第9話
肺に空気が流れ込んでくる感触と共に瞼を開くと、侵入するまえに居た場所の景色が広がっていた。
【渉】
「……目が覚めたようだな」
学校付近の林と探偵部のポンコツ5人衆――
いや、あの地味な女はだけは許してやるとして、ポンコツ4人衆+1が間抜けな顔で俺を見つめていた。
いや、俺の方が間抜け面してただろう……
【大治郎】
「どうしてここがわかった?」
【律奏】
「我々の都合だよ。利益のためというべきだね」
【大治郎】
「追跡してたのか……なんて奴らだ……
はっ、マノカは!?」
手にした偽物のスマートフォンに文字が表示されると、マノカの笑顔が閃いた。
【マノカ】
「ここにおるで?
はぁ、怖かったわぁ……どうなるか思ったわ……
あっ、ポロ、いたずらせんで!」
【大治郎】
「今の肉球はペロのだ……」
【マノカ】
「えぇ? ホンマに……あっ、せや……
ポロがおらへん!?」
【妃那】
「すっごーい!!」
【大治郎】
「あいつのスマホに転送されたようだ。安心しろ。
……それで、探偵部はなにをしたんだ?」
【律奏】
「私たちはなにもしていないよ?
君がやったのではないかね!?」
【マノカ】
「ホントにホントやで?
外からかわれた鍵を開けたんや。すごいわぁ」
【克行】
「カワレタってどういう意味だ?」
【初雪】
「飼われた、買われた、変われた……
好きなのを、選んで……」
【大治郎】
「ちなみに全部間違いだがな……」
【渉】
「そろそろ行かないと不味いぞ」
【律奏】
「彼女をフライングフォーンから、
君自身の端末へ移したまえ」
【大治郎】
「する必要があるのか?」
【マノカ】
「そりゃそうやわ!
解析したら行先がフライングフォーンって、
バレてまうからな」
とか言いながら、ちゃっかり俺の端末に移動しているあたりマノカらしい。
【大治郎】
「というか、勝手にアプリ作って、
インストールするなよ……」
【マノカ】
「えぇやん? こうしたらすぐ会えるんやし!
現実におるでさっきみたいのはできんけどな?」
【マノカ】
「こっち入る時はポロのアイコンなってる、
テキストエディタでな」
バックボタンでホーム画面を見ると、ポロとペロのアイコンが並んでいる……
どちらも変わり映えしないのに、どうしてかわかってしまう自分が不思議で仕方ない。
【マノカ】
「せや、これがさっきのログや」
先ほど俺達が侵入していた時の会話が克明に、一言一句たがわず記録されている。
が、誰にも見せられないのですぐに閉じてペロのアイコンをタッチする。
【マノカ】
「なんや? 恥ずかしそうに笑ってんなぁ……」
【大治郎】
「見られて困るのはお互い様だ」
【律奏】
「彼女の移動も完了したみたいだ。
これはここに捨てていくとしよう」
俺からフライングフォーンを奪い取るとあらかじめ準備しておいた穴へと放り込んだ。
【大治郎】
「結局、アシがつくんじゃないのか?」
【妃那】
「見てのお楽しみっすよー?
あーっと驚くイリュージョン!!」
ガヤガヤと声をあげながら林へと上がってくる大人達を背に、俺達は現場から立ち去り帰路へと踏み出した。
【律奏】
「不思議な経験をした者は、
二度と普通の生活に戻る事はできない……
探偵部でよければよりどころになろう」
【マノカ】
「うわぁ、友達や! 大治郎が出来るんやで!!」
その時、さっきまで俺達のいた林から笛の音が響き、祝砲とばかりに閃光が空へと飛び立っていく。
【大治郎】
「本当に飛ぶんだな。
ダブルミーニング……とは少し違うか……」
【渉】
「もっとも革新的なフライングフォーンだからな?
ただ、飛ばしの携帯ってだけじゃ面白くない」
【大治郎】
「はぁ……俺はこりごりだ……」
【マノカ】
「友達や友達! と・も・だ・ち!!」
マノカがペロをモフモフしながら嬉しそうに跳ねたり転げたり……
画面の中ではしゃいでいる姿は、見ていてとても微笑ましい。
【大治郎】
「わかったからブルブル震えるな。
それに、俺は友達になったつもりはない」
【マノカ】
「えぇ~なんでや!
大治郎も友達おらへんのやからええやん!!」
【克行】
「この期に及んでまだそんなこと言うなんて、
諦めが悪いな」
【初雪】
「どっかの、誰か、みたい……」
【大治郎】
「ったく、これだからポンコツぞろいは……
最後まで聞け!」
【マノカ】
「あっ今、ウチの事も含めてポンコツ言うたん!?
部長と妃那ちゃんと初雪ちゃんで、温泉行ったる!
