第4章39幕 盲点<scotoma>
「いやー! これはテンションあがるねー!」
城から出たエルマは軽快なスキップをしながら大声を出します。
「そうだね。まさかゲームの中で昔懐かしいゲームがみられるとは」
「久々に触りたくなったよ!」
「わかる」
私達がそう話しているとステイシーがログインしてきたようでパーティーチャットを送ってきます。
『おはよー』
『おはよ』
『おはよ!』
『おはよう』
『こっちで飲んだお酒が抜けなくてリアルでもまだ気持ち悪いー』
『そういう、ときは、迎え酒。軽めの、お酒、飲んでくると、いいわ』
それ依存症になるやつじゃ?
『もっかい酒場いってくるー』
やるんかい。愛猫姫って見かけによらず結構ワイルドですよね。最近は慎ましく読書しかしていませんが。
『みんな揃ったしどこか行く?』
エルマがそう聞きます。
『じゃぁステイシーが行く酒場で待ち合わせしよっか』
『わかった、わ。すぐいく』
愛猫姫がすぐ行くといったので私とエルマも酒場に向かいます。
「昨日飲んだところに行ったのかな?」
「たぶんね。そんなに遠くないからゲートだすよ。≪ワープ・ゲート≫」
「ありがと」
エルマがゲートをだしてくれたのでそのゲートをくぐり酒場までひとっ飛びします。
酒場に入るとすでにステイシーがぐったりしながらカウンターに突っ伏しています。
「ステイシー大丈夫?」
私が声をかけるとステイシーは唸りながら答えます。
「だいじょうぶー。もう少しこうしてればー、よくなるー」
「マオにも場所伝えといた」
そう言いながらエルマがステイシーの横に座ります。
「なんでエルマは平気なんだろうねー?」
「毎日飲んでるからじゃ?」
ステイシーの恨みがこもった言葉に私が返します。
「失敬な! これでもちゃんと休肝日は設けてる!」
「なら大丈夫だねー」
ステイシーがまともな思考できていないですね。
「おま、たせ」
愛猫姫がすぐにやってきました。
「あれ? マオ本は?」
「読み終わって、しまった、の。それに、満たされた、わ」
「満たされた?」
「読書欲が」
「なるほど」
読書好きの人に、サツキのことですが、聞いたことがあります。短期間に集中して本を読みすぎると突然欲が満たされることがあると。
「お城凄かったよ! 昔懐かしいものがたくさん!」
エルマがそう先ほどのお城探検の話を始める頃、私に個人チャットが届きます。
『お久しぶりです』
『お久しぶりです』
ハリリンの部下というか弟子だった、カリアンという女性からのチャットです。
『何かありましたか?』
私がそう返すと、少しの間が開いて、返事がきます。
『大したことじゃ無いんだけど、気になることを小耳にはさんだから。『ヴァンヘイデン』から亡命したの?』
『そう。この間の戦争の件でいろいろありまして。詳しくはハリリンに聞いてください』
『そう……。残念。私チェリーのこと気に入ってたよ』
『ありがとう。私もカリアンさんのこと気に入ってました』
『敵国同士になっちゃたけど何かあったら言って。できるだけ協力するから』
ん?
