58.曖昧

これでクメギが何も言って来ないのなら、俺の読みが外れた事になる。

しかし、そうじゃないなら俺に接触を図って来るだろう。

俺はただ待てばいい。


クメギが狩りに行っている間は俺も仕事をする。

村を塀で囲う仕事はやり終えた。

モフモフも七つに戻り、家造りの道具も揃っている。

ルートヴィヒに家造りは任せ、俺は池作りだ。


池を囲う木枠を作り、周りを踏み固める作業は大方終わっている。

後はモフモフが抉った道の両脇に板木を差し込み水路にする。

そのまま北の川まで水路を引いたら、川の水を水路に流れるようにすれば良い。


池の周りの木も少し伐採し、板木に加工していく。

日が暮れる前に、池はそれなりに形になった。

後は水を入れて水を貯めれるなら池周りは完成となる。


村に戻ろうと道に出た所でクメギが立っていた。


「話がしたい」


クメギは固い表情でそう言った。

池の横にある木材を椅子代わりに俺はクメギの話を聞く。

クメギは事故の事を途切れ途切れではあるが覚えていた。

ムクロジの死は受け入れがたいが、既に事故から五年経っていた。

生きているとは考えられない。

生き返らす事は出来ないが、弔う位ならやれるだろう。


魔物がいない今しか洞窟内に行く機会はない。

クメギから見て適任者はシュロだろうが、お互い一歩を踏み出せずにいる。

そこで俺の出番となるのだ。

俺ならクメギと二人で洞窟に行く力もある。

何ならモフモフを付けても良い。

ムクロジの亡骸を見つけ村で弔う事が出来れば、死についてもう一度考える事になるはず。

数年経って、クメギもシュロも村の人考えが変わっているかもしれない。

もう一度話し合うきっかけになれば、クメギの心も少しは癒えるだろう。


クメギの力を借りたいという名目でシュロに頼み込んでも、抜けれるのは半日もないだろう。

数時間の内に洞窟へ向かい亡骸を見つけ、村に戻って来なくてはいけない。

クメギも立て続けに抜ける事は出来ないだろう。

チャンスは一度だ。


「洞窟の中はどうなってるんだ?」

「広い空間があってそこから何本か奥に細い道が続いている。粘土を取る時はその広い場所で取ってたから奥がどうなってるのかは分からない」

「ムクロジが引き連れていった道は覚えてるのか?」

「記憶が曖昧で……洞窟に行けば思い出すかもしれない」


モフモフを全部連れて行ったとしても、洞窟の中を虱潰しに調べている時間はないだろう。


「何本あったか覚えてるか?」

「確か八本はあったはず」

「結構あるな。一本ずつ調べてる暇はないぞ」

「洞窟の入口とは反対に行ったはずだ」

「それで反対に道は何本あったんだ?」

「……すまない」

「俺が先に下調べに行くか。内部の構造が解れば動きやすいだろ」

「駄目だ。そんな時間はない」

「まだ魔物は戻って来てないんだろ?」

「洞窟に行けば、ちゃんと思い出すから」

「そんなの当てにして見つからなかったらどうすんだよ」

「それでもし、お前が戻って来なかったら、私はどうすればいい……」


力のないクメギの声に俺は言葉を詰まらせた。

もし魔物が洞窟内に逃げ込んでいれば、鉢合わすかもしれない。

それで、俺が襲われ傷を負ったら洞窟を調べるどころの話ではなくなる。

計画は中止。クメギの傷は癒えず、俺の事も負い目に感じるだろう。


「分かったよ、行けば思い出すんだろ。下見はなしだ」


クメギは安心したように頷いた。


モフモフ七つと俺とクメギを足して三で割れば三つに割れる。

魔物を引き連れて奥に行ったとしても、そう遠くまで行けないはずだ。

洞窟の入り口と反対の通路を三つ選び、分かれて捜索すれば見つかるだろう。


気が付くと辺りはだいぶ暗くなっていた。

必要な物はクメギが持ってくると言うので任せる事にして、村に戻る事にした。


村に戻ると俺を訪ねてきた子がいると門番が教えてくれた。


「それにしてもあんな子供が、旅をするなんてねえ」


俺を訪ねてくる人なんかいるはずがない。それも子供。

訪ねてくると言えば、子供じゃないがデォスヘルか。


「それって黒革の服でした?」

「黒いローブの子だったよ」

「それで、今どこに?」

「村長の家に連れていったよ」


俺は表情を変えずに門番に礼を言う。

そのままクメギとも別れ、村長の家に向かった。


おかしい事が三つある。

俺はその子供を知らないが、向こうは俺を知っている。

俺を訪ねて来たって事は何か用があるのだろうが、俺には心当たりもない。

一番気になるのが、なぜこうも簡単に村に入る事が出来たのか。


村長の家に行くとちょうど村長が家から出てきた。

今から夕飯の支度だと言う。


「ちょっと待ってください。俺を訪ねてきた子供がいたと聞いたんですが?」

「その子ならふらっと家を出ていったよ。村の何処かにいるんじゃないか」

「子供が一人で、怪しいとは思わなかったんですか?」

「何で子供が怪しいんだね。私は一人でも二人でも怪しいとは思わんよ」

「子供だけで旅してたらおかしいでしょって言ってるんです」

「私からしたら君だって子供じゃないか」

「俺だって村に入るまで無茶苦茶怪しまれましたけど……」

「そういう頃もあったなあ」

「懐かしむ所じゃないから!」


この村長と話していても埒が明かない。何かされたのか。

他の村人にも話しかけたが、曖昧な答えが返ってくるだけで話が通じない。

何かをされたんだと確信に変わる。

誰も当てに出来ず、俺は村の中を探し回る羽目になった。

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