第2話 『この扉の先、王座の間にデイルワッツ様がおられます』

 やっと我輩のマイホームに帰ってきたのだな……やはり我が家が一番だな~妙に落ち着く。

 だが、これはなんと言うか――。


「何これ!? 天井たっか! 通路ひっろ!」


 そう、この人間の姿じゃ何もかもが無駄にでかく見える。

 我輩の体格基準より大きく作らせたからしょうがないのだが……これでは王座の間へ向かうだけで疲れるのではないだろうか。


「たまげたの~山の中をくり貫いて城にしておるのか、これを作るのにどれだけの人数をそろえたんじゃろな」


「ここまで作らせるとはさすが魔王デイルワッツです……まさに魔界の王です」


 感心してくれるのはありがたいのだが、これはたった一人で作ったんだ……フィゲロアの力でな、しかも1日で完成したときたものだ。


「もう移動してもよろしいですか? 我が主がお待ちになっていますので……私について来て下さい」


 アナネットが案内するのか、自分の家なのに案内されるとか何とも複雑な気分だ。



 ふむふむ、辺りを見る限り特に変わった所はない……な。良かった、我輩のいない間に城を好き放題に改装されおったら目も当てられなかったぞ。


「そんなに辺りを見渡して警戒しなくても大丈夫ですよ、罠なんてありませんから」


「あ、いや……」


 別にそれで辺りを見回してたのではないのだが。


「……その言葉を信じろと言うのが無理ですね」


「それもそうでしたね、クスクス」


 う~む……しかしアナネットの奴、先ほど戦闘する気はないといっておったが一体何を考えておるのだ? いつもなら容赦なく襲い掛かってくると思うのだが……やっぱこいつだけは読めんな。

 聞きたいことが山ほどあるのだが、どうにか会話出来ないだろうか。アナネットとは我輩が幼子だった頃よりの者だ、我輩の問いに答えてくれるとは思うのだが……親しく話しかけてはこいつらに怪しまれるしな……。


「しっかし、魔王城の中は思ったより綺麗にしてあるのぉ。わしはてっきり食べ残しの骨や毒の沼といった物があって汚いイメージがあったんじゃが」


 なぬ!? 失敬な! ここは我輩のマイホームだぞ、その家が汚いのは嫌だから毎日しっかり掃除する様に部下達に言いつけてあるのだ。そんな食べ残しの骨やましてや毒の沼だと? そんな物が家にあると考えるだけで実に不愉快だ!


「……それにしても静かですね、あの悪魔以外いないのでしょうか?」


 そういえばそうだ、先ほどからアナネット以外に他の悪魔を見ないな……皆どこに行ったのだ?


「四天王配下の悪魔達は統率を失い、あなた達人間に倒されてしまいほとんど魔界に戻ってきていません。とは言っても元々いた者、戻ってきた者もここが戦場になる可能性がある為に退避させてあります」


 ……え!? は!? ちょっと待て! この城を戦場にするのか!? マイホームを破壊されてたまるか! 何とか阻止せねば!


「ちょっと待っ――」


「なので魔王城は現在手薄状態です、攻め落とすなら今が好機ですね。出来るものなら、ですが……」


「ずいぶんと余裕ですね、あなた一人くらいいつでも斬れるんですよ?」


「それは怖い怖い……クスクス」


「……では試してみますか?」


 ……この2人の殺気で肌がピリピリする……。

 だがさすがにこの場で戦うのはマイホーム的に良くないのだが、この中を割ってはいるには我輩には無理だ。


「ベルトラ、剣を納めるんじゃ」


「ダリル様!」


 さすが爺さん……すんなりと入りおった。


「いいから落ち着け、そんな安い挑発に乗ってどうする。勇者殿も言ってたじゃろ、たとえ罠だとしてもねじ伏せるのみとな、今はそんな事で力を消耗しても仕方あるまい、なぁ? 勇者殿」


 ちょっ! いきなり話をこっちにふるな!!


「あ~……ああ。そうだ、な」


 ベルトラが納得いかないのかすんごい睨んできてる……。


「……分かりました、ここは引きます」


 良かった、何とかこの場はおさまったか。


「あらあら、残念。私は真実を言っていただけなんですけどね」


 アナネット、頼むから煽るな!!

 しかし……結構歩いたよな、何時着くのだ? もう疲れた……まさかこんな所で広くしたのを後悔する羽目になるとは重いもしなかったぞ。


「ん? ねぇフェリ、何してるの?」


「――っ!? し~! エリン様、声が大きいです!」


「もがっ!?」


 む? 後ろは後ろで二人して何をしておるのだ? フェリシアがエリンの口を塞いでおるが。


「これはですね、種を落としながら進んでいますです。それなら道しるべにもなりますし、仮に襲われたとしても種を急成長させて壁を作れば時間稼ぎもできますです」


「も~もががも(お~なるほど~)」


 おいおい、丸聞こえなんだが。お前らどれだけ我輩たち悪魔を信用してないのだ……。



「――着きました。この扉の先、王座の間にデイルワッツ様がおられます」


 やっと王座の間か、長かった……ってしまった! 色々考え事をしておったらアナネットと会話するチャンスもまったくなかったではないか!

 それにこのままでは我輩の城が戦場になってしまうううううううううう!!


「この先に……みなさん、戦闘準備はいいですか?」


「おう、何時でもいいぞ!」

「準備――お~け~!』

「はいです!」



 我輩は良くない……だがもう遅すぎるよな。

 こいつ等全員目が本気だ、否定的なことなんぞ言える訳がない。


「ああ……ここまで来たんだ行くぞ」


 この扉の先に我輩が……我輩じゃないデイルワッツがいるんだよな。


「では、開けます、んっ!! ん~~!! ふんぬううううううう!!」


 何をしておるのだ? こいつは。


「おい、ベルトラどうした? 早く開けないか」


「それが、ぜぇぜぇ、押しても、ぜぇぜぇ、びくともしません……こんのおおおおおお!!」


「…………」


 そりゃそうだ、その扉はこちら側だと引かねばならんからな。

 が、それを我輩が言えるわけでもなく……どうしよう。


「ベルトラ、そこを退くのじゃ……すぅ~」


 ……? ハッまさか爺さんの奴、扉をぶっ壊す気じゃ!? そんな事をされてたまるか!


 「爺さん! その扉は――」


「どりゃぁあああああああ!!」


 いやーーーーーーーーーーーー!! やっぱり爺さん自慢の拳で破壊しおった!!

 この扉は我輩がデザインしたお気に入りの奴だったのに……うう……。


『どうしたの? デール、急に力が抜けたけど』


「……いや……なん……でも……ない……」


 ……ああ、もうこれは修復は無理だな……見事に粉砕されてしまった……。


「――プッ! クスクス!」


 おい、今アナネットの奴笑わなかったか!?

 ハッ! ワザとか!? ワザとこうなる事が分かって黙っておったのか!? おのれぇえええええ覚えとけよ!!

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