第22話 魔女と花畑2

「フレイさん!」


花畑だった荒れ地の前に、佇むフレイにフラウが声を掛けた。


「どうした、フラウ?」


フレイが振り返った。


「……行かれるのですね?」


「……ああ、このままじっとしてても何も変わらないしな。けど、今度は自分を責めて焦ったりしてないよ。ウチ決めたんだ。この花畑を甦らせるためにベノムフラワーを倒すって!」


「花畑のため?」


「ああ。もちろんウォルタや村の人の毒を取り除くためってのもあるけど、魔物の毒のせいで消えてしまった、この花畑の本当の姿を見てみたいと思ってな」


フレイは笑顔でそう言った。


「ふふ、そうですか。ならもう止めることはありませんね。フレイさん、これを持っていってください」


そう言うとフラウはフレイに何かを手渡した。


「……これ、魔導石じゃないか。どうしてフラウが?」


「魔女だった私の姉の形見です」


「いいのかよ、そんな大事なもの?」


「ええ、魔女であるフレイさんが持っていた方が、きっと意味があるはずです」


「……分かった、ありがとな!」


そう言うとフレイはフラウから魔導石を受け取った。


「フレイさん、どうか気を付けて」


「ああ!」


フレイはフラウに手を振ると、森に向かって歩き出した。





「うおりゃあ!」


森の中に入ったフレイは早速、花の姿をした魔物二匹との戦闘に入っていた。そして、フレイの振る剣が魔物の一匹を切り裂いた。


「次!」


そう言って体の向きを変えたフレイに、すぐさまもう一匹が襲い掛かり、毒の花粉をフレイ目掛けて吹き出した。


「その攻撃はもう見てる!」


フレイはそう言って、魔物の花粉をかわし、背後に回り込むと、炎の剣で魔物を切り裂いた。


「ふう。しかし、急に襲ってくる魔物の数が多くなったな。この先に親玉のベノムフラワーがいるってことか!」


フレイは森の中を魔物を葬りながら疾走し、やがて、森の奥に到達した。そしてその目に巨大な花の姿をした化け物を捉えた。


「……こいつがベノムフラワーだな……よし! 行くぞ!」


フレイは魔法剣を力強く握り、その刀身に炎を灯すと、ベノムフラワーとの距離を一気に詰め、構えた剣を振ろうとした。


(待てよ、こいつもあの小さい花みたいな奴と同じで、花粉を吹き出すんじゃ……)


フレイの予想は当たっていた。ベノムフラワーは突如、自らの周囲に大量の花粉を吹き出し、まき散らし始めたのだった。


「あっぶね!」


いち早く感づいたフレイは魔物から距離をとった。そして、魔物がまき散らした花粉は、その周囲に密集し、まるで魔物をガードする結界のようになった。


「……困ったな、近づかなけりゃ、剣を当てられないぞ」


フレイはそう言って、顔に冷や汗を浮かべた。


(どうする、剣を使わないで炎魔法の玉を飛ばすか? いや、それじゃあ威力が低すぎる……)


そう考えこむフレイの頬に激痛が走った。魔物がまき散らした花粉の一部がフレイの頬に触れたのだった。


(このまま、ここに長居するのはまずいな。一気に型をつけないと!)


フレイはバッグからフラウから貰った魔導石を取り出した。


「……フラウの姉ちゃん、力を貸してくれ!」


そう言うとフレイは魔法剣に魔導石をスキャンした。


『ウェイブ』


魔導石から音声が鳴り、魔法剣の刀身に灯った炎が、僅かに形を変えた。


「何だ、特に大きな変化はないな……」


そう言って、フレイが構えた剣を振ると、剣に灯った炎が刀身から分離し、そのまま剣を振った方向に三日月型に飛び、近くの木を切り倒した。


「斬撃が飛んだ……これが魔導石の効果か! よし!」


フレイは花粉に囲まれたベノムフラワーの前に立つと、剣を構えた。


「この技なら、近づかなくても、お前を切れる! 食らえ!」


フレイの振り下ろした剣から放たれた炎の斬撃が、花粉の結界を切り払い、そのまま、本体のベノムフラワーに到達した。そして、ベノムフラワーは真っ二つに切り裂かれ、光の粒子となって消えた。





数日後、ウォルタ、フレイ、フラウの三人はかつて花畑のあった荒れ地の前にいた。


「魔物を退治するつもりが、すっかり世話になっちゃったわね」


ベノムフラワーの毒が消え、元気を取り戻したウォルタがフラウに言った。


「そんな、私は大したことはしてませんよ。それに、フレイさんがベノムフラワーを倒してくれたおかげで、毒を浴びた村の人々も元通り元気になりましたし、フレイさんには感謝してもしきれません!」


フラウが笑顔でそう言った。


「ホントよね、ありがとうフレイ」


ウォルタが笑顔でそう言った。


「よ、よしてくれよ、ウチがベノムフラワーを倒せたのはみんなの協力があったからだよ」


フレイが照れ臭そうに頭かきながら言った。


「……けど、毒が消えて人が元気になっても、花たちはそうはいかないみたいだね……」


フレイが荒れ地に目をやって言った


「……ええ、毒を浴びている期間が長すぎて、花たちはすっかり枯れ果ててしまいましたから……ですけど!」


フラウは両拳に力を入れると、二人の顔を真っ直ぐ見た。


「必ず、村のみんなの力を合わせて、この花畑を甦らせます! どれだけ時間がかかるか分かりませんけど必ず! ですから、もし再びこの村が花でいっぱいになったら、お二人共またいらしてください!」


フラウは笑顔でそう言った。


「ああ、もちろん! 約束だ、フラウ!」


フレイは笑顔でサムズアップした右手を突き出した。


「ええ、楽しみにしているわ!」


ウォルタも笑顔でそう言った。


「はい! 約束です!」


そう答えたフラウに手を振って、二人はハナ村を後にした。いつの日か花でいっぱいになるであろう大地を踏みしめて。

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