『敵国同士ってどういうこと?』
『あれ? 知らない? 『ヴァンヘイデン』が『ヨルダン』との同盟を破棄しちゃったの』
『えっ……』
『当面大事にはならないけど、何かあった時、戦争まで進んじゃうかもしれないから』
『そうだったんですか……。情報ありがとうございます』
『いいよ。このくらい。じゃぁまたね。そっちでも頑張って』
『はい。カリアンさんも頑張って』
チャットを終え、今知ったことをこの場にいる人に伝えます。
「ごめん。話の腰を折る感じで申し訳ないんだけど、少し聞いてくれる?」
「ほあー?」
ステイシーの間の抜けた声とナッツをリスのように口に詰めているエルマがこちらを見てきます。
「『ヴァンヘイデン』が『ヨルダン』との同盟を破棄したらしい」
「んー。何かあったら戦争起こしそうだねー。でも大丈夫じゃないー?」
「どうして?」
「だって『ヨルダン』に僕とチェリーがいるの知ってるわけじゃんー? 国ごと消滅させられるって思うだろうから戦争にはならないと思うよー。情報戦争は起きるかもしれないねー」
「確かにそうだね。あっ!」
エルマが唐突に声をあげます。
「マズイ! チェリー急いで『ヨルダン』に行かなきゃいけない! マオも!」
「どういうこと?」
「あたしがチェリーとステイシーの敵対勢力になっちゃってる! あたしまだ『ヴァンヘイデン』所属!」
「なるほど」
敵対勢力としてエルマがいると私とステイシーのスキルをある意味で完封できるってわけですね。となると……。
「私とステイシーは残ってないとまずいね。二人で『ヨルダン』に行ってエルマは亡命して、愛猫姫は所属国が無いからすぐに受け入れてもらえるはず。とりあえず、このローブ持って行って、偉い人に会わせて貰えばなんとかなると思う」
「おっけい! ちょっと行ってくる」
そう言ったエルマが愛猫姫の手を掴み酒場から走り出して行きました。
「ステイシー、この状況は読めた?」
「いやー。全くー。ってことはそろそろ追手がくる頃だねー」
「かもしれないね」
「町中での戦闘は流石にしないと思うけどー、馬車に乗って移動してる時間も危ないかー」
「クルミには一言伝えて待っててもらおう。馬車のレンタル少し長くなっちゃうけど仕方ないね」
「おっけー。一度宿屋に戻ろう」
宿屋までまっすぐ戻ってきた私達は4階に泊まっているクルミの部屋をコンコンコンとノックします。
「はい」
「クルミさん。扉越しでごめんなさい。ちょっと私達急用ができちゃったので今日一日留守にします。馬車のレンタルの期間伸びちゃうかもしれないです。これは経費ってことで受け取っておいてください」
話している間にクルミが扉を開けてくれたので用意しておいた10万金を渡します。
「こんな大金……」
「もし私達からの連絡が何もなかったら、このお金で『アクアンティア』に帰ってください」
「わ、わかりました」
「振り回しちゃってごめんなさい」
「いえ。大丈夫です。では今日一日はお宿でおとなしくしています」
「ありがとう。じゃぁ少し行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
クルミがお辞儀をしたのを見届け、私とステイシーは宿屋から走り抜け、都市の外へと向かいます。
「この辺までくれば巻き込んだりはしないかなー?」
『雷精の里 サンデミリオン』から魔法系の全力疾走5分程の場所で立ち止まります。
上がる息を整え、周囲を警戒します。
「前襲ってきたのは『アクアンティア』だったよね?」
「そうだねー。増員が到着したとするなら妥当な頃合になるねー。問題はどうやって僕たちの行動を監視していたかでしょー?」
「だよね」
≪テレポート≫やフレンデールの高速移動等、普通に追跡していたら振り切れる物ばかりです。
「でもそれは考えても答えが出ないことだと思うしねー。とりあえずは敵がいないかどうかだよー≪
ステイシーが超広範囲にわたって≪探知≫できるスキルを発動します。
「あー。そう言うことかー」
「どうしたの?」
「えっとねー。結論からいうと尾行はエルマに憑いてたー」
「エルマに? 憑いてた?」
「≪生霊≫か何かをずっと憑けてたんだよ。いつからか知らないけどー。目的は僕らだろうからすでにこっちに向かってるはずなんだー。そしてこの周囲に15人『ヴァンヘイデン』の騎士団がいる」
「途中でエルマが消えたから私達も≪テレポート≫したと思っているのかな?」
「そうだとありがたいけどね。そうもいかなそう」
ステイシーがそう言いきると私の身体を空気の壁のようなものが通過していきました。
「≪探知≫かー」
「だねー」
「『サンデミリオン』からまだ近い、少し距離を開けながら戦闘準備しよう」
「了解ー」
さらに都市から離れる為に私達は走り出します。
to be continued...
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