第15話 洞窟2

「真生、お前一人で入って、ちゃんとここに出てこられたのか」


「伯父さん、ごめんなさい。どうしても気になって、清龍寺神社まで来てみたら誰もいないし、伯父さんの言う洞窟が本当にあるのか、ちょっと見てみるだけのつもりだったんだけど、入ったら戻れなくなって……」


「そうだな。まだ中を知らないお前が一人で入るなんて、とんでもない話だ。だが、どうだ?一人で入ったことを後悔してるんじゃないか?」


「うん。すごく怖かった。もう一人じゃ絶対に入らないよ」


「ごめんよ、遅くなって。お前の母さんからお前がいなくなったって連絡をもらったのが20時頃でな、急いで山へ行ってみたけど、もう山狩りをしていて人目があってな、22時過ぎに夜の山狩りは終えて朝からって話になったが、消防団の何人かはそれからも遅くまで山を歩いててな、朝方にやっとこっちに来られたんだ。お前がこっちに出てこられて、本当によかったよ」


「それより伯父さん、洞に一人いたよ。暗くて見えなかったけど、一人いたと思う」


「そうか、一人いたか。どこから入ったんだろうな……しばらくそこにいてもらうしかないな。それより真生、私が話したこと覚えているな?ここは誰にも知られちゃいけない場所だってこと」


「うん、わかってるよ。だから誰もいなかったから入ってみたんだもん」


「だから私がここでお前を見つけたといって連れて帰るわけにはいかないんだ。今から原町へ下りる道へお前を連れて行くから、そこから一人で原町へ出て、人がいたら助けてもらえ。いいか、はぐれた犬を探して山の奥へ行って、迷子になったと言うんだぞ」


「そうだ!ラッキーは?社務所のところにかけてきたんだけど」


「ああ、実はお前がいなくて探してたとき、ラッキーが山の方からきたところを見た人がいてな、それでお前が山にいるんじゃないかってことになって山狩りすることになったんだ。ラッキーは家にいるから大丈夫だよ。しかしお前、本当によく出られたな。もし出てこられなくて、山狩りが何日も続くようだったらお前を助け出せなくなるところだったよ」


「僕も出られないかもしれないとも思ってすごく怖かったけど、でも絶対出られるとも思ったんだ。僕が次の山の守り人だぞって、時々言いながら歩いてたんだ。だから出られたのかもしれない」


「そうか。真生、また近いうちに家にきなさい。爺さんたちが遺したもの、見せてやるから」


 僕は伯父さんに原町へつながる山道に置いて行かれ、そこに置いてあった車で伯父さんは帰り、僕は原町に向かって歩いていた。もう明るくなり始めてきていたので、一人でも怖くはなかった。


 そこで新聞配達している人に会い、昨夜山で迷子になったこと、帰り道がわからないので電話をかけたいことなど話した。


 新聞配達さんが「ここで待っていて」というので待っていると、しばらくして新聞配達さんとお巡りさんが来て、そのうちパトカーも来て、それに乗って病院に連れて行かれた。


 病院についたらそのままお医者さんに呼ばれて診察室に入り診察されたけど、僕は病気じゃないし、怪我も擦り傷だけだから、どうってことないとお医者さんに言った。


 それにしても、総合病院のこういう診察室に入ったのは初めてで、思っていたよりずっと狭いんだなと思いながら見ていると、奥の通路を看護士さんが何度か行き気しているのが見えて、そういえば入ってくるときにすぐ横にいくつかドアがあったなと思い、仕切りで部屋に分かれてるだけで、向こうから見たら、小さい部屋がいくつも並んでいるだけなのかなと、そんなこと考えながら足の擦り傷の消毒とガーゼだけ貼ってもらうと、お医者さんが「終わりました」と言うと、お巡りさんが入ってきて、


「ちょっと話を聞かせてね。まず、名前は?」


「久保真生です」名前を答えながら、そうか、こんなふうに警察に話を聞かれることになるんだな、警察に呼ばれたりもするのかなと、なんだか大事になってしまったと思い、ここにきてようやく緊張してきた。


「昨日、学校から帰ってきてからどうしたのか?どこに行ったのか教えてくれる?」


「はい。昨日は早い帰りだったのでいつもより時間もあって、3時頃にラッキーを連れて、たまには山のほうに散歩に行こうと思いました。それで清龍寺神社へ行くときに通る山の道を歩いて行って、清龍寺神社がもうすぐっていうとき、ラッキーのリードが手から外れて、神社の階段の前の道を先へ行ってしまって、追いかけて行ったんだけど、どこにいるのかわからなくなって、でも戻ってこないから先に行ってると思って、探してたら暗くなってきて、戻ろうと思って戻ってきたつもりだったんだけど、いつまでたっても神社の前の道に出なくて……」


「山の中で迷子になっちゃったんだね?ずっと一人だった?誰かに連れて行かれたんじゃないんだね?」


「はい。ずっと一人でした。農家の人にも会わなくて、暗くなってきて道もわからなくなって……」


「そうか、怖かったね。一人で山の中へ散歩にくるのは、もうしちゃダメだからね。お父さんもお母さんも、すごく心配するんだからね」


「はい」


 お巡りさんに、もういいよと言われ部屋を出ると、父母がそこにいた。

 

 母には「よかった。一人で山にいったらダメでしょ!」と、泣きながら怒られ、父からは「大したことなくてよかった。村のみんなが探してくれたんだぞ!ちゃんとお礼を言って回れ!」と強い口調で言われた。


「少しベットで休んでね。お腹も空いてるでしょう?朝ご飯も食べて、それから帰ろうね」


診察室から出てきた看護士さんにそう言われ、ベットが2つある部屋に連れて行かれた。


 朝早い病院はまだ人の姿はなく、シーンとしていて、ああ、あのお医者さんも、本当はまだ仕事の時間じゃなかったのかもしれないな、あのお巡りさんもそうかなと思い、両親や先生に怒られることよりも、もっと悪いことをしたような気がして、僕は本当にかなり反省した。


 病室に入り、旅館に泊まるときみたいな服を渡されて、着替えるよう言われて、布団に入った。僕は特に眠くはないんだけどなと思っていたけれど、すぐに眠りに落ちたようだった。


 目が覚めたときは、もう12時を過ぎた時間で、看護士さんがご飯を持ってきてくれる音で目が覚めた。


 看護士さんが体温計をポケットから出して、「脇に挟んでね」と渡されたので、脇に挟むと、「脈を測るね」と僕の手を取り、自分の腕時計を見ながら、


「お腹空いたでしょう?これ食べてね。そしたら帰れるからね。お家の人も1時頃には来るって言ってたから、食べて待っててね」


と言うと、ポケットから出したメモ帳みたいなものに何か書き込んで、部屋を出て行ってしまった。


 僕は給食みたいな病院のご飯を見て、そこですごくお腹が空いていたことに気付き、お米の一粒も残さないよう、綺麗に全部食べた。


 病院から帰ってきて、町会長さんにお礼を言いに行き、犬の散歩で山で迷子になったことと、探してくれたお礼を紙に書いて、回覧板で回してもらえることになった。それでも、消防団にはちゃんとお礼を言いに行きなさいと言われ、夜、団長さんの家に、父とお礼を言いに行くことになった。僕は、こんなに大事になっていたんだと改めて思い、迷惑かけたんだなと、ここでもかなり反省した。


 本当に反省はしていたのだけれど、早く伯父さんに会いたいとも思っていた。伯父が言った、『爺さんたちが遺したもの』がなんなのか、気になって仕方がなかった。

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