第35話【弓を掴まれるエルフ】

「止まれ」


ファウストの足元に矢を放つマンゲル


「別に私はお前を殺したい訳じゃない、お前の命なんか要らん」

「気が合うな」

「?・・・その場で負けを認めてくれるのならばこのまま終わりにしても良い」

「何故?」

「殺したくないからだよ、流石に剣も無しで何本も矢を受けたく無いだろう」

「構わない」

「は?」

「構わない、と言ったんだ」


自身に刺さった矢を抜きながら悠然と歩くファウスト


「・・・なるほど、ならその歩みを止めてやろう」


足を狙うマンゲル、だが矢は蹴られて弾かれてしまう


「なら仕方ない、痛いが我慢しろ」


大量の矢を再度ファウストに射る、剣が無い今、今度は剣で弾き飛ばせない

ファウストは転がって矢を回避しようと試みる


「悪いが読んでいる」


転がっているファウストに矢がカーブを描き命中する


「流石に死ぬかもしれないな、族長、回復を」

「あ、あぁ!!」

「お気遣い結構」


大量の矢が刺さり針鼠の様になったファウストがむくりと立ち上がる


「お、おい!!このままだとアンタ死ぬぞ!!」

「どうせ何時かは死ぬ定め

それに今確信したがここでマンゲルを引き入れなければ魔王を討てん

ならばここで負けを認めるのは死と同義だ」


族長の絶叫をさらりと流しファウストは立ち上がりマンゲルに近付く


「・・・・・勇者よ、名は何と言う?」

「ファウストだ」

「そうか、私が欲しければ全力で来い!!全力で相手をしよう!!」

「言わずもがな!!」


マンゲルが矢を放つ

ファウストは自分から抜いた矢を数本束ねて振って放たれた矢を弾いた

その後もマンゲルは矢を放ち続けるも矢は全て弾かれ

ファウストに弓を掴まれた


「・・・さっきの矢を纏めて放つ技をすれば命は無かったと思うが何故使わなかったんだ?」

「あんな雑なやり方ではお前に失礼だろう?

だから一本一本全神経を込めて射ったそれだけの話だ」

「そうか・・・」


倒れるファウスト


「もう治療するぞ!!構わないな!!」

「あぁ、もう大丈夫だ」

「肝が冷えるぞ!!勇者の仲間達も何故見守るのだ!!」

「その程度じゃ勇者は倒れない、と言う事を身をもって知っていますからね」

「右に同じ、だが肝を冷やすので止めて貰いたいね・・・」


ヴァーグナーが自信有りげに答えグレートヒェンが不安げに言う


「あぁもう全く!!勇者の勇とは蛮勇の勇か!!」

「それ、良いな」

「良くない!!」


族長は叫びながら勇者を治癒するのだった

そしてマンゲルは勇者と共に魔王討伐の旅に出かけた

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