情があって然るべきだ。それよりもこの後はどうするんだい?」

 「ざっとだけど『カルミナ』の情報は集まったよね?」

 私がそう言うと皆が頷きます。

 「マップ的には中央に近いらしいよ。もっと奥まで行ってみる? 聞いた話だと結構強いモンスターも出るみたいだし」

 「それも悪くないね。皆はどうだろうか?」

 サツキが聞くと、誰も異を唱えなかったので、『無犯都市 カルミナ』を出て、『無法地帯 ヴァンディーガルム』をさらに奥へと進むことになりました。

 「そうと決まればストローで遊んでる場合じゃないね!」

 エルマが遊んでいたストローをグラスに戻し、残っていた飲み物を一息に飲み干し、立ち上がります。


 宿は『無犯都市 カルミナ』で押さえていますので、またここに帰ってくることになるとは思いますが、途中途中で小さな都市があるそうなので、そちらで良さそうな宿があったらそこでもいいかもしれませんね。

 無くなったポーション類を補充し、『無犯都市 カルミナ』の門周辺で待ち合わせをすることになりました。

 一度現実に戻り、そちらの身体にも栄養を詰め込み戻って来て集合ということだったので、私はササッと済ませ、門の前に一番乗りでした。

 数分待っているとマオが、さらにもう数分待っているとステイシーとサツキがやってきました。

 「おや? エルマはどこだい?」

 「エルマはまだ来てないよ」

 ログインはしているようなのですが、門の辺りには来ていません。

 「んー。僕探してくるよー」

 「お願いね」

 探しに行くといったステイシーを見送りまたしばらく待つことになりました。


 『業務連絡。面白いクエストがあったから受けるね。ステイシーとは合流した』

 そうエルマからチャットが届きます。

 パーティー全体で受けるクエストだったようで、私達の視界の端にクエストの概要が表示されます。

 「どれどれ……『〔誓いの実〕を取得する』か。どんなものなのだろうか」

 私も気になったので調べてみます。

 掲示板等には情報がないので、『無犯都市 カルミナ』で獲得した知識から探しますが、そちらでも見つかりません。

 「おまたせー」

 そうこうしているとエルマとステイシーが戻ってきました。

 「どう面白そうなクエストだったの?」

 私がエルマに聞くと、ふふん、と胸を張りながらエルマが答えます。

 「たぶんだけどその〔誓いの実〕を使えば、パーティー単位でこの性向度地獄から解放されるよ!」

 あっ。それはいいですね。たくさん手に入れて売りましょう。最近のクエストの赤字を埋められそうです。


 そういうわけでクエストに従って、私達は『無法地帯 ヴァンディーガルム』を歩き始めます。

 『無犯都市 カルミナ』を背にしばらく歩いていると廃村のようなものが見えてきます。

 「NPCの反応ー」

 後方を歩いていたステイシーから報告が入ります。

 「じゃぁ一応戦闘準備だ。前衛は……ワタシが適任だろう」

 そう言ったサツキが魔銃を両手に持ち一歩先へ進みます。

 「おいおい。ここをどこだと思ってんだぁ?」

 前方から声が聞こえます。

 「タダで通ろうってんじゃぁねぇよなぁ?」

 違う声が後方からも聞こえてきました。

 ≪隠蔽≫系のスキルを用いて潜伏していたようですね。ということは結構前から補足されてた可能性があります。

 「あー。すまない。この辺に初めて来たものでね。通行料が必要なのかい? それならば支払うが?」

 サツキが武器をしまいながら財布を取り出します。

 すると正面にいたこの集団の頭であろう人物が言います。

 「金じゃねぇよ。見たところ女が4人。いいじゃねぇか。ちょうど俺らも4人だ。ちょうどいいじゃねぇか楽しもうぜ?」

 悪質な笑みを顔に貼り付けた頭が私や、マオ、エルマを見ながら言います。

 「なかなかに見る目があるようだね。ステイシーが男なのを見抜くとは」

 サツキの言葉に頭が返します。

 「ほう。おめぇステイシーって言うのか。まぁいい。お前のハーレムもここで終いだ。女置いてとっとと失せなっ!」

 ならず者集団はひゃっひゃっひゃと笑い声をあげながらサツキを指さしています。

 この後起きる出来事を私は想像したくありません。


 色々ありましたが、縄で縛ったならず者集団を廃村の地面に埋めたあと、さらに奥へと進みます。

 「本当に信用できる情報なのかな?」

 エルマは先ほど襲ってきたならず者から聞き出した情報を信じていないようです。

 「まぁ一切の手がかりもないまま探すよりかはましじゃないかな?」

 彼らが言うには、この先に火山洞窟があり、その奥にある木に魔力を送ることで手に入れられると言っていました。

 サツキがあれだけやったのでたぶん嘘は言えないでしょう。なかなかにショッキングな光景でした。腕を吹き飛ばした後に回復させるのを何度も繰り返していましたし。

 「んー? あれかな?」

 廃村からそこまで遠くない場所に火山洞窟の入口のように見える空洞がありました。

 「だといいね。こっちは反対側なんだっけ?」

 「そうらしいよ」

 エルマの問いに私が答えます。

 先ほどのならず者から得た情報はもう一つあって、こちら側から火山洞窟に入ると、反対側の大きな入口に出るらしく、最奥はちょうどその中間なのですこし距離があるとのことでした。地図のようなものも頂きましたので間違いないと思います。 

