第5章1幕 変わり種<delicay>

 「チェリーそろそろ行こうー」

 「あっごめん。すぐ支度する」

 外から聞こえてきたステイシーの声に私はそう返事をし、部屋に置いてある倉庫の中に不要なものをしまいます。

 忘れ物がないかどうかを確認し、部屋から出ます。

 「おまたせ」

 「あとはサツキだけだねー。とりあえず下で待ってよう。エルマが呼びに行ってるー」

 「わかった」

 階段を降り、一階の食堂へと向かいます。

 「おは、よう」

 「マオおはよう」

 マオは食堂で待っていたらしく読んでいた本をパタンと閉じました。


 今日は、明日から実装されるという新マップにすぐ行く為に近くの村まで移動する予定です。

 異世界型マップの様で、特定の場所にある転送装置から新マップに転送されるそうです。

 内部では転移魔法等の移動手段が使えないとも告知されていました。

 転送装置は告知されていませんでしたが、複数の情報屋が集めた情報から大体の予測はできています。

 それが2ヶ月程前に訪れた『精霊都市 エレスティアーナ』らしいのです。

 具体的な場所はステイシーが聞いてきたようなのでそちらに向かうことになっています。


 「すまない。待たせたね」

 サツキがエルマに連れられ降りてきます。

 「じゃぁ行こうかー」

 「どこまで飛べばいいの?」

 私はステイシーに聞きます。

 「本都市でいいみたいー」

 「分かった」

 「「≪ワープ・ゲート≫」」


 「なんか久しぶりな気がしないけどー、久しぶりだねー」

 ステイシーが『精霊都市 エレスティアーナ』の検問行列に並びながら呟きます。

 「そうだね。精霊駆動を取ったのが2ヶ月前だったかな」

 「懐かしいね。あの時の修行のおかげで随分と楽になったよ」

 私とサツキがそう返すと、エルマとマオもうんうんと頷いています。


 入国する人が多いのか、前回の時よりも少し時間が掛かりましたが、無事に入国できました。

 少しのトラブルはありましたが。

 「前回みたいにならなくてよかったー」

 「あれは忘れたい記憶だよね」

 ステイシーとそう話しながら、本都市を歩きます。

 「ところでステイシー。その転送装置とやらはどこにあるんだい?」

 「あー。『聖精林』と『闇精林』の辺りらしいよ」

 「ほう」

 「なら私が行ったことあるから転移が使えるね」

 「たすかるー」

 「宿はどうするのん?」

 エルマが腕を頭の後ろに組みつつ聞いてきます。

 「チェリーが転移を使えるのなら、ここで宿を取ってもいいんじゃないか?」

 「そうしよっか」

 私がそうみんなに伝えると、特に異論はないようで、無言で頷きます。


 やはり泊まった事のある宿が一番だ、ということで前回来た時に利用したこの宿にやってきました。

 「お久しぶりです。アンナさん」

 私はカウンターに立っていたアンナに話しかけます。

 「あー! チェリーさん! お久しぶりです。2ヶ月ぶりですね」

 俯いていた顔をガバッとあげ、こちらに気付きそう言いました。

 「宿泊ですか?」

 「はい。5人でお願いします」

 「何泊のご予定で?」

 「えっと……」

 そう言って私はステイシー達の方を見ます。

 「一泊でいいと思うよー」

 「わかった」

 ステイシーに出してもらった助け舟に乗っかり、アンナに伝えます。

 「かしこまりました。ではこちら鍵です」

 そう言って鍵を渡してきてくれます。

 「そういえばチェリーさんも『聖精林』で見つかった転移門に用があるんですか?」

 私が受け取った鍵を皆で分配しているとアンナに声をかけられます。

 「はい。ちょっと見てみたいなって」

 「そうなんですか。私も見に行ってみたいですね。今度お休みの時に行ってきます」

 「どんなのだったかはお伝えしますよ」

 「ええ。お願いします」

 ばいばい、とアンナに手を振り、私も一応部屋に行きます。

 まだ寝るには早いので、散歩がてらに街を探検に行くことにします。

 

 「どこいくのさ」

 宿屋を出ようとすると後ろからエルマの声が聞こえてきます。

 「散歩だよ」

 「なんであたしを誘わないのかね?」

 腕を組みながらそう聞いてきます。

 「いや。たいしたことじゃないし、誘うほどでもないかなってね?」

 「それでも誘ってほしかったなぁ? なんてね。とりあえずついていくよ」

 「うん。変わったところがないか見て回りたいかな」

 「わかる!」

 エルマと一緒に散歩をすることになったので、そのまま宿を出、本都市の雑踏の中に紛れ込みます。


 「こんなお店無かったよね?」

 エルマが立ち止まり看板を指さしながら言います。

 「たしかに」

 私もそのお店に見覚えがなく、そう答えます。

 「武器屋さんみたいだし、ちょっといってみようか」

 すぐにエルマが扉に向かって歩き出したので私もついていきます。

 

