第15話 エピローグ
クリスとジェイニーは、ブレッドの墓の前に居た。
レコーディングのせいで二人共、式には参列出来なかったのだ。
ジェイニーは、白い墓に百合の花束を置くと涙した。
「ブレッド・・・何故!何故死んでしまったんだ・・・。」
地元の人の話では、ブレッドは黒塗りの車に煽り運転をされ、それから逃げようとしてデトロイト川に車が突っ込んだらしい。
深夜だったので、誰も通らずブレッドは溺死だった。
しかし、深夜に何故ブレッドは出掛けたのか?
そこが謎になっている。
ジェイニーの所に泣きながら電話をしてきた、パメラの言葉が今も残っている。
「ブレッドは殺されたのよ!」
ブレッドの葬式は近親者のみで行われたそうだ。
その時、ジョシュアも参列したのだが、パメラは一滴も涙を流さなかったらしい。
そして一週間後、パメラは荷物をまとめて何処へともなく消えてしまったという。
あの楽しかった家、あの美しかった部屋、隅々まで手入れが行き届き輝いていた家が今は主もなく、悲しく錆びれ果てていた。
そう思うと、やるせない気持ちで一杯になった。
しかし思い出の中に、ふとブレッドが自分に語りかけてくる光景を見付けた。
『生きるんだよジェイニー!周りの気持ちに耳を傾けろ。そして現実を見るんだ。その時に答えが見付かる。僕と君が今日感じた共感を、また味わう時がきっとくるよ。』
ジェイニーは涙の中に、そう語るブレッドの姿を見付けた。
そして、フッと遠い目で思い出の中に漂うブレッドの姿を見つめた。
彼は優しく笑っていた。
ジェイニーは手の甲で涙を拭い、そして・・・その手の平を見る。
自分の熱い涙が濡れている事に気付き、そして彼は今自分が泣いている事を自覚する。
更に自分が哀しんでいる気持ちを見つめた。
もう此処にはブレッドは居ない・・・でもブレッドの意志は俺に受け継がれた。
俺はこれから先、ブレッドと共に生きていく。
「ブレッド・・・やっと認められたよ。『デトロイドロックシティの残り香』でメジャーデビューする事が出来た。これから、どんな強い嵐に見回れるか分からないけれど、お前が心の中に居る限り俺は・・・この曲と共に、そして仲間と共に超えて行くよ・・・超えていってみせる!」
隣にはクリスが居た。
クリスは頷くと、持って来ていたギターを手にし、ジェイニーと目を合わせた。
そして、クリスがカウントを取るとギターを奏で始めた。
ジェイニーが歌い出す。
『デトロイトロックシティの残り香』を・・・
デトロイトロックシティの残り香
1 何を求めていたんだろう
何が足りなかったんだろう
プライドだけが空回りして
愛を忘れていた
君に出逢うまで
欠けていた心の中
自分が何を欲しがっていたのかも
分からずにいた
君に出逢って
光と闇
入り混じる希望と絶望
その小さな手で
ほどいていった
デトロイトの街の様に
俺の心も愛と友情で
混ざり合い
波立つ心
持て余していた
でも今は
君への想いが残り香に変わるまで
君への愛が残り香に変わるまで
2 何を探していたんだろう
何が欠けていたんだろう
プライドだけを押し付けて
愛が見えなかった
君に出逢うまで
俺は出逢って
君と友
入り混じる愛情と友情
その微笑みで
教えてくれた
君がくれた残り香に
心も身体も愛と欲望で
混ざり合い
抱き締めたい
ただ愛してる
でも今は
君の残り香を抱き締めさせて
君の残り香が想い出に変わるまで
ジェイニーは歌い終わると、一滴涙を零した。
その時、クリスの怒声が聞こえてきた。
「ジェイニー!」
ハッとジェイニーは我に返った。
「明日からツアーが始まる、『デトロイトロックシティの残り香』のツアーがな。だから涙は今日までだ。
切り替えろ!ブレッドも、それを望んでいる。」
この曲でBIGになってくれ!それがブレッドの切なる思いだった。
ジェイニーは暫くブレッドの墓を見つめて居たが、涙を手の甲で又拭った。
そして、毅然とした顔で・・・
「分かったよ。クリス。」
と、話した。
その顔は笑顔だった。
ブレッドの墓が立ち並ぶ墓地は、デトロイトの小高い丘にあった。
ジェイニーとクリスは風に吹かれながら、デトロイトの街並みをいつまでも見つめて居た・・・。
END
Thank You For To
Yuuka Kimura デトロイトロックシティの残り香、作詞
Kazumi Nemoto 構成&編集
デトロイトロックシティの残り香 谷口雅胡 @mimmmay7
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