 「ところでいつまでサツキは拗ねているのさ!」

 先ほどから拗ねて、短い紐であやとりをしながらついてきていたサツキにエルマが喝を入れようとします。

 「いや。拗ねては……いないさ。ただショックを受けているんだ。ワタシはこれでも女性だ。無論、男よりも強くあろうとしている。だが女性扱いをされないのと、男に見られるのは別なのであって……」

 先ほどからずっとこんな調子です。

 マオとエルマ二人で頑張って慰めているのですがあまり効果がありません。

 時間が治してくれることを祈りましょう。


 火山洞窟へ入ると、内部は温度が高く、じりじりとHPが削られていく仕様でした。

 「ステイシー。冷却系の常駐使える?」

 「あんまり得意じゃないー」

 「分かった。私がやるね。≪クール・キーピング・エリア≫」

 最初にここに来た際てれさなが用いた≪クール・キーピング・フィールド≫よりも範囲が狭いですが、発動者を中心にした一定距離内に効果を及ぼす点は一緒です。こちらの魔法のメリットは発動者が移動可能ということでしょうか。

 先ほどまで外を歩いていた時よりも密集する形になりますが、元々洞窟なので、密集している方が危険は少ないというのが常識なので、今回はこの魔法がベストだと判断しました。

 「MPやばかったら教えてー。その時は僕が一時的にやるよー」

 「わかった。ところでモンスターの反応は?」

 「特にないねー。というか全くないー」

 モンスターにとっては住みやすい場所だと思いますが、何か理由があるんでしょうね。

 「チェリーこれ見てー」

 その答えはすぐにステイシーから返ってきました。

 「これは……【煉獄龍 ヴォルカイザル】の棘だね……」

 なるほど。モンスターがいないわけです。

 ここはフィールドボスモンスターの根城だったみたいですね。

 フィールドボスモンスターとここで戦闘になることを考えたら、ジャイナスのクエストを受けて、岩山の頂上で戦う方が賢いですね。ここだと≪ブレス≫がチャージ状態だったら即全滅です。


 モンスターがいない理由も判明したので、先ほどよりもペースを上げて歩くと最奥と地図に記された場所に到着しました。

 「この木っぽい何かに魔力を注ぐの?」

 エルマがそう言いながら木というか枝に触ります。

 「ほっ!」

 エルマの身体から溢れた魔力が手を通して枝に吸われていきます。

 「ちょっとまって!? 吸いすぎ! やばい!」

 パーティーメンバーのところからエルマの詳細情報を観覧するとすごい勢いでMPが減っていきます。

 確かにこれはMPポーション飲まないとMP切れからの≪気絶≫ですね。

 それで身体が動かせない状況だからソロでは無理と。

 結構エグイ仕様ですよ。これは。

 私はエルマの腰に手を当て、スキルを発動します。

 「≪トランスファー・マジック≫」

 自分のMPを消費してその消費したMPの十分の一を対象者に分け与えるスキルなのですが、【神器】を装備していると無限MP製造マシーンになれる優れものスキルです。

 「チェリーィ。ありがとぉぉぉ」

 そう言いながらも少しぐったりしてくるエルマの体重を持ち前のSTRで支え、MPの吸収が終わるまで待ちます。


 かなりの時間を要した魔力注入作業でしたが、終わると先ほどの枝からニョキニョキとつぼみが生え、そして一輪の青いバラが咲きました。

 「きれい」

 「ブルーローズ。奇跡か」

 「知ってる? ブルー、ローズって、眉唾って、意味も、あるのよ」

 「知りたくなかった!」

 マオの無駄な知識で少し感動が薄れてきたタイミングでバラが萎み、一つの淡く光る実を落としました。

 エルマがそれを手に取り、情報を伝えてくれます。

 「〔誓いの実〕であってる。効果は、24時間性向度による影響を受けない。代償は同じ時間の代償強化だって」

 効果時間が終わった後、その効果時間中に打ち消した分の代償を倍にして受ける、という後回し系の効果の物のようです。

 「【王族殺し】とか性向度をドカって下げる【称号】のほうが現実的かもね」

 「そうかもね。でも少し観光とかに来る分だったら別に〔誓いの実〕でも良さそう。ほら普通に性向度がプラスなら特に代償はないわけだし」

 性向度マイナスの人が『無法地帯 ヴァンディーガルム』から出て〔誓いの実〕を使ったら代償が酷いでしょうね。


 そう会話をしているとピロンという音とともにクエストの完了が告げられます。

 「これを後は量産するだけだね」

 エルマがそう言いますし、これは貴重な財源となるので、量産しておくに越したことはありません。

 そう思い私が枝に触れ、魔力を流し込むと、目の前にウィンドウが表示されました。

 『一パーティーにつき24時間で一つ獲得できます』

 あっ。これ財源になりませんね。

                                      to be continued...

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