第10話 『物は使いよう、だ』
「お二人を捕まえましたです! ダリル様、引き上げをお願いしますです!」
なぬ!? この状態で引き上げるだと!?
「任せろ! しっかり掴まっておるんじゃよ!!」
待て待て待て、そんな事をすれば余計に――。
「おっしゃああああああああああ!!」
「ぐええええええええええええええ!!」
首が絞まって……い、いやっこれでは首の骨が折れてしまうううう!!
「きゃんっ!」
「ぐべっ!」
後、降ろすならもっとやさしく降ろしてくれ。尻が痛いし首も痛い……。
「ふぅ、何とか間に合ったのぉ」
「いたたた、お二人ともありがとうございます。助かりました」
「ゲホゲホ!!」
我輩は助けられたのか殺されかけたのかわからんのだが……。
「ちっいいところで邪魔をしてくれました、ね」
だが、あのマグマから逃げられたとしてもピンチな状況は変わらん。
フレイザーは空中におるから剣での攻撃は届かない、そもそもここに水がないからどの道無理だが。魔法攻撃も奴の炎龍が邪魔だ、そしてこの拓けた崖の上……これでは逃げ場がまったくない。
「――これはもはや万事休す、という奴なのでは」
「その通りです! 燃え尽きてしまうがいい! 行け我が炎龍!」
くっ! ここまでか!!
「――ええい!!」
なっ!? フェリシアが大量に木を生やして、それが壁となって炎龍の突撃を防いだ!
「面白い事をします、ね。ですがそんな事をしても無駄ですよ!」
……ああ、木の壁がどんどん燃えていく、何を考えておるのだ!?
あれではここを守る処か余計に火の移りが良くなるだけ、いやそれよりフェリシアの体が燃えてしまうではないか!
「フェリシア! そんな無駄な――」
「無駄ではないです! これが私の唯一の出来る事ですから!! このおおおおおお!!」
燃えた木は下から生えてくる木に次から次へと押されマグマに落ちて行く……まるで歯の生え変わりの様だ。なるほど、これだと火が燃え移る前に新しい壁が出来るわけか。
「ちっ、たかが植物の分際で火にたて突くとはいい度胸です、ね!!」
「くっ! 長くは持ちそうにないですが、それまでは精一杯皆様をお守りしますです!! どうか諦めないで下さいです!! 勝機を掴んで下さいです!!」
火と植物……相性の悪いフェリシアが諦めずに我輩たちを守っておるのだ。
「そうだ、我輩達は諦めてはいかん何か突破口を考えるのだ!」
その想いを無駄にしてはならぬ!
『考える、か。う~ん……そうだ! みんな空を飛べばいいんだよ! そうすればフレイザーに攻撃できるしいざとなればここから逃げれるし!』
「「「そんな事出来るか!!」」」
『……ですよね……』
まったくエリンみたいに簡単に飛べれば苦労はせんぞ、このアブソーヘイズに空を飛ぶ能力があれば話は別……天使の剣なのだからあってもよさそうなのだが……ん? 能力? 空を飛ぶ……っ! あの方法があるではないか!
となると後は水さえあれば、そう水じゃなくても何かの液体を……あ……。
「ベルトラ、聞きたいことがあるのだが」
「なんですか?」
※
「……なるほど、やった事はありませんが可能だと思います。ですがそれが出来たとしてフレイザーは空中にいるんですよ、それをどうやって……」
「チョハハハ、大丈夫だ。このアブソーヘイズを使うのだ」
「アブソーヘイズを? 空を飛ぶ力でもあったんですか?」
『何意味不明な事を言っちゃってるの? そんな力なんてないよ?』
「あるんだなこれが、物は使いよう、だ」
※
「本当に投げていいのかこれ!?」
「ああ! 思いっきり投げてくれ! ただしフレイザーに向かってだからな、ベルトラしっかりと我輩の体に捕まっておれよ!」
「はい!」
「ええい! わかった! では行くぞ!! どりゃぁあああああああ!!」
「やれやれ、やけを起こし剣を投げるなど美しくもないです、ね。そんなの簡単に避けれ、っは!? 奴らも飛んで来ただと!?」
このアブソーヘイズと我輩は繋がっていて一定距離から離れられない、つまりアブソーヘイズが投げられたら我輩もくっ付いて行く羽目になり――いやでも飛ぶ事になる!
まさかこの呪いの力がこんなところで役に立つとは……。
「構えろ!! ベルトラ!!」
「はい!!」
「……確かに意表をつかれましたが……水の刃のない剣を構えてどうやって私を倒しというのですか? 実に馬鹿です、ね!」
「チョハ! それはお前だよ!」
「フン、何を言って――っ!? 真っ赤な刃だと!?」
「水ならあるさ! そう、我輩の血だ!」
血液も液体だからな、刃を作れる……ただ頼むから我輩が死なない範囲で作ってくれよ、ベルトラ。
「うおおおおおおお! りゃぁあああああ!!」
よし! 血の刃でも火の鳥を粉砕できた。
「くそっ私の炎龍が!」
後は邪魔な物が無くなったらフレイザーを捕まえて――。
「ぐっ!? はっ放せ!! 何をする気――」
この勢いのまま――。
「――っまさか!? やめろおおおおおおおおおお!!」
先ほど壁に刺さったアブソーヘイズの柄にフレイザーを叩きつける!!
「ぐえっ!! がはっ!」
うわ~……自分でやっときながらなんだが柄に直撃は相当痛いぞ、これ。
で、フレイザーの奴は……気絶しておるな。う~む、止めのためにアブソーヘイズを抜いてしまうと我輩達はそのまま落ちてしまう、仕方ないフレイザーを柄に引っ掛けてっと、後はこのまま助けが来るまで待つか……先にフレイザーが目を覚まさねばいいが。
「あの……」
「ん? なんだ?」
「私はいつまであなたにおぶられていないといけないんでしょうか」
「いつまでって、そりゃ爺さん達が我輩達を助けるまでだな」
「――――――――っ」
何だ? 顔を真っ赤にして……まぁ確かに、我輩は地面にいる様な感覚で余裕だがベルトラはそうではないからな、苦しいのだろうか?
というかベルトラがおぶさっている所はそのまま重力で引っ張られておるから――。
「重い……」
「ああ!? 今なんて言いました!?」
「いや!? 何も!?」
我輩の血で作った刃を首筋に当てるなよ!
※
「まさか私が人間如きに敗北するとは、ね。だが……私が気絶している間に頭の炎を消す事はないだろ!!」
「火を操れるのだからその手段を消すのは当たり前じゃろ」
簀巻きにされて地べたに転がっている悪魔四天王か……最後の一人が一番情けない姿だな。
「フレイザー、父の敵、とらせて貰います」
「……この頭ではもうデイルワッツ様に合わせる頭がない……やれ」
すまん、もうその頭に合ってしまっておるのだよ……。
「お覚悟!! ――はぁっ!」
さらばだ、食火のフレイザー。
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