第224話【戦いの始まり】

土のドームの闇の中でグレートヒェンは折れた剣を振った。

メフィストフェレスは無理矢理体を蔓で繰って動かして

薙刀を振って剣先を防御した。

火花散る中でメフィストフェレスは苦悶の表情を浮かべていた。


「っ・・・」


剣を弾かれて闇の中、 殴ろうとしたら薙刀にやられる

グレートヒェンには成す術が無かった。

ある意味諦観にも似た感情からグレートヒェンは言葉を紡いだ。


「・・・・・メフィスト、 聞かせてよ」

「・・・・・」

「何で貴女はファウストの子を生みたいの」

「・・・・・」


メフィストフェレスから発せられる気配が変わった。


「ゆうじゅうなごを生む為だ」


接合しかかっているのかたどたどしい声を発するメフィストフェレス。


「さっきも言ったけどもファウストの事を愛しているからじゃないの?」

「ぢがう」

「なら何故優秀な子を作ろうと思ったの」

「・・・・・おまえにば、 わがるまい・・・わだじのぜづぼうが!!」

「絶望・・・?」

「わだしば・・・私は!!」


頭が接合したのかはっきりと喋るメフィストフェレス。


「私は魔術の才が有った!! 誰よりも・・・誰よりもだ!!

だから分かった!! 自分の限界を!!」

「限界?」

「そうだ!! 自分では如何足掻いても始原の魔法使いは愚か

この世界から別の世界に渡る事すら不可能だと分かってしまったんだ!!

精々Dark holeで何も無い虚無へとの橋渡しをする事程度だ!!

馬鹿なら愚直にもなれるだろう、 だが私は力が有り賢いから駄目だった!!

その絶望が貴様に分かるか!!」

「・・・・・それとファウストの子を作るのが如何関係が有るの?」

「私以上の力を持つ存在は私と優秀な奴を掛け合わせるしかないだろう!!」

「・・・・・・・・・・・メフィスト、 私は貴女みたいに王国最強の魔法使いとか

そういうのじゃないから分からないんだけどさ」

「何だよ!!」

「そもそもなんで限界を超えようと思ったの?」

「・・・・・」


何故、 限界を超えようと思ったのか?

メフィストフェレスは魔導を志した時に

願った事を久方ぶりに思い出して言葉にした。


「この世全ての救いたかったんだ・・・

私が生まれた時に母を死なせた事、力の使い方を誤って父を殺した事とか

全ての苦痛を取り去りたかった、 魔法を極めれば出来ると思った・・・

現実は無理だったと分かった、 外術に頼ろうにも私には外術が使えない」

「使えない?」

「そうだ、 私には魔術の知り尽くしてしまった

この世の全ての魔術を知り尽くしてしまった

奇跡が起きる余地が無いと理解してしまった、 私には外術を使えない

外術が起きる理論が構築出来ない、 外術が作動する未来が見えない」

「・・・・・」

「だからこそ、 私の眼の前に現れた外術の使い手の子が欲しい!!

ファウストは私の前に現れた奇跡の光その物なのだ!!」

「そう・・・だけどねメフィストフェレス、 私も彼の子が欲しいのよ」

「お前も希望を欲するか」

「私も絶望はしたけど貴女とはベクトルが違う」

「ベクトル?」

「私はファウストと共に生きたいのよ」


ファウストが居るだろう暗闇を見据えて語るグレートヒェン。


「私はファウストを愛している」

「愛・・・か、 それは性欲とは違うのか?」

「説明は難しいよ、 私は馬鹿だからね、 だからこそ私は貴女に勝負を挑む」

「勝負? 勝負ならさっきからしているだろう」

「聞いて、 ファウストの遺体の全ては私とこの外にいるクレールの持っている分で全部なのよ」

「・・・・・つまり?」

「これからファウストの遺体を全て集めてファウストを復活させる」

「!!」

「これで貴女と私の目的の前提条件はクリアになるんじゃないの?」


グレートヒェンのファウストと共に生きたい

メフィストフェレスのファウストの子供を産みたい

その両方はファウストが居なければ始まらないのだ


「そして蘇ったファウストに選ばせようじゃないの」

「選ぶ?」

「私と貴女、 どっちを選ぶのか!!」

「私はファウストの子供を生み続けられれば良いのだが」

「惚れた男の奪い合いには参加しなさいよ!!

男を求めたらフラれるかもしれないって言うのは当然じゃない!!」

「・・・・・・・分かった、 良いだろう、 乗ってやろう、 その要求」


メフィストフェレスは指を鳴らしてドームを崩したのだった。

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