第3話 はじめまして

 眩い白い光が止む。ゆっくり目を開けると、真っ白な空間。目の前には「夢叶君」がいた。


「はじめまして」

 他人から見たら笑ってないみたいに見えるだろうけど。私には分かる。彼は微かに笑みを浮かべて歩み寄ってくる。


「は、はじめまして……」

『これは夢だ』そう分かっていても、目を合わせるのが怖くて伏せてしまう。それでも彼は怒りもせず、私を見つめているのが分かった。


「さっそくだけど。……何、してほしい?」

 黒く澄んだ目に覗き込まれて、声がうわずる。

「何、って?」

「君の望むことなら、なんでも」

「なんでも……」

 そういえば。ざっと読み流した説明書きにそう書かれていたっけ。「貴方の望むことならなんでします」って。


 恐る恐る顔を上げると、彼と目が合う。眼鏡越しに心を読まれそうで。けれど懐かしい彼に会えて嬉しくて、つい思った事を口にしてしまう。

「手を……」

「手を?」

「つないで……ほしい」

 それだけの事を伝えるだけなのに。私はドキドキしてしまってそれ以上何も言えなくなってしまった。


「ん。分かった」

 する、っと彼の指先が私の指に触れる。思わずビクッとすると、彼は

「ごめん。ゆっくり、するから」

 と言ってゆっくりと私の手を包んでいった。指先、手のひら、にするすると触れていく彼の体温。『夢なのに、あたたかいな……』そんなことを考えていたら、彼の手にすっぽりと包み込まれていた。昔は同じくらいだった手も、今では一回り大きい。まぁ、彼には幼稚園の「あの日」以来会っていないから、あくまで想像なんだけれど。

「あったかい……」

「そうか?俺はお前の方があたたかいと思うが……。良かった」

 ふんわりと彼が笑う。いつも無表情と言われていた彼が、私だけに見せてくれる顔だった。


「他には?」

 と聞かれたけれど。私は手を繋ぐだけで満足してしまって。朝目覚めるまでずっと、手を繋いでもらっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る