19.進め!村改良計画

風玉を上手く使いこなす為に、村付近の木を伐る日々が続く。

角材、木の板と、作れるものが増えていく倍以上に薪材が増えていった。

使い魔としてのモフモフの働きも大きかった。

小さい体でも木を三等分した丸太を軽々と運ぶのだ。

遠くから見れば地面すれすれに浮いた丸太が、移動しているように見えるだろう。


日が暮れ始め、俺は村へと戻っていた。

前には丸太を抱える二つのモフモフがいる。


「そろそろ村周りの木は辞めといた方がいいかもな」


何故とモフモフの一つが振り返り、丸太が俺の脛を掠めていく。


「危ね! 急激に振り返るなよ」

「何故?」


もう一つのモフモフが振り返りまた俺の脛を襲う。


「危ねえって! 耳以外振り返るな!」

「わかった」


声を揃えて後ろ向きに歩いていたモフモフが前を向く。

必然的に左右の丸太が俺の脛を襲う。

丸太の一つを避け切れなかった俺は痛さに声も出せず、もんどり打ってその場に倒れ込んだ。

夕日に消えていく二つの丸太と、地面を転がる俺をナビが静かに見守っていた。


村に着くと、足を引きずっている俺に気が付いたルーフが駆け寄ってきた。


「足、どうかしたんですか?」

「心配すんな。脛に丸太が飛んで来ただけだ」

「どういう状況ですか、それ!」


微妙な笑顔でその場をやり過ごし、俺は村長の家に向かった。

俺の木材の腕も上がってきた所で、村の改良を村長に相談したかったのだ。

まずは塀を作り、見張り台や家も作り変えれば、少しは立派な村になるだろう。

俺の話を聞き終えた村長は、静かに言った。


「君も仕事があるのに、村の為になぜそこまでしてくれるのだ。村に住む者としては嬉しいが……」

「全てが村の為とは思ってません。自分の技術を磨く為でもありますし、ここに村がある事で安全を得ているのは、自分も変わりません」

「わかった。君の手伝いが出来る用、村には伝えよう」


村長との話し合いは早々に終わり、俺が外へと向きを変えた時だった。


「そういえば足を引きずってるみたいだが、怪我でもしたのかね」

「脛に丸太を受けてしまって……」

「おお。そうか私も昔、膝に肘を受けてしまってな」

「その節は、変な突っ込みしてすいません」


さっきルーフに言われて俺は、何とも言えない気持ちになった。

村長に対して俺も同じ事を言った時、村長は傷ついただろうか。

下手に突っ込むもんじゃないなと強く思った。


「何のことを言ってるのかね?」

「いえ、何でもないです」


本気で何の事かと聞いてくる村長に、俺は勘ぐって謝るもんじゃないなと強く思った。


気持ちを切り替え、俺は水を満たしに回った。

風玉を使う様になって、そっちを集中してできるように、水の補充は少しずつやるようにしていた。

絶えず満タンにとはいかないが、それに近い状態を保つようにしている。

その内、川から村に水を引けるようにすれば、俺がいなくなっても水の心配はなくなるだろう。


夕食になり、何時ものように村全体での食事が始まると、一人で座っていた俺の横にログが寄ってきた。

夕食で会う以外はずっと畑仕事をしているログと余り関わる事がない。


「最近、どうだね。薪割の仕事を君がやるようになったと聞いたが」

「自分の腕を磨いていたら薪が増えるんです」

「よくわからんがそういう魔法か」

「まあ、そんな感じですかね。それより、畑の方は広げたりしないんですか?」

「ゆくゆくは広げていきたいものだな」


塀は今ある柵の外側に作ろうと計画していた。

塀で村を囲み、今ある柵は塀の外側に並べれば、塀を簡単に破られないで済むだろうという考えだ。

そうなると村が少し広くなる。

今の畑は中央寄りに小じんまりとあるだけで、柵からだいぶ離して作られている。

それほど大事な食糧という事だ。

魔物に踏み荒らされたとしたら、また安定して作れるまでにどれくらいかかるか分かったものではない。

塀を作って外壁を固めれば、安心して畑を広げることも出来るはずだ。

ログさんにもそういう計画があると言うと、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「場所があってもそう簡単に広げられないとは思うが、期待してるよ」

「耕す人手が足りないとか?」

「人では足りてるが、作物にあった土を作らないといけないからな。種もまだ十分な数とは言えんし、実もまだ小さい。少しずつこの土地に合った作物として変わってきてはいるが、安定とは言えなくてな」

「この土って使えますかね?」


土の玉を作って地面に落としてみる。

土が出てきたことに感心しながら、ログさんは土の感触を確かめる。


「生きてるとも死んでるとも言えん妙な土だな」

「俺には土の事は良く分かりませんが、畑の土として使うのにはダメそうですかね」

「鉢で育ててみるのも悪くないかもしれん。後でその土を持ってきてくれないか」

「ええ、時間置いてくれればまた出せるので良いですよ」


「また、変な使い方をしようとしてますね。ちゃんと攻撃してください。もう敵じゃなくて畑でも良いんで」


夕食を食べ終わった頃、呆れたようにナビに言われた。


「畑ってのは攻撃じゃなくて、育てていく物なんだよ!」

「土玉っていうのは育てる物じゃなくて、攻撃する物なんですけどね」

「細かいこと言ってんじゃねえよ!」


俺は強引にナビを叩いて黙らせると、そそくさと逃げ出した。

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