9.用法容量は正しくお使いください

「水汲みの仕事に付けるように、父に許可をもらってきます」


口早にそう言ったルーフを見送り考える。

今の段階で俺は水玉以上の水魔法は使えない。

水の玉十発で水瓶が満たされるとしたら、次の魔法を取ればそれ以上の量を得れるのか。

魔力の消費以上に水が増えるなら魔法を取った方が節約になる。


「なあ、ナビ。次の魔法を取るとして一番水量の多い魔法はどれになるんだ?」

「水量を想定していなかったので分かりません」

「そう言われればそうか。本来は、戦闘魔法としてあるんだもんな」


俺は魔法の画面を出して考える。

身体強化で身を守るのは量が多かったとしても、回収出来ないらしいので却下。

単体よりは複数攻撃の方が量は多そうだが、どういう攻撃方法かによるな。


「水の複数攻撃ってどういったものなんだ?」

「掌から高圧放出される放水砲です。放出が数秒間続き広範囲にダメージを与える事が出来ます」


放水砲か。暴徒鎮圧で直撃した人が転倒したりするのをテレビで見た事がある。


「単体よりも量が多くなるってことだよな」

「多くなりますが、水瓶を破壊することになるでしょうね」

「ゆっくり放出とか出来ないの?」

「それで敵が倒せるとでも?」

「……だよな」


基本魔法は慣れてない事を考えて、掌に玉を作ってから放出の二段階になってるが、他は即発動するという。

ターン制の戦闘だとしたら攻撃に準備ターンがあるより即攻撃できた方が有利だし、その点については異論はない。

そうなると単体魔法を取ったとしても即発動で水を溜めるのは難しそうだ。


残るは水の魔法障壁。

壁を作った後どうなるかが問題になる。


「次取れる魔法障壁は、自分の前面を守る属性に準じた壁が発生します。効果時間が切れた時点で崩壊します」

「崩壊するってどういった具合に?」

「地は崩れ土塊に。水は流れ落ち、火は燃え尽き、風は四散します」

「という事は水の壁を作って下に水を貯めれるような器があれば水を確保出来そうだな」

「そうなります」

「問題は水の量が多くなってるかだが、さすがに拳大の玉より壁の方が多いだろう。いや、壁の厚さにもよるのか」

「水の玉と壁を比べてどちらが水量が多いのかと聞かないで下さいね。そういった考えで作られていませんから」


ナビに先手を取られてしまった。


「じゃあ、魔力消費はどうなってんだ?」

「消費は魔法の段階ごとに三倍されます」

「三、六、九、十二と増えてくのか。……ん、それって四段階目で限界超えてるんだが」

「数値はアイテム、魔法、装備品、ポイントによって増やす事が出来ます。アイテム、魔法は限られた時間、装備品は装備時に限り上昇します。ポイントは使用したポイントと同等の数値が永続的に加算されますが、上昇値は他と比べて下がります」


ポイントで数値上昇はよっぽどの事がない限りしないだろう。

それにポイントを使うよりは、新しい魔法かスキルを選択した方が得だ。

魔法よりスキルを作り出す方が得られるものが大きいと俺は思っている。

今は数値上昇の事を考えなくても大丈夫だろう。


問題は魔法障壁を取るか否かだ。

今あるのは四ポイント。

他にやりたい事もあるから下手に使いたくはない。

三十分経てば全快すると考えれば、無理に水の壁を取らなくて良いような気がしてきた。

毎日二軒分の水を確保するとして朝一水を満たせば一時間後からというか、一度に水瓶を満たそうせず余裕を持って水を増やしていれば、不意に魔法を使う事態が来ても大丈夫じゃないのか。

色々考えた結果、魔法障壁は取らないと決めた。


それよりルーフは遅いなと村長の家の方を伺ったら、すぐ側に立っていた。


「何時の間に!」

「えっと、何かと話したり悩んだりされていたので話しかけ辛くて……」


ここでも見えない精霊の話を説明し、怪しい宣教師の様に気にしなくても良いと告げた。


「精霊が?! 見えなくて残念です」


ルーフはナビと違って本当に素直な子だ。


「私も素直な意見を言う子です。間違ったことは言ってません」

「お前は素直に間違った方向に進んでいく子だろ」


ナビには冷たい視線を送っておく。


見たいと言っても今の俺には見せる精霊というものがいない。

ナビが精霊という訳でもないが、何か俺に見せれるものがあれば良いんだが。

暫く考えた俺は妙案を思いつく。

精霊じゃないが、それとなく説明を付ければ見せれるはず。


「精霊じゃないが、今度、おもしろいものを見せてあげるよ」

「本当ですか!」


無邪気に喜ぶルーフに俺は笑顔で頷いた。


「それで、俺の仕事って水汲みでいいの?」

「あ、忘れてました。その事で父に一緒に来るように言われてたんでした」


魔法について聞かれるのだろう。

腕時計を見ると、最後に水の玉を出してから三十分以上経っていた。


「じゃあ、行こうか」

「はい!」


俺はルーフに続き、村長の家へ向かった。

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