117.取捨選択

家に戻ると、焚火に木をくべていた村長に話しかけられた。

村長が座っている時は、大事な話が多い気がする。

俺は大方ログさんとの事だろうと、小さな焚火を挟んで村長の前に座った。

ログさんの事は俺から村長に伝えていなかったが、他の誰かから伝わっていても可笑しくない。

日常と違う事をすれば目立つもの、特に俺は何をしでかすか分からないから目を付けられていそうだ。

ログさんの事は隠すつもりもなかったし、無事解決したから知れていたとしても困る事はない。

そう思いながら村長の言葉を待ったが、村長の口から吐いたのは違う話だった。


村長は洞窟を調べて来て欲しいと俺に頼んできた。

村長は、昨日シュロさんの言っていた洞窟内から聞こえたという叫び声を気にしていたのだ。

グリュイの術によって土中深くより蘇った痺猿たち。

その影響で塞がっていた洞窟の奥と道が繋がっていれば、村は更なる危機に見舞われるかもしれない。

シュロさんの聞いた声が深みから這い上がって来た魔物ならば、一刻も早く対処しなければならない。

ゲームでも普通のフィールドより、地下や塔の内部の魔物が強いのは当然。

俺の考えるゲーム的要素を考慮して作った世界とナビも言っていた事から、この考えは確率的に高い。

地下深くから強い魔物が這い出てくる可能性があるとしたら、より警戒しなければならない。

村からすれば、地上の魔物が洞窟に住み着いてくれていた方がまだ良いだろう。

ボス猿は無理でも、痺猿程度なら太刀打ち出来るからだ。


「何時、調査に行けばいいんですか」

「今日はもう狩りに出てしまっているから、明日の朝でどうだね」


グリュイがいつ戻ってくるか分からないが、射水蛇しゃすいじゃの事は後回しでも大丈夫だろうか。

水中から出てこれないのなら、こちらから出向かない限り村に被害が出る事はないだろう。

影響があるのは、建てようとしていた家の完成が遅れるくらいだ。

俺はしばらく考え、顔を上げる。


「それで構いません」

「問題は誰と調査に行くかだが、どうするね」

「こっちで決めちゃっていいんですか」

「私に頼まれても困るがな」


村長が笑うのを無視して、考え込む。

最近、洞窟内部に入ったのは俺とグリュイ、クメギ、モフモフ。

ルアファも入り口で遭遇したが、内部構造が分かるほど足を踏みいれてはいない。

今は南側の片付けで忙しいし、忙しくなくても行こうとはしないだろう。

グリュイは北の森で魔物を探し回っている。

戻って来てから調査へ行くほどのんびりもしてられない。

当然、俺が行くとなるとクメギも調査から外れる。

一緒に行けば、腰に巻き付いて調査どころではなくなるのは目に見えているからだ。

必然的に俺とシュロさんの組み合わせが出来上がる。

用心のためにモフモフも連れて行っても良いかもしれない。

暗がりでも目が効くしな。


「クメギじゃなくて俺でいいんですか」

「クメギにこれ以上刺激は与えたくないんでな」


良い意味で変わってくれればいいが、洞窟に良い思い出なんかないだろう。

これ以上悪化するのは俺も避けたい。

洞窟内部も覗くとなれば、他の狩人も連れて行く事は出来ない。

体力だけ見れば俺と同等か少し上だが、俺には魔法がある。

それに、内部を知らない者を連れて行くこと自体ナンセンスだ。


そもそも洞窟に用事がある人がいないわけで、中の構造を知っている人が限られてくるのは最初から分かっていた事だ。

それでも選ぶ選択肢をくれたのは、村長の優しさか。


結局、洞窟の調査は俺とシュロさん、モフモフで決まった。

それで明日までの時間に空きが出来たが、どうするべきか。

村長が何かを磨り潰す仕事に戻ったので、家を出て村をぶらつきながら考える。

グリュイの事も気になるが、俺が行けばこの前のような展開になりそうだ。

それなら完全に任せてしまった方がいい。

グリュイの事だ。今日、明日にでも帰ってくるだろう。


そうえば、ルートヴィヒにクメギの事を聞こうと思って忘れてたな。

さっそく探しに行くと、北にある丸太の上に座って何やら作業をしていた。

モフモフの御褒美でも作っているのだろう。


「よう、ルートヴィヒ上手いこといってるか」

「それが、苦戦してます」

「珍しいな。どうしたんだ?」


聞いてからしまったと心の中で舌打ちする。

これでは、またルートヴィヒの話を聞いて終わってしまうではないか。


「以前作ってもらったのみは、家用なので細かい作業がし難いんですよね」


確かに今作っているのは、彫刻刀のような細かい作業が出来る道具が望ましい。


「いつまでも道具を作ってもらうのも悪いと思って、自作しようとしているんですが、石にも種類があって上手く割れないんです」


そう言ってルートヴィヒは歪に割れた小石を捨て、ポケットから新たな小石を出す。

俺は結構な数の小石が転がっている事に気が付いた。

俺は魔法があるから石の種類に関係なく同じように切れるが、ルートヴィヒはそうもいかない。

魔法がなければ削るか、鋭利に割れる石を探すしかないだろう。


「助言してあげたいけど、俺も石に詳しくないんだよな」

「時間は掛かると思いますが、ちゃんと作って見せますので心配しないでください」

「楽しみにしておくよ」


自分で作りたいという言葉を嬉しく感じて、俺は笑顔でその場を離れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る