むさいのは置いてけぼりや。探偵部女子会や!!」
【律奏】
「素晴らしい発案だね。
しかし、我々は資金難で、彼女が旅費のために、
強盗を行う可能性があると推理する」
【妃那】
「つまり、先輩の奢りっすね?
もうすぐ冬なんで、蟹食べたいっす!!」
【初雪】
「えっ……私も、行くの……?」
【大治郎】
「だから……最後まで聞け!
これだから友達とかはうんざりなんだ……」
【渉】
「とか言いつつ楽しそうじゃないか。
俺達は海でも行こうか?」
【大治郎】
「冬の海なんてサーファーか自殺志願者くらいだ……
あのな、今までなにも言わなかったが、
なんでタメ口なんだ? 一つ上だぞ、俺?」
【克行】
「ハニー! 離れ離れになっても、
草葉の陰から愛しているよ!?」
【大治郎】
「草葉の陰ってお前死んでるじゃないか」
【初雪】
「そこまで、いったら、諦めて、成仏して……」
【律奏】
「それで、返事は決まったのかね?」
【大治郎】
「確かに、今回は色々と世話になったし、
助けてもらった恩もある……」
【マノカ】
「そうやそうや! 友達つくろうな?」
【大治郎】
「だが、やっぱり、探偵部には所属できない……
俺には俺のやり方がある」
【マノカ】
「ホンマ素直やないな!」
とか文句を言ってるわりには、俺の前ではあんなに弱音を吐いてたんだ。
ついていてやらなければな……
【大治郎】
「だが、彼女が友達の助けになりたいというなら……
聞いてやってもいい……
念押しするが、彼女のためだからな!」
【律奏】
「今回の件でアシはつかないようにした……
だが、この先きっと、追う者や狙う者が現れる……
その際は、またフライングフォーンを用意しよう」
【妃那】
「アレ作るの結構ダルいんで、
次は見返り要求するんすけどねぇ。
協力してくれたらって感じっす」
つまり、ピンチになった際、マノカを守りたければ捜査に協力しろという事だ……いいだろう……
【大治郎】
「そうか……それは助かる……」
【渉】
「それじゃあ、みんなで食事でも行こうか!!」
【妃那】
「蟹ぃぃ!」
【克行】
「はにぃぃ!」
【初雪】
「私は、女王、巣まで、来てくれれば、
たくさんの家族が、歓迎する……」
熱殺蜂球の話か……どうでもいい……
【大治郎】
「しかし、今日は疲れた……」
結局のところ魔法がどう関係しているのかはわからなかった……
不思議な現象といえば、文章を記す事によってマノカの意識と俺の意識が共鳴し向こうへトリップする……
本当にそれだけだ。
でも、きっと俺のそばにいる者が、それによって作られたんじゃないかと思う……
そして俺は育んだ……恋をし……愛して愛された……
一応は解決したみたいで探偵部の5人も魔力についてはもうなにも言わないし……
深夜にも関わらず快活に言葉を交わしながら、俺達の先を歩いている。
【大治郎】
「もう……一人じゃないんだな……」
手に握られているスマートフォンを見つめニッコリと微笑むと、マノカは可愛らしくウインクをしてきた。
突拍子もない行動にドキッとしてしまい、前を歩くポンコツ4人衆+1を伺うが、見られてなかったようだ。
【マノカ】
「ホンマ、素直やないんやから……」
【大治郎】
「確かに……自分でもそう思う……
だけど、マノカと出会って少し変わった……
俺にはなにかわからないが……わかるか?」
【マノカ】
「さぁ? さっぱりわからんわ!?
ウチの正直度は90%やでな!」
そうか……そうだったな……
苦笑いをくれてやるとマノカは明るく微笑む。
【大治郎】
「このままマノカといれば、
もっと変われそうな気がする……
新しい世界を……愛せそうな気がするんだ……」
マノカと手を結んだ時のように、スマートフォンを強く握り締めた。
【大治郎】
「だから……これからも、一緒にいてくれるか?」
【マノカ】
「ウチは、大治郎のそういうとこに惚れてるんや!
一緒におってもええよ……その、代わりぃ……」
まるでキスを求めるかのように唇を尖らせるマノカ。
周囲を伺うが、さすがにスマートフォンの画面にキスするのはまずい……
だからって、ネットで会って口づけしようものなら、端末やパソコンが何台あっても足りないだろう……
会社に侵入するのは命がいくつあっても足りない……
ポンコツ4人衆+1が先にいるを確認すると、俺は静かに深呼吸して、ゆっくりと画面に顔を近づけた。
【大治郎】
「……マノカ……愛してる」
【マノカ】
「ちゅっちゅっちゅっ……ウチも……ちゅるっ……
大好きやお!!」
fin……
New Real World 白鳥一二五 @Ushiratori
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