第3話 『わしも明日の戦についていこうと思う』
不思議だ、実に不思議な事がおきてしまった。我輩とエリンの目の前にはさっきの騒動でなくなったはずのベルトラスープの入った器がある。どうしてこうなった――。
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「で、ダリル様は何故こんな所に? 隠居してから山奥で暮らしてたのでは?」
「あっああ、えーと……そう! そこに倒れてる悪魔がなわしの畑の野菜を盗み食いしおって、懲らしめる為にここまで追いかけていたんじゃ」
「それはまた……所詮は悪魔ですね」
「盗み食いなんて行儀悪いね~」
「……」
貴様のせいで魔族の品質が下がったではないか……。
「そういうベルトラも何故ここに? 後ろの2人は――」
――グウ~。
「ダ~ッハハハハ! 昼飯食う前に追いかけていたから腹が減ったわ」
「それはいけません、えーと……スープはこぼれてしまったので――」
お、ベルトラのやつ保存食に手を伸ばした。
よかった、保存食のほうがましだ……エリンも同じ考えをしていたのかほっとしているのがわかる、気持ちすごくわかるぞ。
「これを使ってちゃっちゃとスープを作りますので少し待ってて下さいね。後その間に今の現状を説明します」
「「え!?」」
何いってんだこいつは、今から作るとか正気か!?
そもそもスープにする意味はどこにあるというのだ!!
「お、ベルトラのスープか。久々じゃの~楽しみじゃ!」
「「はぁ!?」」
何言ってんだこのじじい!! 楽しみとかボケてるのではないか!?
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「なるほど、今そんな事になっておるのか。ズズッ」
なんでそんなにおいしそうに食べてるんだこの爺さん。
「はい、それで明日フィゲロアに奇襲を仕掛けます。ズズッ」
なんでそんなにおいしそうに食べてるんだこの騎士様。
待てよ、もしかしたらさっきのは失敗でこれはまともじゃないのか? どれどれ――。
食材が変わってるのにさっきと同じ味なんだが、我輩か? このスープをまずいと思ってしまうのは我輩の味覚がおかしいのか?
いや……そうでもないみたいだ、エリンの顔見れば少なくとも我輩だけがおかしいというわけではない……とりあえずこのくそまずいスープは置いといて、あの爺さんの事だ。
豪拳ダリル、ベルトラの祖父とでアルムガムの双豪と呼ばれていた……ねぇ。約40年ほど前の話らしいがその時の我輩は魔界統一に一歩手前あたりでアルフレドと壮絶な戦いをしていた頃だったかな?そんな時に人間界の事なんぞまったく気にも留めなかったわ。
しかし下級悪魔の顔にはくっきりと拳の形が付いている、下級とはいえ年寄りが素手で悪魔をぶん殴るとは実力は本物と見ていいだろうが……ゆえに気になる事が。
「爺さんに一つ聞きたいのだが」
「ん? わしに?」
「何故その実力で隠居しているのだ? 国王親衛隊、いや魔王軍との戦いで前線にいてもおかしくないと思うのだが」
「デール殿! その話は――」
ベルトラがすごく慌ててるがどうしたというのだ、変な話でもしたか?
「ベルトラ、かまわんよ。なんせ勇者様の質問なのじゃからな……どっこいせ」
食べた早々横になった、爺さん太るぞ。
「話せば長くなるんじゃが……」
「うんうん!」
えらい勿体つけるな……――ってエリンも興味あるのはわかるが我輩に引っ付きすぎだ。
「――たんじゃよ」
「え?」
「追い出されたんじゃよ、カミさんに浮気がばれっちまってな! ダ~ッハハハハ」
すごい笑ってるが……え? え?
「ちょっと待て、それだけなのか?」
「そうじゃが?」
その話のどこが長いのだ、一言ですべて終わったではないか! 意味ありげにしてた意味は!? そもそもなんだその理由は!?
「くっ」
くっ、って。何故ベルトラが顔を伏せるのだ。
「いやいや! 国王親衛隊の一人だったんだろ!? アルムガムの双豪と呼ばれてたんだろ!? 何故浮気如きで――」
「わしのカミさんは先代国王の娘の一人なんだ」
あ、すべて納得。
「……よく打ち首にならなかったな」
「寸前まで行きかけたが息子たちや現国王が説得してくれたり、今までの功績やらのおかげでカミさんの機嫌が直るまでわしが山奥に謹慎、反省という形で何とかおさまったんじゃが」
「おいたわしや……」
ベルトラが本気で泣いているではないか。
「よしよし」
エリン……ベルトラの頭を撫でてやるな、なんかベルトラが妙に惨めに見える。
「ベルトラ、貴様が泣くことはないだろう」
「……ダリル様の奥様、サリーサ様は私のおばあ様の妹君なんです……」
まさに身内の恥。理由も理由だしそれは泣けてくるわな。
「まぁ歳も歳だしちょうどいいから家は息子達に任せてこのまま山奥で隠居する事にした! いや~あの時のカミさんは生きてきた中で一番の恐ろしかったわ! ダ~ッハハハハ!」
ダメだこの爺さん。
「――さて、昔話はここまでにして、明日の事なんだが」
「明日の事だと?」
なんという切り替えの早さ。
「ここであったのも何かの縁、わしも明日の戦についていこうと思う」
「ダリル様がですか!? ――あぐっ!」
「ぷぎゃっ!」
あ~あ、そんなに勢いよく頭上げるからエリンの顔とぶつかってしまってしまうのだ、痛そう……。
「おうさ! 衰えてきたとはいえ露払いくらいできるわ」
爺さんの筋肉アピールのポーズを見せられてもな~、ん? 何か落とした。
「おい、爺さん何か落としたぞ。――これは手紙か?」
すごく豪華に装飾された手紙だな。
「っ!? それは! 返せ!」
物凄い速さで奪われてしまった、今のは見えなかったぞ……。
「え? 何々!? 見せて見せて!」
「あっ、こら! 返せ!」
好奇心旺盛なエリンの動きもすごいな、一瞬で手紙を奪い取った。今のも見えなかった……。
「えーと何々~」
「こらぁ! 声を出して読むな!」
空中に逃げられてはさすがの爺さんでも手が出せないな、ピョンピョンと跳ねてる姿が滑稽すぎる。
「愛しのダリルへ。明日の朝一にそちらに伺います、とても重要なお話がありますので決して! け~~~~~~~~~~っして逃げないように! サリーサより。だってさ」
サリーサ、という事はその手紙の送り主はさっき話してた爺さんの……あ、爺さんが固まってる。
これはもしかしなくても皆わかる。
「爺さん、逃げてきたか……」
「ダリル様、逃げてきたんですね……」
「ダリ爺、逃げてきちゃったんだ~……」
豪拳と言われた漢、ダリルが膝をつく瞬間なんてめったに見られまい。
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