第4章37幕 磁気<magnetism>

 「おまたせ」

 ≪テレポート≫で馬車の近くまで飛んできてそう言います。

 「おかえりー」

 「おかえり」

 「おかえりなさい。どうでしたか?」

 「誰もいなくて、残された日記に色々と書いてあってね。精霊神像から精霊王を開放してくれってあったから、解放してきた」

 「そんなことがー」

 「実のところよくわかってないんだけどね」

 「だろうねーでもまー、精霊神像の数はカウントされたならいいんじゃないー?」

 「そだね。じゃぁ『サンデミリオン』まで急ごう」

 「かしこまりました。また少し飛ばしますのでお気をつけください。フレンデール!」

 クルミがフレンデールにそう声をかけるとフレンデールから再び翼が生え、バサバサという羽ばたきの音が聞こえ、急加速による椅子へ押し付けられる感覚がします。


 先ほどまでとは少し違い、整備の進んだ地面を進んでいるのでそれほどの揺れは感じません。

 後ろを振り向くと『風精の高原』の風車がすでに見えなくなっていました。

 「あまり遠くはないのですぐに到着しますよ」

 「わかりました」

 クルミからそう教えられ、副都市で最も発展しているという『雷精の里 サンデミリオン』はどんなところなんだろうと期待に胸を膨らませています。


 クルミの言う通り、それほど時間もかからず『雷精の里 サンデミリオン』が見えてきました。

 「あそこの一帯明るくなっているところが『サンデミリオン』です」

 「すごい、明るいね」

 「ええ。他の都市とは違ってエネルギーの利用が上手いのです。天候などに左右されませんし」

 「電気ですもんね」

 雷精霊をうまく使ってエネルギーとしての電気を生み出しているんでしょうね。

 「生活水準も高いので、他の国から来た人はみんな本都か『サンデミリオン』を拠点にしていますね。ではもうすぐ到着ですので速度を落としますね」

 そういったクルミが手綱をピシという音を立てて手繰り、フレンデールの速度を落とします。

 普通の馬車と変わらない速度まで減速し、正面に見える馬車の行列の最後尾へと加わります。

 「結構並んでいるんですね」

 「ええ。まぁ発展した都市ですから。行商人なども多くやってきますし。皆様徒歩で行きますか?」

 「いえ。このまま馬車で行きましょう」

 そう話をしていると一人の男性が歩いてきます。

 「突然失礼します。貴族馬車ですが、お乗りなのはどちら様でしょうか?」

 そう御者のクルミに聞いています。

 「えっと……」

 少しこまった雰囲気が漂ってきましたので助け舟を出そうと思い私は馬車から降ります。

 「お話なら私が」

 男性にそう話しかけます。

 「お手数おかけします。こちら馬車での入口でして、商人も多くきますのでお時間かかると思います。貴族馬車のように見受けられましたので声をかけさせていただきました」

 「あぁ。『騎士国家 ヨルダン』所属王族騎士です」

 そうあらかじめ用意していたローブを左肩にちょんと乗せます。

 「ありがとうございます。では御者さんこちらにお願いします」

 男性はそう言って私達を列から離し、別の入口へと案内してくれます。

 「こちら貴族の方等が優先的に入れる入口でございます。一般の観光の方もこちらの列に並んでいただくのですが、普通の馬車だとお恥ずかしながら見分けが付きませんので」

 すこし苦笑いを浮かべながら頭をポリポリと掻いています。

 大変な仕事ですね。

 「ではごゆっくり雷精の恵みを堪能ください」

 彼は私達の馬車が通り過ぎるまで深々とお辞儀をし続けていました。


 「列に並ばなくていいのはラッキーだったねー」

 ステイシーがそう言います。

 「そうだね」

 「申し訳ございません。今まであの行商用の入口からしか入ったことがなかったので」

 「気にしなくていいですよ」

 そう言った私はちらと視線を動かし、時間を確認します。

 すでに18時を回っていますね。

 「時間も遅いし、宿屋に行こっか」

 「そうだねー」

 「えっとね、そこの通りをお城側に登った所に評判のいい宿屋があるみたい」

 エルマが調べた情報を教えてくれます。

 「私は休憩所に馬車とこの子を預けてきますので」

 「その必要はないみたいだよ。そこの宿屋が預かってくれるみたい」

 「本当ですか!?」

 「うん。そう書いてある。じゃぁれっつごー!」

 「かしこまりました」

 そうしてエルマが見つけた宿屋までゆっくりと馬車を進めます。


