失われた神々の地

「アルチュールさま! ゴーシェさん!」


 セシルはそので叫んだ。


「セシル、ゴーシェが重傷を負った」


「ゴーシェ! そんな、助かるんでしょう? ねえ!」


「落ち着けオルランダ、今は応急処置もできぬ」


「アルチュールさん、オベールが兵をに差し向けるのも時間の問題ですよ?」


「オリヴィエわかっている、だがダオレが居ない以上我々二人で食い止めるしかない!」


「ダオレは? 一緒じゃなかったの!?」


「ダオレはペルジャーと戦っている、勝かは分からない。ただ待つしか我々にはできぬのだ」



※※※



「無駄です、貴方の剣は見切りました」


 ダオレはペルジャーの一撃を易々とかわすと、そう言った。


サーラム金髪野郎め! 言わせておけば……!」


「貴方本来は、ゴーシェを傷つけた暗器が武器なのでしょう? なぜそれを使わないのです?」


「貴様如きに使うまでもない! トドメを刺すので充分だ」


「その慢心があるうちにはぼくには勝てません」


「なんだと!」


「全力でかかってきたらどうです? 別に貴方の恥にはなりません。ぼくも全力で貴方を倒す!」


「言わせておけば!!」


 そう言ってペルジャーは我武者羅に打ち込んできたが、完全に頭に血が上ってしまっている。

 そんな状態ではダオレの敵ではない。

 ダオレは狭い部屋を利用して、ペルジャーの背を踏みつけると天井の低い部分を蹴り、再び彼の背後に降り立つと、素早く鉈を後ろ向きのペルジャーの頸へと差し向けた。


「クソ!」


「勝負ありましたね」


 ペルジャーは勘だけで前転するとやや距離を取って、ダオレに向き直り袖に隠していた鎖分銅を繰り出した。


「おっと」


 ダオレはそれを紙一重で躱すのだが、流石暗器というだけあってペルジャーのどこにそんなものが隠れていたのか、次から次へと鎖分銅が繰り出され徐々にダオレの行動は制限されてきた。

 何より厄介なのは部屋の地面に散らばる鎖で、思ったより足を取られることは明白であった。


「最初からそれを出していれば勝てたかもしれませんよ?」


「ふん、解ったような口を? もう肩で息をしているではないか」


 事実ダオレはこの暗器に少しづつ追い詰められていた。


「ぼくも暗器使いと戦うのは初めてですからね、しかしこの『鉈』を甘く見ないでいただきたい」


 徐々に鉈の刀身は――


「……なに!? それはまやかしか!」


「まやかしなどではない!」


 そしてダオレは動きがぶれて見えるほど素早く動くと、その鉈で全ての鎖を切り裂いた。


「終わりです!」


「!!」


 鉈の刀身は深々とペルジャーの腹部を貫き、それは致命傷となった。

 ペルジャーは自らの鎖の上に倒れ、目を閉じた。

 多量の出血が部屋の床を濡らしてゆく。


「もう行きますペルジャー、仲間たちが待っている」


 ダオレはグラムを拾うと少し彼の方を見たが直ぐに、アルチュールとゴーシェの消えた階段を降りはじめた。

 そして徐々に広がっていく血だまりのなかで彼は笑っていた。


「……ダオレ、わたしは、ギルバートだ本当の名は。さらばだ」


 ペルジャー、否ギルバートはそう言うと笑いながら絶命した。



※※※



 オリヴィエは階段を降ってきた、オベールの手下であろう蛮族風の兵を切り捨てた。


「だめだ! ここがバレた。そのうち軍勢がやって来るぞ!」


「むむっ、オリヴィエかたじけない、私もすぐに加勢する」


 ここは城の地下奥深く、確かにダオレはここをの遺跡と断言した。

 そこには奇妙な泉があり、鉄格子が嵌まっていたのであるが――


 また一人敵の加勢が現れ、今度はアルチュールが始末した。


「クソッ、このままでは持たない! ダオレはまだなのか!」


「本当にここから城の外に出られるのだろうな――」


 ミーファスはダオレが信じられないのかぼそぼそと呟いた。


「今はダオレさんを信じるしかないでしょう!」


 セシルは叫ぶが、その確証はない。


――そのとき、


 階段の上の敵が音もなく事切れた。

 ダオレだ。


「間に合いました!」


「ペルジャーは倒せたのか!?」


「なんとかアルチュール、手強い相手でしたが! それよりその鉄格子を開けてください! 早く!」


 そう言っている間にもダオレはオベールの手の者と戦っている。


 アルチュールとオリヴィエはその錆びた鉄格子を全力で引っ張ると、少しづつ軋みながらそれは開きはじめた。


「一番身体の大きなアルチュールが通れるまで開けてください!」


 ダオレの言うとおりにするしかない、漸くアルチュールが通過できるまで鉄格子が開いた。


「どんどん中に入って! その泉は失われた神々の遺跡です、なんとかなりますから!」


 初めにセシルが次いでオルランダ、ミーファス、傷ついたゴーシェを連れたオリヴィエ、アルチュール、最後にダオレがそこに飛び込んだ。

 そしてそのからゴーシェ一行の姿は消えていた。


 掠れた意識の中でゴーシェはそこに恐るべきものを視た。

 それは砂漠の湖に屹立するあの尖塔であり、そこには大勢の人々がいるのであった。

――これはいったい?

 だが突如ゴーシェの視界は真っ青になった。

 虚血のために完全に意識を失ったのだった。

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