 「ごめんください」

 「おじゃましまーす」

 「いらっしゃい。あっ。プレイヤーさんだね。良かったら見て行ってよ。注文とかも受けるよ」

 「ありがとうございます」

 店内を見回すと、刀から薙刀の近接武器、銃から弓等の中距離武器、本や杖といった遠距離武器等、様々な武器が置いてありました。

 「すごい品ぞろえですね。全部ご自分で?」

 「いえ。僕が代表を務めている武器制作ギルドで作った商品を置いているよ」

 「なるほど」

 それなら納得です。

 「8割僕のだけどね」

 前言撤回。この人化け物だ。

 「見たところ……魔法系にみえるけど?」

 「二人とも一応魔法系ですね。武器を入れ替えたりして近接にも対応できます」

 「なるほど。試作品で面白い物があるけど見る?」

 ニヤニヤとする顔をこちらに向けて机から身を乗り出してきます。

 「いいね!」

 エルマも机に身体半分ほど乗り出しています。

 「じゃぁ簡易結界を用意してあるからそこで。おっと武器のスペックはお客さんが手に持つまで内緒だよ」

 そう言って奥に歩いていきましたので、私とエルマもついていきます。


 「じゃーん。【ブラックスター】」

 そう言って彼が取り出したのは剣の柄に鎖が付いて、その先に鉄球が付いているモーニングスターの様な武器でした。

 「モーニングスターじゃん」

 エルマがそう言いながら手に取り、笑い始めます。

 「これいいね! 面白い!」

 「どうだった?」

 「チェリー! 少し相手してよ」

 「うん? 分かった」

 私は腰に【神器 チャンドラハース】を抜刀し、構えます。

 「さぁ来い!」

 エルマが武器を構え声を張り上げます。

 「いくよー」

 剣を下段に構え、一瞬で距離を詰めエルマに斬りかかります。

 右下から左上に切り上げると、エルマは

 【ブラックスター】と呼ばれた武器の剣部分で受けました。

 「≪回れ≫っ!」

 「っ!」

 エルマのスキル宣言のあと背中に突然の衝撃を受け、吹き飛ばされます。

 2.3回転がった私は、再びエルマの方を見ると、柄に付いた鎖が無くなっていました。

 そのことに疑問を感じつつも、もう一度接近します。

 今度は左から右へ、横なぎに一閃します。

 エルマはそれを再び剣部分で受け、スキルを宣言しました。

 「≪弾けろ≫」

 突然足元が不自然に揺れたような気がして私は上に飛びますが、すでに遅く、足元で鉄球が弾け、棘を発射しました。

 さっきまでは棘なんて無かったのにっ!

 

 私はそう心の中で悪態を付き、≪スライド移動≫を発動し、後方へ下がります。

 「させない。≪ブラックスター≫」

 後方へ下がりきった私の正面に先ほど弾けた鉄球が巨大化して迫ります。

 火属性魔法を纏っているようで、私はすぐに魔法障壁を展開しました。

 「≪アクア・シールド≫」

 「甘いっ!」

 エルマのその声が聞こえた瞬間、ガラスの砕けるような音と、鈍く光る鉄球が私の身体に直撃しました。


 「勝負あり」

 店主がそう宣言し、この試し撃ちは終了しました。

 私が一方的に殴られただけですけどね。

 「種明かしは?」

 エルマにそう視線を送りつつ言うと、店主が代わりに答えてくれました。

 「武器のコンセプトは、『モーニングスターの持ち手が剣だったら無敵じゃね?』だね。掲示板で見つけたんだ。それを形にするうちに面白い機能をどんどん積んでいったらこんな武器になったわけさ」

 「どんな機能です?」

 「剣には魔法剣のような魔力系のスキルを積んで、鉄球には物体操作系のスキルを、そして鎖には≪魔力交換≫を付けたよ。いうなれば、『魔法剣と鉄鎖、鉄球の複合武器』だね」

 「なるほど」

 扱えれば強そうですね。

 でもさすがにこれは……。

 「買うよ!」

 買うんかい。

 「毎度ー。実験品だから600万金でいいよ」

 「お買い得! チェリーもどう?」

 「いらない」

 そうでした。エルマはこういう武器を集めていましたね。

                                      to be continued...

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