第98話【流浪の銃士は船を漕ぐ】

船から小舟を出して貰い故郷に向かうヴァーグナー。

船を漕ぎながら想いを馳せる。


(思えば故郷を出た時は何も無かったな・・・)


自分の過去を思い出すヴァーグナー、剣の才覚も無く

これと言った友も無かった、父親は育児放棄で母親も早くに亡くし

育ててくれた親代わりの指南役は今元気にしているだろうか?

粛清されているかもしれないと思うと悲しくなって来た。


(・・・まぁ故郷から出て得た物も方が大きいか)


銃の才能や観察眼を開花させ幾多の戦場を駆け巡りファウストと出会った。

出会いは最悪だったが、感化されて真に尊敬できる人となった。

仲間達とも出会えた

ファウストと別れる事になったが彼の意志は果たされなければならない・・・


「・・・そんな事も言っていられなくなったか」


小舟の前に一隻の船が現れる。


「止まれ!!そこの船、一体何用か!!」

「王国からの特使だ!!武器は無い!!

『御使い』首領レーヴァーキューンにお会いしたい!!通されたし!!」

「・・・分かった、上陸し暫し待たれよ」

「・・・・・」


もう二度と戻らないと思っていた

大海城の埋め立て地に足を踏み入れるヴァーグナー。

そして自分が帰って来た事に誰も何もリアクションを取らない。


「念の為改めさせて頂くがよろしいか?」

「(きっと忘れているんだろうな・・・)・・・」

「身辺を改めさせて貰ってよろしいか?」

「あ、ああ構わない」

「では失礼」


ボディチェックをされるヴァーグナー。


「・・・武器は何も無いですね、失礼した」

「構わない」

「首領殿には今取り次いでいる最中なのでもう暫くお待ち下さい」

「分かった」


暫く待っていると息を切らした伝令がやって来る。


「お会いになるそうです・・・ついて来て下さい」

「分かった」


伝令の後を付いて歩きながら大海城の城下町を歩くヴァーグナー。


(街並みは変わらないが人々が不安そうな顔をしているな・・・初めて見る)


この街の人々は不安等持たなかっただろう。

『御使い』は無敵だと信じどんな魔物にも負けないと信じていたのだ

それが人と戦う事になるとはこの街の住民達は思いもよらなかっただろう。


「・・・・・」


村娘の一人が家屋から顔を出す。


「・・・・・」

「・・・・・」


その家屋の前を通り過ぎるヴァーグナー。


「ヴァーグナー様?」

「!」

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