 到着した宿屋は本都の宿屋といい勝負ができそうなくらい豪勢な宿でした。

 白く汚れのない壁に、様々なカラーリングのライトが点いていて、幻想的にすら思えます。

 馬車を停めると、すぐに宿側の御者がやってきます。

 「こちらにご宿泊でよろしいでしょうかか?」

 「はい。そのつもりです」

 そうクルミが答えます。

 「でしたら私が御馬様と御馬車をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

 「お願いします」

 クルミが御者台から降り、私達も馬車から降ります。

 「ではお預かりいたします」

 そう言ってフレンデールを優しくなで、少し離れた小屋まで歩いていきました。

 「いらっしゃいませ。では受付までご案内いたします」

 すぐに別の男性がこちらに歩いてきてそう私達に告げます。

 「お願いします」

 私がそう返し、彼の後を続いて宿屋の中に入っていきます。

 

 「いらっしゃいませ。5名様でよろしいでしょうか?」

 「はい。あっ部屋は5人分用意していただけますか?」

 「はい。かしこまりました。では5名様5室用意いたします」

 「お願いします」

 そう言うと受付カウンターの向こう側にいた女性はスッとしゃがみカードのような物を5枚取り出しました。

 「ではこちらに記載されている部屋番号でお願いします。隣同士のお部屋が開いていましたので全て同じ階にございます。4階の2号室から6号室まででございます」

 「ありがとうございます」

 こちらではカードの磁気で開けるタイプの鍵が採用されているんですね。流石雷精霊の都市です。

 受け取ったカードを適当に分け、私達はエレベーターに乗って4階まで行きます。

 「この都市にエレベーターがあるなんて……」

 昔の苦労を思い出します。

 「チェリーさんはご存じだったんですか?」

 クルミにそう聞かれ答えます。

 「私達みたいな外の人は大体みんな知っている乗り物なんだよ。私は昔それを再現するために奔走したんです」

 「そうだったんですか」

 「チェリーのホームのエレベーターはなかなか上物だよ!」

 エルマがそう言うと続いて愛猫姫も言います。

 「マオも、そう、思うわ」

 愛猫姫が言い終えるとエレベーターは4階に到着し、私達は各自受け取ったカードの番号の部屋に行きます。

 本都市や『アクアンティア』のような生きている鍵ではないようで、自力で開けなければいけませんでした。

 カードを扉の前のスキャナーのようなものに通すと、その上部に着いた赤かったランプが青く光り、カチリという音とともに扉が開きます。

 部屋の内部へ歩き入ると、現実世界によくあるホテルといった様子でした。

 少し大きめのベッドが二台、二人掛けのソファーが一脚、窓際に小さなテーブルと一人掛けのソファーが二脚おいてあるいかにもといった感じですね。

 また化粧台やクローゼット、お風呂も完備されていてここをホームにできそうな勢いです。

 私は現実世界に帰るため一度ベッドにもぐり、ログアウトします。


 現実に戻り、目を開けた私は、専用端末を頭から外し、ベッドから起き上がります。

 すぐに尿意に襲われトイレに行きます。

 トイレを済ませた後、ご飯を食べ、飲み物を飲んだ後、宅配されている物を仕分け、再びベッドに戻ります。

 専用端末をかぶり、<Imperial Of Egg>に戻ります。


 先ほど別れる前に30分ほどしたらご飯を食べに行く約束をしていたのでそのためですね。

 ログインした私は、まず自分の部屋を出て隣の愛猫姫の部屋をノックします。

 「もう、時間、ね。今、でるわ」

 そう中から愛猫姫の声がし、すぐにとびらが開きます。

 「あっ!」

 私は驚いた声を愛猫姫にぶつけます。

 「ふふ。久しぶり、に、着た、の」

 ちょっと前に購入したメイド服ですね。

 「チョー可愛い」

 私はそう言いながら右手の拳から親指を立て「いいね!」を表現します。

 「ありがと。じゃぁ、みんな、迎えに、いこ」

 「そうだね」

 そうしてエルマ、ステイシー、クルミの順で部屋をノックし、ご飯を食べるために再びエレベーターで一階に降りていきます。

                                      to be continued...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る